”Morning Shot” 【瀬尾ユタカの戯言】「オチがねぇんだよ!」と巨匠が叫ぶ、公募という名の処刑台
高橋源一郎の「お仕置き」に震えろ。オチなき小説に明日はない。
【瀬尾ユタカの戯言】「オチがねぇんだよ!」と巨匠が叫ぶ、公募という名の処刑台
第58回「小説でもどうぞ」結果発表に見る、アマチュア作家たちの浅はかな「予感」
公募ガイドのWEBサイトを開くたび、僕は小さく溜息をつく。また誰かが、大物作家の前に差し出した自慢の駄作を、笑顔で叩き潰されているからだ。
今回のターゲットは、第58回 高橋源一郎「小説でもどうぞ」。課題は「予感」。
選考委員は言わずと知れたポストモダン文学の重鎮・高橋源一郎氏だ。御年70を超えてなお鋭い視線を持つこの巨匠に、全国から417編もの「予感」が送りつけられたという。選ばれればAmazonギフト券1万円分。落選すれば、ただの電子のゴミ。この対比だけでも十分に味わい深い。
だが、選評の冒頭を一読して僕は失笑した。
「テーマがちょっと難しかったかもしれません。今回だけではなく『オチ』に苦労する書き手が多いようですが、考えすぎもダメ。大切なのは小説として成立していること!」
……出た。柔らかい言葉で包み込まれた、強烈な一撃である。
要約すればこうだ。「お前ら、小説の形すら成していない文章を送りつけてくるな」と。
アマチュア書き手が陥りがちな最大の勘違いは、「自分が感じた雰囲気」や「ちょっとイイ話」を書けば小説になると思っている点だ。そんな甘っちょろいポエムを、高橋源一郎という百戦錬磨の文学者に読ませる度胸だけは買ってやりたいが、結果は惨敗である。
選ばれた作品たちの「惨状」と「光」を見てみよう。
最優秀賞に輝いた礒部輝昭さんの『出会いの予感』。夢で見た素敵な男性との出会いを予感した女性が、通勤電車で運命の人を見つける……という王道の入り口から、最後に見事な「オチ」を叩き込んで逃げ切った。高橋氏に「使い方もお見事でした!」と言わせたのは、予感というテーマをただの雰囲気に終わらせず、物語の「仕掛け」として完璧に機能させたからだ。そう、小説には「仕掛け」がいる。
一方で、佳作に並んだ作品たちへの選評には、高橋氏の「毒」と「やさしさ」が入り混じった本音が漏れ出している。
例えば、永田望美さんの『雨の予感』。雨の予感が絶対に当たる主人公が、好きな男の子と相合傘で帰り、タオルを借りて返すだけ……という甘酸っぱい話に対する評が素晴らしい。
「オチらしいオチがないのでは。」
バッサリである。一瞬で斬り捨てられた。青春の1ページを気取って書いてみたものの、巨匠から見れば「だから何?」で終了なのだ。
また、いじつの遺構さんの『湯治』に対しても、「最後の一行の『予感』はあまり意味がないのでは」と冷ややかなツッコミが入る。テーマである「予感」を取ってつけたように最後に放り込んだだけの粗雑さが、あっさりと見抜かれている。
公募に応募する連中は、どうしてこうも「雰囲気」で逃げようとするのか。
「予感」という抽象的な題材を与えられた瞬間、大半の人間はボロを出す。自分の日常の延長にある薄っぺらいドラマを「予感」というオブラートに包み、高橋源一郎が「うんうん、わかるよ」と頷いてくれるとでも思っているのだろうか。甘い。ヘドロより甘い。
だが、だからこそこのコンテストは面白いのだ。
完璧なオチを提示して見事に最優秀賞を掠め取っていく猛者もいれば、パンツの裏返しというアホらしい日常の誓いから夫婦のサスペンスを組み上げるクインさんの『うっかりの代償』のような珍品も生まれる。人間の欲と、愚かさと、ほんの少しのアイデアが交錯するリアルな現場がここにある。
さて、現在募集中のテーマは第61回「禁止」、そして第62回「告白」だそうだ。
「禁止」か。実にいい課題じゃないか。
