見出し画像

だれやめは「社会からのログアウト」。娘に「なんで毎日お酒を飲むの?」と聞かれた夜の答え。|だれやめ語り

「ねえパパ、なんで毎日お酒飲むの?」

夜のしじまに、ふっと投げかけられたその言葉は、冷えたビールを喉に流し込もうとしていたおいちゃんの動きを、ピタリと止めました。

声の主は、我が家の小さな天使。
まだ小学校にも上がらない娘の瞳は、一点の曇りもなく純粋で、だからこそ、その問いは鋭い刃物のように、おじさんの胸の奥をチクリと刺したのです。

「うーん、なんでかなぁ。美味しいからかなぁ」

とりあえず、てげてげ(適当)な返事でお茶を濁してみたけれど、娘は納得がいかない様子で、僕が持っているハイボールのグラスを不思議そうに覗き込んでいます。

横では息子も、パパがいつ「あの儀式」をやるのかとニヤニヤしながらこちらを見ている。

さて、どう答えたもんか。
おいちゃんは、少しだけグラスを置いて、考え込んでしまいました。

氷のカラン、という「終了ベル」

実を言うとね、おいちゃんだって、家に帰り着いて玄関の鍵を開けた瞬間、そのまま冷蔵庫へダイブしたい日は山ほどあります。

でも、そこはグッと堪えるんです。
まずは「ただいま」と家族に声をかけ、ネクタイを外し、速攻でお風呂に飛び込む。
今日一日の、自分でも気づかないうちにこびりついた「社会の垢」を石鹸で洗い流す。

湯上がり、まだ体から湯気が立っている状態で、家族と少しだけ今日の出来事を話す。

この「焦らし」の時間が、実は一番大事だったりするんです。
自分をギリギリまで「飲みたい自分」へと追い込んでいく。

そして、いよいよその時が来る。

冷蔵庫からキンキンに冷えた缶を取り出し、人差し指に力を込める。

「プシュッ」

この音。

これが、おいちゃんにとっての「ログアウト・ボタン」なんです。
パソコンの電源を落とす音でも、タイムカードをガチャンと押す音でもない。このアルミの蓋が弾ける短い音が、僕を「戦場」から切り離してくれる。

その日の疲れを洗い流すように
一気に缶ビールを飲み干す。

続いて、グラスに大きめの氷を放り込む。

「カラン、カラン」

この高い音は、ボクシングの試合終了を告げるゴングのようなもの。
「はい、今日のおいちゃんの営業はここまで! 閉店ガラガラ!」という、自分への合図。

この音が響いた瞬間、僕はもう「中間管理職の〇〇さん」でも「責任者の△△」でもなくなる。
ただの、だらしない、お酒好きの「お父ちゃん」に戻るんです。

「もう、どこへも行けない」という最高の自由

「なんで毎日飲むの?」 娘の問いに
おいちゃんが本当に伝えたかったのは
「物理的な遮断」の話かもしれません。

お酒を一滴でも飲んでしまえば、もう車の運転はできない。
急な呼び出しがあったって
「すみません、もう飲んじゃったんで」と
胸を張って断ることができる。

今の世の中、スマホ一つあればどこにいたって仕事が追いかけてくるでしょう? メール一本、チャット一通で、心はすぐに会社へ連れ戻されてしまう。 でも、お酒という「聖域」に足を踏み入れた瞬間、僕は合法的に、そして物理的に、社会からログアウトできるんです。

「ごめんね、もうお酒飲んだから、今日はこれ以上お仕事できないんだ」

これは、自分を責める言葉じゃない。
自分を守るための、一番優しくて、一番強い
「拒絶」なんです。
そうやって強制的にシャッターを下ろさないと、僕らサンドイッチ世代の心は
いつの間にかオーバーヒートして
真っ黒に焦げ付いてしまうから。

