“Humidity,” “Poison,” “Eros”「美人です」と書いて恥じない素人たち〜プロの1行が持つ「密度の恐怖」
説明するな、匂わせろ。プロの一行は、アマチュアの10行を殺す
「美人です」と書いて恥じない素人たち〜プロの1行が持つ「密度の恐怖」〜

形容詞の垂れ流しは小説ではない。一行にどれだけの「影」を忍ばせられるか
アマチュアの書いた小説を数本ほど読んだことがあるという人が、以前こんなことを言っていた。
「描写力がプロとアマでは決定的に違いますね。具体的には、一行に含まれる情報量がダンチ(断然違う)なんです」
まったく、膝が折れるほど同意する。
素人作家というものは、とにかく言葉を横着する。女性キャラクターを描きたい時、平気で「彼女はスタイルが良い美人で、田舎育ちゆえにおおらかな性格だが、一人暮らしで金がない」なんていう、履歴書の特記事項みたいな文章をベタッと貼り付けて満足している。読者の想像力に対する完全な甘えであり、ただの「説明」だ。そんなものは小説でも何でもない。単なる設定資料の開示だ。
一方で、プロの書き手は絶対に「美人」だの「貧乏」だのという安易な形容詞に逃げ逃げしない。
例えば、プロならこう書く。
「背伸びをした拍子にスカートがずり落ち、かたちの良い臍(へそ)が覗いた」
たったこれだけだ。だが、この一行の裏には恐ろしいほどの情報が詰まっている。「かたちの良い臍」で彼女の整ったスタイルを掠らせ、「背伸びで服がずれる」ことで他人の目を気にしない無頓着さや育ちのゆるさを匂わせ、さらに「サイズの合っていない安物の服=貧乏な一人暮らし」という生活感まで一瞬で読者の脳裏に焼き付ける。
プロの一行は、アマチュアの十行、いや百行分もの価値と高密度な「体温」を持っているのだ。
説明するな、描写しろ(Don't tell, show.)――。創作の教科書には必ず書いてある基本中の基本だが、これができる素人は絶滅危惧種レベルで存在しない。彼らは「状況を語る」ことに必死で、「情景を映す」という職人芸を知らないからだ。読者に直接「美味しいですよ」と教え込むのではなく、肉の焼ける匂いと脂の跳ねる音だけで口の中に唾液を溜めさせる。それがプロの仕事というものだ。
「美人」「スタイルが良い」「金がない」――そんなスカスカの記号を並べて小説を書いた気になっているアマチュアたちよ。自分が吐き出したその不味い記号の山を、プロの凄惨なまでに洗練された一行の前に並べてみろ。
一行でどれだけの人生を語れるか。その密度の差こそが、プロと素人を分かつ残酷なまでの断絶なのだから。
〈了〉
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