「オチのない小説を書くことを禁止する」「自分の甘い思い出話を小説と偽ることを禁止する」……そんなルールでも作ったら、応募総数は417編から一気に10編くらいまで激減するかもしれない。
そして「生成AIの使用規定」まで新設された昨今、AIに駄文を吐き出させて応募するような不届き者も増えているのだろう。だが覚悟しておいた方がいい。AIが書いた無難でオチのない文章など、高橋源一郎の「お仕置き選評」の格好の餌食になるだけだ。
文章を書くということは、自分の頭の悪さや、発想の貧困さを白日の下に晒す行為である。
1万円のギフト券に目がくらんで原稿用紙に向かう者たちよ。まずは「雰囲気」で逃げるのをやめろ。オチから逃げるな。巨匠の眼光を跳ね返すくらいの「毒」と「オチ」を用意して、その原稿を叩きつけてみろ。
僕もまた、その惨劇を高いところから酒でも飲みながら眺めさせてもらうとしよう。
〈了〉
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先ほどのコラムで投げかけた「逃げないオチ」と「人間の業や毒」を意識し、第61回課題「禁止」と第62回課題「告白」の参考応募ショートショート(各1点、計2点)を創作しました。高橋源一郎選考委員の目に留まるような、ひとひねりある構成に仕上げています。
【第61回 課題:禁止】参考応募作品
『ノックの禁止』
「当アパートでは、自室のドアをノックすることを固く禁止します」
入居初日、管理人の老人は無表情にそう告げた。変な物件だとは思ったが、家賃の安さに惹かれて契約した。理由を尋ねても「決まりですから」の一点張りだ。
静かな一人暮らしが始まった。だが、三日目の深夜。
コン、コン。
玄関のドアから、はっきりとノックの音が聞こえた。時計は午前二時を回っている。一瞬出ようとしたが、あの「禁止」のルールが頭をよぎり、息を殺してベッドで身を潜めた。
翌朝、管理人に「昨夜ノックされました」と苦情を言いに行くと、老人は深い溜息をついてこう言った。
「だから『あなたがノックすること』を禁止したんですよ。外からノックされた時、うっかり内側から返事のノックを返してしまうと……『あちら側』の入居手続きが完了してしまうんです」
背筋が凍りついた僕のポケットの中で、昨夜無意識に壁を二回叩いてしまった指先が、冷たく痺れていた。
【第62回 課題:告白】参考応募作品
『罪の重さ』
「私、ずっとあなたに黙っていたことがあるの」
結婚記念日の夜、フレンチレストランの個室で妻が切り出した。ワイングラスを持つ手がわずかに震えている。真剣な眼差しだ。
「実はね、私……あなたと出会う前、一度だけ本気で人を殺そうとしたことがあるの」
空気が凍りついた。妻は伏し目がちに、昔つき合っていた劣悪な元カレへの憎悪と、完全犯罪を企てたものの途中で恐怖のために断念したという悲痛な過去を「告白」した。彼女なりに、僕にすべてを打ち明けて誠実に向き合いたかったのだろう。話し終えた妻は、肩の荷が下りたような顔で僕を見た。
「こんな私だけど……幻滅した?」
僕は優しく微笑み、彼女の手を握り返した。
「まさか。誰にだって暗い過去の1つや2つはあるよ。話してくれてありがとう」
妻は安心したように涙を浮かべた。良かった、心から安堵してくれて。
——僕が本当に「完全犯罪」を成功させて元カレを処理し、彼女が二度と脅かされないようにしておいてあげたことは、この先も永遠に秘密にしておこうと思う。
どちらも「予想を裏切るオチ」と「人間の業」を短文の中に凝縮させた構成にしています。応募の際のアイデアのヒントとしてご活用ください。
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