愛聴盤(34)デュオ・クロムランクによるシューベルト「幻想曲」D 940
かつて、デュオ・クロムランクというピアノ・デュオが活躍していたことをご存知でしょうか。
デュオ・クロムランクは、ベルギー生まれのピアニスト、パトリック・クロムランク(1945-1994)と、彼の妻で日本人ピアニスト桑田妙子(1948-1994)によるピアノ・デュオ。ウィーンで知り合った二人は、1974年からデュオとして活動を開始しますが、音楽家として絶頂期の1994年、パトリックが自殺。それを発見した桑田さんも、その後を追って、自ら命を絶ったのです。
さぞ詳しげなことを書きましたが、私は決して二人のことに通じているわけではありません。彼らの足跡をたどる手掛かりは、手元にあるレコード盤。フランスのPAVANE RECORDSからリリースされたレコード3枚。1990年代初頭に購入した当時秋葉原にあった石丸電気で購入したものです。
・ブラームス:ハンガリー舞曲集 (PAVANE ADW7010)
・ブラームス:愛の歌op.52a /新・愛の歌op.65a (PAVANE ADW7042)
・シューベルト:幻想曲op,103 D940/3つの英雄的行進曲 Op.27 D 602 (PAVANE ADW7094)
私の若い頃は、そんな彼らの音楽性を十分理解できず、長いことレコード・ラックにしまったままでした。ようやく二人の音楽の深みに気づいたのは、50歳を超えた頃のことです。アナログレコードという音楽媒体の良さは、再生機器用意できいれば、何十年も経過しても再生可能なところにあります。(それに比べて、パソコンやスマホなど電子機器の寿命の短さと言ったら!)
今日は、シューベルトの「幻想曲ヘ短調D 940」を取り上げます。先日、鈴木愛美さんのコンサートで、小川典子さんとの連弾でこの曲を聴いて、あらためて聴きたくなったのです。
コンサートレビュー:ピアニスト鈴木愛美さんを聴く2/23|すえきち
たまたまネットで、ピアノを弾く二人の写真を見て意外だったのが、プリモ(高音部)がパトリック、セコンド(低音部)が桑田さんだったこと。私はすっかり、逆だと思い込んでいました。
デュオ・クロムランクの奏でる音はとても内省的で、華やかさはありません。シューベルトの死の年1828に年に書かれた、幻想曲ヘ短調D 940をあらためて聴いてみると、彼らの音楽性にぴったりの楽曲です。ピアノ・ソナタほど演奏機会に恵まれませんが、あらゆる連弾曲の中でも、名曲に数えられるものでしょう。
この曲は、シューベルトが密かに恋心を抱いていた、カロリーネ・エステルハージに献呈されました。プリモの左手とセコンドの右手が交差してしまう箇所もあるのですが、これはシューベルトが、カロリーネと連弾することを想定して、互いの手が触れるように意図的に書いたとも言われています。
この曲は、4つの楽章からなり、途切れなく演奏されます。
第一楽章の第一主題。シューベルトの音楽が凝縮されたような切ない旋律に気持ちが吸い寄せられます。そして、決然とした第二主題は、胸に迫る切実さがあります。決然と奏でられる第二主題の激しさは胸に迫ります。
第二楽章は、ゆったりとしたテンポで、壮大な音楽が聳え立ちます。トリルが夢破れた者の嘆きのような悲劇性を際立たせます。第三楽章のスケルツォは、一転、肩の力が抜けて諧謔性を表現しますが、二人はピッタリの息遣いで三拍子を刻んでゆきます。最後は悲痛な叫びをあげ、沈黙の後に第四楽章へ。
第四楽章は、最初の第一主題が悲しみと共に、形を変えて奏でられます。この緊張感が素晴らしいです。さらに、この後に、ポリフォニーが始まりますが、常に一緒に演奏しているデュオならではの音楽の統一感は、実に聴きごたえがあります。終結部は悲しみの音色は実に印象的です。
最晩年のシューベルトの音楽は、切なく、聴く者の心を打つ音楽です。そして、闇を覗くような一種の危うさも含んでいます。デュオ・クロムランクは、力強い表現でその魅力を最大限に聴かせます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
