【ガラスの庇護、背徳の檻~義父と私の秘密の共犯関係~】第一章:仄暗い視線
第一章:仄暗い視線
「じゃあ、親父のことよろしくな。何かあったらすぐ連絡して」
朝、夫がいつものように仕事へ向かうのを見送った。玄関のドアが閉まり、カチリと鍵がかかる音が響く。その瞬間、張り詰めていた家の中の空気が、ふっと奇妙な重さを帯びる。
この家に、私と、あの人の二人きり。
夫の父親が「最近どうも体の調子が良くない」と言い出したのは、数ヶ月前のことだった。心配した夫が「うちで一緒に暮らそう」と提案し、同居が始まってから、私の日常は音を立てて狂い始めている。
トントン、と包丁でリンゴを剥く音が、静まり返ったキッチンにやけに大きく響く。
お盆の上に、薄く切ったリンゴと白湯を載せ、私はゆっくりと階段を上がった。二階の突き当たりにある、義父の部屋。
「お義父さん、失礼します。体調はいかがですか……?」
ノックをしてドアを開けると、遮光カーテンが引かれた薄暗い部屋の奥、ベッドの上にその人はいた。
体を起こし、壁に背を預けている。病人の割には、その背筋はどこかしゃんとしていて、大人の男の逞しさを隠しきれていない。
「……ああ、すまないね。いつも手を煩わせて」
掠れた、けれど低く鼓膜を揺さぶる声。
私はお盆をサイドテーブルに置き、ベッドの脇に腰掛けた。
「いいえ、気にしないでください。夫も心配していましたから」
そう言って微笑み、リンゴを差し出そうとした瞬間――身体が硬直した。
見られている。
義父の、濁りのない、酷く冷徹で、それでいて熱を孕んだ瞳が、まっすぐに私を射抜いていた。
体調が悪い、というのは嘘ではないのかもしれない。けれど、この鋭い視線は、とても病人のそれではない。
同居が始まってからずっと、気づいていた。
私が食事を運ぶ時も、服の汚れを拭う時も、この人は一瞬たりとも私から目を逸らさない。まるで、獲物の動きを観察する肉食獣のように、じっと、執拗に、私のすべてを値踏みするように見つめ続けている。
「お義父、さん……?」
居心地の悪さに声を震わせると、義父はフッと口元を歪め、ゆっくりと大きな手を伸ばしてきた。私の手首が、熱い指先にガシリと掴まれる。
「本当に、優しい子だ……。あいつには、もったいないくらいに」
掴まれた手首から、ドクドクと心臓の鼓動が伝わっていく。
夫が外で働いている、真っ昼間のこの家で。
義父の視線が、私の胸元から、怯えに震える唇へとゆっくりと降りてきた――。
