中年という深い森で、自分だけのコンパスを探す夜に :疲れた大人の心と日常にそっと効く、人生の折り返し地点で読みたい「毒と愛」の5作
「カードは出揃った」そこから始まる、大人の居場所探しの物語。
中年という深い森で、自分だけのコンパスを探す夜に

疲れた大人の心と日常にそっと効く、人生の折り返し地点で読みたい「毒と愛」の5作
「中年になったな」としみじみ噛みしめる瞬間は、人生のどこかで唐突にやってくる。急に似合わなくなったTシャツ、お気に入りの蕎麦が喉を通らない夜、あるいは「人生このままでいいのか」と唐突に訪れる虚無感。そう、私たちはいつの間にか「ミドル・エイジの深い森」の真っ只中に放り込まれているのだ。
「中年はつらい」と誰もが口を揃える。けれど、その辛さの正体は何なのか? どうすればそのモヤモヤから抜け出せるのか? そのヒントを探すべく、日常と暮らしの視点から厳選された5つの文芸作品を紐解いてみたい。

まず手に取るべきは、臨床心理士・東畑開人氏の『ミドル・エイジ・ビギンズ』だ。長年の問いに対する答えを出してしまい、「この先どうすれば?」と途方に暮れた東畑氏が、クリープハイプ・尾崎世界観氏の「カードは出揃っている。そのカードで続けていく」という言葉に導かれ、先行者たちへインタビューを重ねていく。自分の手元に残されたカードをどう切っていくか。ミドル・エイジの森を探索するための、最初の一冊として最適だ。

少し心が疲れてクスッと笑いたい夜には、益田ミリ氏の『中年に飽きた夜は』が効く。50歳の誕生日に深夜のファミレスで一人酒をしていると、隣から聞こえてくる同い年女性たちの漫才のような掛け合い。「『人生の折り返し』て『二度手間』いう意味?」という強烈なツッコミをはじめ、絶妙に毒の効いた「中年あるある」が胸に刺さりつつも、心地よい笑いへと消化されていく。

一方、雁須磨子氏のコミック『起承転転』は、見切り発車で現実と格闘するリアルな足掻きを描く。32年の売れない役者生活を捨て、実家に無断で戻った主人公の姿は、お世辞にもスマートとは言えない。失敗と落ち込みを繰り返す痛々しさの中に、人間のズルさや泥臭さが隠すことなく滲み出る。だからこそ、出会いによって人生が微かに動いていく兆しに救われるのだ。

居場所と現実のバランスをリアルに突きつけるのが、藤野千夜氏の『団地のふたり』。50歳・独身の幼なじみ二人が描かれる本作では、家計簿のような金額が具体的に示される。経済的な不安定さや老いへの不安といった「辛辣な現実」がしっかりと横たわっているのだ。しかし、くだらない喧嘩と仲直りを繰り返せる友の存在が、人生の悲壮感をコミカルで温かなものに変えてくれる。

最後に、古内一絵氏の短編「五十の壁が高すぎる」は、本作の中で最も毒の効いた強烈な一撃だ。ある日突然、いつもの天ぷら蕎麦の味がしなくなる男性主人公。身体が上げる悲鳴の裏には、彼がこれまで軽視し、見ないふりをしてきた家族や他者からの「逆襲」が隠れている。自業自得とも言える展開に「ざまあみろ」と苦笑しつつも、身体の拒絶反応を通してしか自分の生き方の歪みに気づけない人間の滑稽さと悲しみに、思わず冷や汗が流れる。
中年期とは、諦めと開き直り、そしてかすかな希望が混ざり合う、甘くはない季節だ。毒のある現実を毒のまま受け入れ、肩の力を抜いて生きていくために。今夜はこの本たちを手に、自分だけのコンパスを探してみてはどうだろうか。
〈了〉
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