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先生ッ!!!東京が寝ています。

「旅に出ろ!!!」

田舎の高校1年生だった私は、担任のI先生が口癖のように言うこの言葉をずっと聞き続けていた。ホームルールで、自分の授業で、『ノルマでもあるのか?』と思うくらい、隙あらばI先生は生徒達に言っていた。

(旅っていったって、うちの高校はバイト禁止だし、そんなお金ないしなぁ…)

旅に出る気もお金もない私は、ボンヤリその言葉を聞き流していたが、友人Mは違った。同じくお金はないが、旅に出る気は満々だった。

M「青春18きっぷを使って東京に行こう」

(…行くの?東京に…?あの東京に…??)

東京と言う名の千葉にある夢の国にしか行ったことがなかった私は、激しく動揺した。

続けてMはこう言った。

「人力舎のお笑いライブがあるから観に行こう」
「絶対行くッ!!!!!」

その後、お笑いに興味はないけれど東京に行きたい友人2名も加わり、田舎女子高生4名での東京行きが決定した。

青春18きっぷ
JR全線の普通・快速列車の普通車自由席が、連続する3日間または5日間乗り放題となるお得なきっぷ。

AI による概要より抜粋


当時はまだ夜行快速(※)という、夜中に出発して明け方に着くという、まさに旅っぽい移動ができて、追加料金なしという、お金がない高校生にとってありがたい乗り物があった。

(※)気になって調べてみたら、高速バスやビジネスホテルへのシフトによる需要減少、コロナ禍での利用低迷が理由でいつの間にか廃止されていた。

あの時はありがとう♡夜行快速!


皆で計画を立て、青春18きっぷとお笑いライブのチケットを購入し、いよいよ出発の日が近づいてきたある日、I先生に「うちら旅に出るよ!!!!」と伝えた。

「おぉ!そうか!どうやって行くんだ?」と聞いてきたので「青春18きっぷで行く」と答えると、さらにI先生のテンションは上がって「おぉ!あれはいいよ!いいルート選んだな!」と、ずっと嬉しそうにしていた。そんな先生の姿を見て、私も何だか嬉しくなったのを覚えている。

そして、いよいよ出発の日───。

夜中に家を出るという非日常もあって、ずっとフワフワしていた。駅で4人で待ち合わせをして、いよいよ夜行快速へと乗り込む。

寝て起きたら東京───。

夢のようなシュチュエーションに心を躍らせ、電車に揺られながら、皆で眠った。

到着したのは早朝で、まだ5時頃だったと思う。

東京に着いたら何とかなると思っていた私達だったが、駅を降りて愕然とする。駅前はまだ閉まっているお店が多く、思っていたよりも静かだった。

眠らないと聞いていた東京が、目の前で熟睡している。耳を澄ませば、スヤスヤと寝息が聞こえてきそうだった。

少し歩けばやっているお店もあったかもしれないが、当時の私達は『駅前が1番東京だ!』と思っていたので、ここから離れたらもっと何もないだろうと信じて疑わなかった。辺りの看板を見渡すと、1番早くに開店しそうなのがドトールコーヒーだった為、その場でひたすら目の前のドトールがオープンするのを待った。

季節は初夏だったけれど、まだ早朝で少し肌寒かった。さらに、私が『東京に行く服』として張り切って選んだのは上下共に薄着だった為、とにかく寒かった。

思ってたのと違う東京を目の前にし困惑した私達は、とりあえずI先生に電話をかけた。たぶん時間はまだ6時にもなっていなかったと思う。

「…は"い"…。」

早朝に生徒からの電話で起こされ、声もまだ上手く出ないI先生が電話に出る。

「あ、もしもし?先生ッ!東京ついたんだけどさ、お店どこもやってないの。東京ってさ、眠らない街なんじゃなかったの?めっちゃ寝てるんだけど!?」

「....…。」

この日、I先生は「旅に出ろ!」と言い続けた事を少しだけ後悔したかもしれない。貴重な休日に仕事関係者わたしたちから心底どうでもいい電話がかかってくるだなんて…私だったらとっくに絶望している。

その後の記憶は断片的で、たぶんオープンしたドトールで朝ご飯を食べて、何とか乗り換えをしてお笑いライブ会場に着いたんだと思う。

おぎやはぎ、北陽、アンジャッシュ、アンタッチャブル、ドランクドラゴンなど今はもうなかなかネタを見られないベテランコンビがまだまだ現役で出演していて、目の前にはエンタの神様達がいた。会場は想像以上に客席との距離が近く、『東京の距離感すごい…』と思った事だけ覚えている。

帰りもまた長時間かけて帰る為、バタバタと夕方には東京を出た。

滞在時間12時間もない私達の旅が終わった。

*

その後も東京には何度か行った。次はホテルに泊まって、しっかり東京観光も楽しんだ。新幹線で行った東京は、めちゃくちゃ近かった。

けれど『東京』と聞いて私が思い出すのは、なぜか高校生の頃に青春18きっぷで行ったこの旅だ。

消灯された夜行快速の窓から、寝ぼけまなこで見た少しずつ出てきた朝。

東京駅の朝の静けさを目の前にし、『東京も寝るんだ?!』と世紀の大発見をしたかのようなあの衝撃。 

ホテルに泊まるお金もなくて、0泊2日の長時間移動でバキバキになった身体。

家に帰って、ベッドで泥のように寝た夜。


全部東京だった。



#わたしと東京

#賑やかし帯
#なんのはなしですか ®


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