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瀬尾ユタカのライターコラム「もう5分も無理」だった高齢者が、1時間以上もペダルをこぎ続ける理由。笑顔でつながる“遊び”と“予防”の最前線

【コラム】「もう5分も無理」だった高齢者が、1時間以上もペダルをこぎ続ける理由。笑顔でつながる“遊び”と“予防”の最前線


パチンコ、マージャン、eスポーツ……。「楽しい」からこそ自発的に動く。義務感ゼロのフレイル予防がもたらす、驚きの健康効果とシニアの居場所づくり。



こんにちは、ライターの瀬尾ユタカです。

突然ですが、みなさんは「運動しなきゃ」と思って始めたジムやランニング、どれくらい続けられていますか? 「健康のため」「将来のため」と頭ではわかっていても、単調なトレーニングを毎日コツコツ続けるのは、私たち現役世代であってもなかなか骨が折れるものです。

これが加齢に伴って心身の活力が低下する「フレイル(虚弱)」の局面にいる高齢者の方々なら、なおさらのこと。「脚腰が弱くなるから歩きなさい」「筋トレをしなさい」と言われても、義務感だけで動くのは苦痛ですし、そもそも体を動かすこと自体が億劫になってしまいがちです。

そんな「健康維持の義務感」という高いハードルを、「楽しいから、気づいたらやっていた」という魔法のようなアプローチで飛び越えさせてくれる取り組みが、今、福祉の現場で大きな注目を集めています。

今回は、名古屋の遊技機メーカーが開発したユニークな福祉機器を中心に、ゲームや遊びを取り入れた最前線のフレイル予防の現場を、書き手である私自身の視点と熱量をもってお届けします。

1. 「当たりを出したい!」が、95歳女性の足を動かす原動力


想像してみてください。95歳の女性が、汗を流しながら1時間半もの間、一心不乱にペダルをこぎ続けている姿を。

舞台は、愛知県飛島村の村営敬老センター。そこに導入されているのが、一見すると普通のパチンコ台、しかしその中身は全く新しい発想で作られた福祉機器「エアロビック・トレパチ!」(通称:トレパチ)です。

開発したのは、名古屋市にある遊技機メーカー「豊丸産業」。彼らが目をつけたのは、高齢者にとって馴染み深く、かつて多くの人が熱中した「パチンコ」の持つ圧倒的なエンターテインメント性でした。

「トレパチ」の仕組みと工夫

この機器の仕組みは、実にシンプルかつ画期的です。

  • ペダルと連動した玉の発射: 通常のパチンコのようにハンドルを回すのではなく、椅子の下に設置されたペダルを足でこぐことで、無線接続された台から玉が発射されます。

  • 脳を刺激するゲーム性: 玉が決まったポケットに入ると画面の絵柄が回転。アナウンスに合わせてタイミングよくボタンを押すことで、絵柄が揃えば「当たり」となります。

  • 施設への細やかな配慮: あくまでトレーニングが目的のため、当たりが出ても玉が増えることはありません。また、静養している他の利用者の迷惑にならないよう、玉の表面には大きな音が出ない特殊な加工が施されています。

この台に向き合った95歳の女性は、「当たりを出したいと思ったら長くこげた」と笑顔で語ります。

また、同じセンターに通う86歳の男性の言葉には、誰もがハッとさせられるリアルな本音が隠されていました。

「普通のフィットネスバイクは5分と続かないが、パチンコは気づけば1時間以上こいでいることもある。おかげさまで足腰に不安なく過ごせている」

「5分」と「1時間」。この圧倒的な差を生み出したのは、言うまでもなく「没頭できる楽しさ」です。ただ負荷に耐える5分間は永遠のように長く感じられますが、画面の演出に一喜一憂する1時間はあっという間に過ぎ去っていく。人間の心理を巧みに突いた、素晴らしいデザインだと感じます。

2. 数字が証明する効果と、副次的な「つながり」の処方箋


「楽しくて長く続けられるのはいいけれど、本当に健康効果はあるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、効果はしっかりと数字に表れています。

