”Morning Shot” 「お涙頂戴」で大賞が獲れると思うなよ。集英社×エブリスタの企みに冷や水をぶっかける
安い涙で満足するな。10代の残酷な本性を曝け出せ。
「お涙頂戴」で大賞が獲れると思うなよ。集英社×エブリスタの企みに冷や水をぶっかける

10代の絶望も、若さの青臭さも買い叩く文学賞の現場から
集英社オレンジ文庫とエブリスタが、今年もまた性懲りもなく「泣ける」青春小説大賞なんてものをぶち上げてきた。
2026年8月3日から応募開始、テーマは「10代を主人公とした『泣ける』青春・恋愛小説」だそうだ。昨年の第1回が予想以上の応募でウハウハだったから第2回もやりましょう、という出版業界の安易な集金……いや、原稿集めの魂胆が透けて見える。
長編なら5万〜8万字で賞金10万円(最大50万円)、短編なら1万〜5万字未満でたったの2万円(最大10万円)。おいおい、若い才能の情熱と時間を買い叩くのもいい加減にしなさいよ。大賞を取っても「書籍化検討」という、何とも保険を打った腰引けな文言。編集部さまの有難い選評がもらえるから喜べ、とでも言いたいのだろうか。
だがな、応募する側の書き手も書き手だ。「泣ける」というお題を出された途端、難病、不慮の事故、いきなりの余命宣告、あるいは都合のいい悲恋……そんな手垢のつきまくった悲劇のパッチワークを仕立て上げて、「どうだ、泣くだろう」とドヤ顔をする奴らが山ほど群がるのが目に見えている。
読者を舐めるな。そして10代の青春という奴を甘く見るな。
本当の青春ってのはな、そんな綺麗で感動的な涙ばかりじゃない。もっとグロテスクで、醜くて、理不尽で、自分の無力さに吐き気がするような「残酷な地獄」の連続だろうが。大人が勝手にノスタルジーで美化した「綺麗な涙」を差し出しても、そんなものは誰も心震わせない。読者が本当に求めているのは、胸を掻きむしられるような切なさと、二度と戻れない季節の鋭利な痛みだ。
安っぽい感動ポルノを書いてお茶を濁すくらいなら、ペンを捨てて今すぐ寝た方がマシだ。集英社の編集者を唸らせ、読者のトラウマになるような「劇薬」をぶち込んでやる覚悟のある奴だけが、この2026年11月3日までの応募期間に原稿を投げ込むべきだ。
瀬尾ユタカ・青春残酷物語 応募参考作品サンプル
『プールサイドの塩化カルシウム』
八月の午後二時、猛暑日で歪む校庭の隅で、僕らは死んだセミの脚を一本ずつ折るような、不毛で静かな作業を続けていた。
「ねえ、ユタカ。私たちが死んだら、学校のプールに塩を撒いてね。なめくじみたいに綺麗に溶けて消えたいから」
真理子は塩素の匂いが染み付いたスクール水着の胸元を引っ張りながら、白けた声で言った。彼女の太ももには、父親に付けられた煙草の焼き痕が、まるで出来の悪い入れ墨みたいに残っている。
僕らの17歳は、爽やかさなんて微塵もなかった。親の離婚、底辺の偏差値、校舎の裏で吐き捨てられる陰口、そして放課後の誰もいない理科室で繰り広げられる、金にも愛にもならない不毛な体の慰め合い。僕らにとって青春とは、逃げ場のない檻の中でじわじわと体温を奪われていく拷問の別名だった。
真理子の家を出て行く日が決まったのは、夏休みの終わりだった。遠く離れた九州の叔母の家に引き取られるのだという。逃げ場ができたんじゃない。彼女の居場所が、完全にこの街から消滅するだけだ。
最後の夜、僕らは鍵を壊して夜の学校のプールに潜り込んだ。月光が水面を黒く塗りつぶしている。
「泳ごうよ」
真理子が服を着たまま水に飛び込んだ。水音が夜の校舎に虚しく響く。僕も続いて飛び込んだ。重たい制服が足にまとわりつき、息が苦しくなる。
水中で抱き合ったとき、真理子は笑っていた。泣いていたのかもしれない。水の中だから、彼女の流した涙の数なんて僕には永遠に分からない。
「私を忘れてね、ユタカ。思い出なんかにされたら、恥ずかしくて死んじゃうから」
彼女は僕の唇に、冷たく湿った自分の唇を押し付けた。それが僕らの、最初で最後のキスだった。
翌朝、真理子は消えた。連絡先も、SNSのアカウントもすべて消して。僕の手元に残されたのは、あの日プールサイドに置き去りにされた、彼女の片方だけの白い上履きと、鼻の奥にこびりついて離れない強烈な塩素の匂いだけだった。
泣ける? 冗談じゃない。僕の青春は、涙すら乾ききるほどの、ただの真っ白な焼却炉だった。
〈了〉
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