「ぷはーっ!」という名のファンサービス

考え込んでいるおいちゃんの横で
娘と息子がまだかまだかと待っています。

よし、いつものやつ、いくか。

「……それはね、今日も一日、パパがパパに戻るための『魔法』なんだよ」

そう言って、おいちゃんは大げさにグラスを煽る。
喉を鳴らして、黄金色の液体を流し込む。
そして、顔を真っ赤にして、思いっきり息を吐き出す。

「……ぷはーっ!! うんめええええ!!」

その瞬間、子供たちは「待ってました!」と言わんばかりにキャッキャと笑い転げる。

「パパ、お顔がおもしろーい!」
「また飲んでるー!」

この笑顔が見たいから、おいちゃんはわざと大げさに、美味しそうに飲む。
本当は、仕事でトラブルがあって、胃のあたりがキリキリするような日もある。
正直、お酒の味が全然しなくて、ただ泥をすすっているような気分で飲む夜だってある。

でもね、子供たちの前では「最高の一杯」を演じ続けたい。
だって、彼らにとってのパパは、世界で一番幸せそうにお酒を飲む人でいてほしいから。
大人が楽しそうにしている姿を見せること。
それだって、立派な教育(?)じゃないか、なんて自分に言い訳しながらね。

不味い酒なんて、この世にないのかもしれない

中間管理職なんてやってると、毎日がドラマの連続です。
部下のミスを頭を下げて回り、上司からは無茶な数字を突きつけられ、板挟みになって右往左往。

そんな日は、「今日はやけ酒だ!」なんて息巻いてグラスを傾けます。
逆に、大きなプロジェクトが一段落して、心の底から達成感に震えながら飲む「ご褒美」の夜もある。

でも、不思議なもんです。
あとで振り返ってみれば、あの苦い「やけ酒」も、誇らしい「祝い酒」も、結局は全部「美味しい思い出」に変わっている。

なぜかって? それは、その一杯を飲んでいる時点で
僕が「今日という一日を、とにかく生き抜いた」という動かぬ証拠だからです。

どんなに最悪な一日だったとしても、最後にこの「だれやめ」に辿り着けたなら、その日は僕の勝ちなんです。
お酒が不味いと感じる夜は、それだけ一生懸命に戦ったという勲章。
お酒が甘いと感じる夜は、自分を褒めてやるためのご褒美。

そう思えば、この世に本当に不味いお酒なんて、ひとつもないのかもしれないね。

明日のために、今夜を「終わらせる」

「パパ、お酒飲んだら、もうお外行かない?」
娘が、僕の膝の上にちょこんと座って聞いてきました。

「行かないよ。もう、ここから一歩も動かない。パパは今夜、〇〇(娘の名前)のパパとして、ここでゆっくりするだけだから」

そう答えると、娘は満足そうに笑って、僕の腕の中で丸くなりました。

世のお父さん、お母さん。
毎日、本当にお疲れ様です。

あなたが今、手に持っているそのグラス。
それはただの飲み物じゃありません。
あなたが、一人の人間として、自分を取り戻すための
「ログアウト・ボタン」です。

誰に遠慮することはありません。
「もう運転できない」
「もう仕事できない」
そうやって自分に「終わり」を告げることは、明日また元気に「おはよう」を言うために、絶対に必要な儀式なんです。

もし、お子さんに「なんで毎日飲むの?」と聞かれたら、こう答えてあげてください。

「パパ(ママ)が、明日もまたあなたのパパ(ママ)でいるために、ちょっとだけ自分をリセットしてるんだよ」って。

さあ、おいちゃんも、もう一杯だけハイボールを作って、今夜の営業を完全に終了しようと思います。
氷が溶ける音を聞きながら、静かな夜を楽しみます。

明日もまた、てげてげ(適当)に、でも一生懸命に頑張りましょう。
今夜はもう、社会からログアウト。

それじゃあ、また。 「だれやめ」で会いましょう。

最高の焼酎水割りを求めて👇

おいちゃんの“だれやめ哲学”👇


いいなと思ったら応援しよう!