飛島村によると、この「トレパチ」を定期的に利用している人たちは、体力測定の数値が同年代の平均を上回る傾向がみられるそうです。村の担当者も「楽しみながら無理なく続けられ、運動が日常の中に自然と定着してきている」と、その手応えを語ります。

さらに、この取り組みがもたらす恩恵は、身体的な数値の向上だけにとどまりません。

孤立しがちな「高齢男性」を救うきっかけに

加齢による身体機能の衰えは、よく「脚」から始まると言われます。歩くのが億劫になり、外出が減り、社会とのつながりが断たれる。この「行動力の低下」こそが、寝たきりや認知症を引き起こす遠因となるのです。

特に介護現場で長年の課題とされてきたのが、「高齢男性の孤立」です。

豊丸産業の亀井裕人・販売統括部長によると、集団でのレクリエーションや手芸などの定番アクティビティが苦手な男性は、デイサービスなどの利用を敬遠し、自宅に閉じこもりがちになってしまうケースが多いといいます。

そこに登場したのがパチンコです。かつて昭和の時代、仕事帰りにパチンコ店へ足を運んだ経験を持つ男性は少なくありません。「パチンコができるなら行ってみようか」という動機は、福祉施設へ足を向かわせる強力なフックになります。

実際に導入された施設では、隣り合ってペダルをこぐ利用者同士の間で「お、当たったね!」「なかなか揃わないなぁ」といった自然な会話が生まれ、そこが新たな憩いの場(コミュニティ)になっているそうです。運動によって体を動かし、会話によって脳と心を動かす。2014年の発売以来、全国400か所以上の介護・福祉施設に広がっているという実績が、その確かな価値を物語っています。

3. マージャン、eスポーツ……広がる「遊び」の健康科学


今、こうした「遊びやゲーム」をフレイル予防や社会参加のツールとして取り入れる動きは、パチンコだけに留まりません。時代とともに、その選択肢は多様化しています。

導入されているゲーム主な特徴と期待される効果注目すべきトピック

健康マージャン
「賭けない・飲まない・吸わない」を徹底。ルールを覚え、指先を使い、相手の捨て牌を読むことで脳をフル回転させる。「ねんりんピック(全国健康福祉祭)」で2007年から正式種目に採用。
eスポーツ太鼓を模したリズムゲームやパズルゲームなど。視覚・聴覚を刺激し、画面の手動きに素早く反応することで認知機能を刺激。2024年から「ねんりんピック」の正式種目に加わり、自治体での導入が加速。

かつては「大人の遊び」あるいは「子どものゲーム」と切り離されて捉えられがちだったこれらのカルチャーが、今や高齢者の心身を健やかに保つための「立派なヘルスケアツール」として国や自治体に認められているのです。

4. ライター・瀬尾ユタカの視点:支援する側も、される側も「ワクワク」を


今回の「トレパチ」のニュースを執筆しながら、私はこれからの超高齢社会における「健康づくり」のあり方について、深く考えさせられました。

これまでの福祉や介護の現場では、どうしても「~しなければならない」「~を予防するために頑張りましょう」という、いわば“正しいけれど、ちょっと息苦しい正論”が先行しがちだったように思います。もちろんそれらは大切なのですが、受ける側のシニアの気持ちが置き去りになってしまっては元も子もありません。

人間、何歳になっても「楽しいこと」には夢中になれるし、「ワクワクすること」のためなら驚くほどのパワーを発揮します。95歳の女性が1時間半もペダルをこぎ続けられたのは、医療的なアプローチだけでは引き出せなかった、人間の奥底にある「遊び心」が刺激されたからに他なりません。

大切なのは、支援する側が「これをやらせよう」と枠にはめるのではなく、高齢者の方々が「やってみたい!」と思える選択肢をどれだけ社会に用意できるか。パチンコでも、マージャンでも、ゲームでもいい。日常の中に自然と笑顔と運動が溶け込んでいる未来こそが、私たちが目指すべき本当の健康長寿社会の姿なのではないでしょうか。

ペダルをこぐ足元から生まれる、小さな「当たり」の喜び。その積み重ねが、日本のシニアの明日をきっと明るく照らしてくれているはずです。

〈了〉



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