”Morning Shot” 【瀬尾ユタカの戯言】タケコプターで飛べるほど、僕らの毎日はおめでたくない
どこでもドアより、毒のある日常へ。三十一文字のひみつ道具。
【瀬尾ユタカの戯言】タケコプターで飛べるほど、僕らの毎日はおめでたくない
21年ぶりの「ドラえもん短歌」募集に寄せて、ポケットの裏側を暴く
押し入れのすみっこでドラえもんが泣いている、かもしれない。いや、泣いていてほしい。
小学館が「ドラえもん・ひみつ道具短歌コンテスト2026」なんてものを開催するらしい。入選すれば21年ぶりの新刊『みんなのドラえもん短歌』に載って、1000円分の特製図書カードがもらえるのだそうだ。
……たったの千円?
21年ぶりという重い腰を上げたにしては、随分とつつましい「お賃金」じゃないか。だが、まあいい。僕らが惹かれているのは図書カードの額面じゃなく、あの「四次元ポケット」という悪魔的なシステムそのものなのだから。
大体、大人はみんな勘違いしている。「ドラえもん」を心温まる友情と冒険の物語だと思っているのだ。大間違いだ。あれは、人間の浅ましさと依存心、そして「道具に頼った人間の悲惨な末路」を毎週丁寧に描き出すディストピア劇である。
のび太を見ろ。彼はひみつ道具を手に入れるたび、必ず調子に乗り、調子に乗った挙挙句に自滅する。人間という生き物の愚かさを、これでもかと体現しているじゃないか。
だからこそ、いま僕たちが詠むべきは「キレイゴトの短歌」ではない。
「タイムマシンがあったら過去の自分を助けたい」なんて甘っちょろい歌を詠んで、選考委員にほほ笑んでもらえると思ったら大間違いだ。そんなものは「みんなのドラえもん短歌」ではなく、「誰の心にも残らない都合のいい標語」でしかない。
僕らが本当に日常で欲しているひみつ道具は何か?
満員電車で押しつぶされそうな朝、「どこでもドア」を思い浮かべる時のあの憎悪に近い切実さ。「暗記パン」があったらあのプレゼンを乗り切れたのにと、胃薬を飲み下す夜の苦味。「人生やり直し機」を押したい欲望を抑えながら、残業申請をポチポチと押す指先の冷たさ。
そう、ひみつ道具とは、僕たちの「歪んだ欲望」と「みっともない挫折」の代名詞なのだ。
五・七・五・七・七という限られた三十一文字の器に、ドラえもんの道具名を放り込む。それはまるで、四次元ポケットにドロリとした人間の本音を滑り込ませる作業に似ている。
「ほんやくコンニャク」を食べさせたって、上司の嫌味は嫌味のままだろうし、「もしもボックス」で世界を変えたって、自分が無能なままなら結局同じ結末を迎えるだろう。その絶望と、ほんの少しの可笑しみを詠むからこそ、短歌に「体温」が宿るんじゃないか。
締め切りは2026年9月3日。おひとり様10首まで。
綺麗にまとまった「ドラえもん愛」を詠む必要なんてない。あなたが日常で抱えている惨めさ、ずるさ、毒。それらをひみつ道具という名のオブラートに包んで、小学館の応募フォームへ叩きつけてやればいい。
ポケットの底から引っ張り出すのは、夢と希望だけじゃない。僕らのドロドロとした愛おしい日常だ。
〈了〉
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綺麗ごとだけではない「人間の悲哀」や「日常の毒・おかしみ」を、ひみつ道具に託した参考応募作品(短歌)を5首創作しました。
『ドラえもん・ひみつ道具短歌コンテスト』参考応募作品(5首)
1. 【どこでもドア】
どこでもへ行ける扉を前にして「ここ以外なら」としか言えない
2. 【ほんやくコンニャク】
コンニャクを噛み砕いても上司(あいつ)から滲む嫌味は嫌味のままで
3. 【アンキパン】
消化器を通れば消える知識だと知りつつかじる午前二時に
4. 【タイムマシン】
やり直すほどの人生(過去)も無かったと引き出しを閉め灯りを消した
5. 【人生やりなおし機】
ボタンなら何度も押した気がするよ同じ間違い繰り返す夜
四次元ポケットの道具を、大人の切実な日常や少し歪んだ愛おしさに引き寄せて詠む際の一案として、参考にしていただければ幸いです。
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