”Morning Shot”語学コンテストという名の「青春消費」に騙されるな/17歳の貴重な夏休みを、1万円の図書カードとペラペラの参加証に捧げる愚かな子供たちへ
語学力を試すんじゃない。大人が作った「都合の良い枠組み」に踊らされるのだ。
語学コンテストという名の「青春消費」に騙されるな

17歳の貴重な夏休みを、1万円の図書カードとペラペラの参加証に捧げる愚かな子供たちへ
「語学力を活かして経験が積める!」
「今こそ挑戦してほしい!」
毎年、夏の盛りに差し掛かると、この手の甘ったるいコピーがWebの海を漂い始める。眩しすぎるフォント、青空のフリー素材、そして「キミの可能性」という、世界で最も無責任な単語。
画面の向こうで目を輝かせている高校生やその保護者諸君、ちょっと落ち着いて冷たいお茶でも飲みなさい。
この手の「学生向け公募特集」を開くたび、私は胃のあたりがキュッと痛むのを感じる。そこに漂っているのは、純粋な学習意欲などではない。大人が子供に差し出す「安価な達成感」と、それを必死で買い求めようとする健気な若者たちの、あまりにも哀しい自意識の空回りだ。
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まず筆頭に挙がっている「英語俳句」。
関東学院大学が主催するこのコンテスト、音節に合わせて3行で季節を詠むのだという。
おいおい、冗談だろう。俳句の神髄である「切れ字」や余白の美学を、たった3行の英語に押し込めて何が「味わい深さ」だ。五・七・五のメタファーを解体し、アルファベットの音節合わせゲームに成り下がったそれを「伝統文化と英語の融合」と呼ぶ図々しさには感服する。賞品はクオカード1万円分。高校生が貴重な夏休みの数日間を費やし、ひねり出した英語の駄作に支払われる対価としては、随分と都合の良い金額じゃないか。
次に控える「高校生翻訳コンクール」。
「応募者全員に参加証が発行され、総合型選抜(旧AO入試)で活用できます!」と、主催者側は喉から手が出るほど欲しいエサをチラつかせる。要するにこれ、「AO入試の履歴書に1行書きたい」という浅薄な欲望と、「我が大学の名前を全国の高校生に売っておきたい」という大学側のマーケティングが合致した、極めて世俗的な取引なのだ。教員からのアドバイスがもらえる? 素晴らしい。だが、そのアドバイスで君の英語力が跳ね上がると思うなら、今すぐそのおめでたい頭を冷やした方がいい。
スピーチコンテスト、エッセーコンテスト、プレゼン大会……。
並んでいる文句はどれも美しい。「自分の言葉で伝える」「声をあげる」「SDGsで世界を良くする」。
ああ、耳が痛い。実に耳が痛い。
「SDGs」というワードを散りばめ、教科書通りの綺麗な発音で、誰も傷つけない優等生的な正論を暗唱する。審査員の大人はそれを見て「素晴らしいプレゼンスキルだ」と目を細め、Amazonギフトカードを投げ渡す。そこで評価されているのは、君の思考の深さでも、語学の刃の鋭さでもない。「大人が好む『イイ子』をどれだけ完璧に演じ切れたか」という、劇団員としての演技力だ。
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「ジョン・ニッセル杯」に至っては、競争率10倍を超えると鼻高々に謳っている。上位入賞者には上智大学の授業料減免。これはもう、明確な「人材の青田買い」だ。語学という刃を研ぎ澄ませた若者たちが、1万円の図書カードや「大学の学費割引チケット」という報酬に群がる。
勘違いしないでほしいのだが、私は若者が語学を学ぶこと自体を否定しているわけではない。言葉を獲得することは、世界を切り裂く新しい視点を得ることだ。
だが、公募というパッケージに包まれた途端、その挑戦は「実績づくり」という名の作業に成り下がる。
「今週も206人が登録しました」的な、どこかのサブスク商法と同じだ。「みんなやってるから」「入試に有利だから」「夏休みに何かやっておかないと不安だから」。そんな不純な動機で書かれた英語エッセイや韓国語川柳に、一体どんな「体温」が宿るというのか。
言葉とは、もっと毒を含んだものだ。
誰かを殴り倒すためのツールであり、自分の内側にあるドロドロとした醜い感情を、他人に叩きつけるための弾丸だ。それを「SDGs」だの「国際理解」だのという綺麗事のオブラートに包んで、ニコニコとステージの上で披露して何が楽しい?
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もし、君が本気で語学力を試したいのなら、こんな用意されたおままごとのステージなんて降りてしまえばいい。
1万円の図書カードのために、大人が喜びそうな「季節の英語俳句」をひねり出す時間があるなら、街に出て道に迷っている外国人観光客に、拙い英語で泥臭く話しかけてみろ。海外の掲示板に飛び込んで、拙い英語で喧嘩でも買ってみろ。そこで感じる「言葉が通じない恐怖」や「自分の無力さ」、そして「たまに通じた時の興奮」こそが、本物の語学力であり、君の血肉になる経験だ。
公募の賞状なんて、ペラペラの紙切れに過ぎない。
AO入試の面接官に「私、英語俳句で入賞しました」とアピールしたところで、向こうだって「ああ、またあの手のコンテストの参加者ね」と心の中で欠伸をしている。
大人が作った都合の良いレールの上で「頑張る自分」に酔いしれるのは、もうやめよう。
コンテストの締切日に追われ、パソコンの前で溜息をつく夏休み。そんなものに君の貴重な青春の1/4を捧げる必要なんて、どこにもないのだから。
〈了〉
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