「緩斜面と急斜面を同じに」の落とし穴
スノーボードでは、
「緩斜面でも急斜面でも、やることは同じ。」
こんな考え方を聞くことがあります。
確かに、基本となる動きや考え方には共通する部分があります。
でも僕は、全部を同じに考えてしまうのは少し危険だと思っています。
なぜなら、
斜度が変われば、受ける外力が変わるからです。
緩斜面と急斜面。
同じ雪の上に立って、同じボードを履いて、同じ人が滑ったとしても、条件は同じではありません。
大きく変わるのが、落下力です。
斜度が緩ければ、斜面下方向へ落ちようとする力は小さい。
斜度が急になれば、その力は大きくなります。
つまり急斜面では、自分が何かをしなくても、すでに強く落とされる環境にいるわけです。
ここを無視して、
「緩斜面と同じ動きをすればいい。」
と考えてしまうと、滑りを自分の運動だけで解決しようとしてしまいます。
例えば緩斜面では、積極的に落下方向へ動くことで、スピードを生み出しやすくなることがあります。
落下力が小さいので、自分から動いていくことがプラスに働く。
でも、同じことを急斜面でやったらどうでしょう。
急斜面では、すでに大きな落下力が働いています。
そこへさらに自分から落下方向へ動けば、必要以上に落ちてしまいます。
ターン後半でボードがずれる。
ラインが下へ流れる。
次のターンに間に合わない。
同じ運動をしているのに、結果が変わってしまうんです。
だから大切なのは、
自分が何をするかだけで考えないこと。
その前に、
今、どんな外力を受けているのか?
を考えることです。
斜度が変われば落下力が変わる。
速度が変われば遠心力も変わる。
雪質が変われば、ボードが雪面から受ける抵抗も変わります。
環境が変われば外力が変わり、外力が変われば、それに対する人間の運動も変わる。
僕はこれが自然だと思っています。
もちろん、
「外力なんて関係ない。自分の力で全部ねじ伏せる。」
という滑り方ができないわけではありません。
アスリートとして鍛え抜かれた身体があって、外力をすべて理解した上で
「最後は筋力でやる!」
と割り切るなら、それも一つの方法だと思います。
でも、そんな人はほとんどいません。
僕自身も、できるだけ筋力だけに頼って滑りたいとは思っていません。
スノーボードは、自然の中でするスポーツです。
斜度があり、重力があり、速度が生まれ、ターンすれば遠心力が生まれる。
それらを無視して、自分の運動だけを考えると、滑りはどんどん難しくなります。
反対に、
外力を理解して、その力に合わせて自分の運動を変える。
そう考えると、急斜面だから特別なことを頑張る必要はなくなってきます。
「緩斜面と急斜面を同じに。」
一見するとシンプルで分かりやすい考え方です。
でも、本当に同じなのは基本となる考え方であって、そこで起きている現象まで同じではありません。
斜度が変われば、外力は変わる。
外力が変われば、運動も変わる。
自然が変わったら、人も変わる。
そこまで含めて考えることが、いろいろな斜面を自由に滑るために大切だと思っています。
言語化の鬼 青木玲でした。
青木 玲|プロスノーボーダー
30年以上の滑走・指導経験をもとに、スノーボードの感覚や技術を、理論として言語化・体系化している専門家。
全日本スノーボードテクニカル選手権優勝4回。その後、同大会の主任ジャッジを10年間務める。YouTube「青木玲のスノーボード大学」でも、スノーボード技術、セッティング、バランスについて発信しています。
▶︎ YouTube|青木玲のスノーボード大学
https://www.youtube.com/@rei.snowboard
