スタッフの「伸び盛り」を見逃さない。個人の成長フェーズと適材適所のバトンパス
皆さん、こんにちは。Dr. Jです。
普段は大学病院のICU(集中治療室)という極限の現場で、「救命の先にある『人生』」を見据えながら、同時に組織と人の在り方について日々考えを巡らせています。
ICUは非常に高度な知識と技術が求められるため、若手スタッフの育成にはどうしても時間がかかります。教える先輩スタッフとしては、「なるべく早く一人前になってほしい」「早く使えるようになってほしい」と焦る気持ちが生まれるのも当然のことです。
しかし、人の「成長スピード」というのは、決して全員が同じ右肩上がりの直線を描くわけではありません。
今回は、私がいま現場で一緒に働いている「ある若手看護師の同期グループ」のエピソードを通じて、スタッフの「成長フェーズ」に合わせたマネジメントと、仕事を「任せる」ことの本当の意味について書きたいと思います。
最初の成長がゆっくりだった彼女たちの「伸び盛り」
いままさに、ある年代の若手看護師たちが、揃いも揃って目を見張るような「伸び盛り」のフェーズに突入しています。
実は彼女たち、入職したての頃は、決して最初から要領よく何でもこなせるタイプばかりではありませんでした。最初の成長スピードはどちらかというとゆっくり目で、焦りを感じている時期もあり、一見すると「バーンアウト(燃え尽き)してしまうのではないか…」と心配になることもありました。
しかし彼女たちは、同期同士で時に愚痴をこぼし合い、支え合いながら、誰一人脱落することなく厳しいICUの環境を耐え抜きました。彼女たちの芯の強さと、同期というセーフティーネット(心理的安全性)の賜物だったと思います。

そして今、重症患者をしっかり診られるようになり、自分から学ぶ意欲が前面に出てきました。「吸収しやすい成長フェーズ」へと一気に突入したのです。
「誰をどのバスに乗せるか」適材適所を探る1on1

伸び盛りの彼女たちに、少し背伸びをしたプロジェクトを任せてみようと、私は順次1on1(個別面談)を行いました。
たとえば以前、私が関わっているシミュレーション教育のメンバーとして、「メンバーに推薦したい子がいるんです」とあるスタッフから話がありました。
彼女も確かに伸び盛りで、やる気があり、私としてもシミュレーションチームに加わってもらえたら非常にありがたい人材でした。
しかし、1on1をして彼女の「なりたい姿」をじっくり引き出してみると、彼女が進みたい未来のベクトルは、シミュレーション教育のファシリテーターとは少し別の方向にあることが分かりました。
「彼女のモチベーションを一番引き出せるのは、この役割ではないな」と判断し、私はあえて彼女をシミュレーションメンバーには勧誘せず、本来進みたいベクトルで成長できるルートをいくつか提示しました。
一方で、別のスタッフは「急変した患者さんや救急搬送された患者さんをバリバリ助ける先輩の姿に憧れてICUを希望した」という熱い想いを秘めていました。しかし、自分に自信が持てず、シミュレーショントレーニングの場でさえ緊張のあまりパニックになり、動けなくなってしまうことが多かったのです。
最近ようやく重症患者さんを少しずつ診るようになり、「少しは分かるようになってきたから勉強したいけれど、何をどう勉強したらいいのか分からない…」と悩みを打ち明けてくれました。
そんな、熱意はあるのに自信なさげな彼女に、私はいっそシミュレーションの「ファシリテーター側(運営・指導側)」のメンバーになるのがいいんじゃないかとふと思い、そのことを提案してみました。現場を俯瞰して見る余裕が生まれれば、パニックにならずに全体像を掴む感覚が養えると直感したからです。
「あ、その方がいいかもしれません」と、彼女は腑に落ちたように、目の前がパッと明るくなったような表情を見せてくれました。

これからの見通しですが、その伸び盛りの同期全員と、何らかの別のプロジェクトで繋がることになりそうです。
しかも、そのうち一人は自走に近い形でプロジェクトを進めつつあり、自分のプロジェクトに同期全員を巻き込んで発展させていくような、頼もしいところまで来ています。
あの時、全員に同じ「正解」を与えなくて本当に良かったと思っています。
「できるようになってから任せる」の落とし穴
今回の若手スタッフたちの目覚ましい成長を見て、改めて強く感じたマネジメントの教訓があります。それは、「吸収しやすい成長フェーズに入るタイミングには、大きな個人差がある」ということです。

そしてもう一つ、絶対に忘れてはいけない構造があります。
それは、「できるようになっていないから任せない」という姿勢では、いつまで経ってもそのスタッフの「成長フェーズ」はやってこないということです。
もちろん、医療安全の観点から「絶対に任せてはいけないライン」は死守する必要があります。しかし、そのラインさえ守られていれば、本人の「コンフォートゾーン(快適で安心な領域)」から少しだけはみ出した「ストレッチゾーン」であえて仕事を任せてみること。
それこそが、本人のスイッチを入れ、くすぶっていた成長曲線を一気に跳ね上がらせる最大のトリガーになるのです。

スタッフの「フェーズ」に敏感になる
私たち集中治療医は、患者さんの状態が悪化したり上向いたりする「治療のフェーズ」の変化に非常に敏感です。
マネジメントも全く同じです。
リーダーや先輩は、スタッフの技術的な上手い下手だけでなく、今そのスタッフが「どの成長フェーズにいるのか」に敏感でなければなりません。
最初はゆっくりでも、仲間と支え合いながら腐らずに続けていれば、必ず「伸び盛り」の時期が来ます。その機が熟したタイミングを見逃さず、1on1で真の想いをすくい上げ、コンフォートゾーンの外側に「バトン」を渡してあげること。

若手スタッフたちが、同期の強い絆を活かしながらそれぞれ別のプロジェクトでイキイキと自走し始めた姿を見ながら、私自身も指導者として教えられることが多いなと感じる日々です。
皆さんのチームにも、いま「伸び盛り」のサインを出しているスタッフはいませんか?
Dr. J
集中治療医
「救命の先にある『人生』」を見据え、ICUという極限の現場から、組織と人の在り方を問い直す発信を続けています。
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※プライバシー保護のため、実際の事例から一部情報を抽象化して記載しています。
