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47歳のアカレンジャーは、埼玉を割譲してラーメンを食う🍜AIと孤独じゃないグルメ

娘は最近、プリキュアに夢中である。

変身する。敵を倒す。世界を救う。じつに分かりやすい。因果関係が明快で、サンクコスト(回収不能な投資)の概念もない美しい世界だ。

私にもそういう時代があった。

幼稚園の頃、戦隊ヒーローになりたかった。アカレンジャーになって、悪の組織ショッカーを力づくで殲滅したかった。

しかし、ふと思った。

もし今、47歳の管理職になった私がアカレンジャーを拝命したらどうするだろう。

手元の生成AIに壁打ちを頼んでみた。すると、作戦立案は妙な方向へ転がり始めた。

1. ヒーロー、池袋に「絶対国防ライン」を敷く

AIが状況を入力する。

「アラートです。都内にショッカーの怪人が現れました」

私はキーボードを叩く。

「まず、現場への緊急出動回数を削減したい。KPI(重要業績評価指標)を『怪人撃破数』から『被害抑制率』へ変更する」

これである。

怪人が現れるたびに対症療法的にスクランブル(緊急発進)をかけ、消耗戦を演じる。これは局地的な水際防衛に過ぎず、リソースの最適化の観点から言って極めて効率が悪い。フロントラインに立つ若手レンジャーの精神的・肉体的コストも、現代の労務管理基準では持続不可能(サステナブルではない)だ。47歳になると、まず組織のサステナビリティとコンプライアンスが気になってしまう。夢も希望もない、冷徹な中期経営計画の視点である。

「では、どのような防衛戦略をとりますか」とAIが問う。

「敵の浸透を許容する。ショッカーに一定地域を一時占領させ、後方に引き込んで叩く『縦深防御(じゅうしんぼうぎょ)』へ移行する」

プロンプトを投げた瞬間、AIのテンションが上がったのが分かった。ここからシミュレーションの妄想は一気に加速していく。

  • ショッカー占領下の埼玉(バッファゾーン)

  • 池袋絶対国防ライン(最終防衛線)

  • アオレンジャー: シギント(信号情報)およびサイバーインテリジェンス担当

  • キレンジャー: サプライチェーンおよび兵站(ロジスティクス)統括

  • モモレンジャー: 被災者・難民のインフラ支援および広報(PR)担当

  • ミドレンジャー: 工兵大隊を率いるライフライン復旧担当

誰も怪人と直接交戦しない。戦隊ヒーローというより、完全に広域災害の防災計画である。

私は前線で「赤のチカラ!」と叫ぶ戦士になりたかったはずなのに、気が付けば統合幕僚監部のオペレーションルームで電卓を叩いていた。

「なぜ、速やかに怪人を排除しないのですか」とAIが突っ込んでくる。

簡単だ。製造業の現場を見ればわかる。

怪人は仕様変更を繰り返して「新規投入(補充)」できるが、ショッカー本国の「資本(補給)」は無限ではない。

各レンジャーの任務は、肉弾戦ではなく「補給線の遮断」だ。

燃料の調達ルートを潰す。貨物鉄道を止める。港湾物流をロックする。ジャストインタイム(必要なものを必要な時に)の逆を突くのだ。

するとショッカー側の「戦費」は日を追うごとに膨れ上がる。占領地となった埼玉の治安維持コスト、道路や電力網といったインフラの維持費、現地住民への最低限の配給……。

結論として、世界征服は著しくROI(投資対効果)が悪い。

その結果、ショッカー本部では「世界征服の戦略会議」ではなく、血で血を洗う「経営再建のための予算委員会」が始まるはずだ。固定費の削減、怪人特殊勤務手当の廃止、戦闘員の残業代カット、福利厚生の見直し。地球を滅ぼす前に、社内カルチャーの崩壊と人件費削減の波がショッカーを襲う。

「その結果、どうなりますか」

私は答えた。

「マーケットからの自主撤退。つまり、もう二度と攻めてこない」

これが47歳のアカレンジャーが定義する「勝利条件」である。

幼稚園児の私は怪人を100人倒したかった。47歳の私は、怪人が事業継続不可能(ゴーイングコンサーンに疑義あり)となるスキームを作りたい。

2. #埼玉を返せ と、地政学的リスク

しかし、ここからシミュレーションは急激に生々しく、重くなる。

ショッカー側も、埼玉を実効支配した以上、株主や上層部への手前、手ぶらでは撤退できない(引くに引けない政治的メンツがある)。

一方で、こちらが「埼玉奪還」を掲げて全面攻勢に出れば、際限のない総力戦へ突入する。東京の主要インフラは灰燼に帰し、池袋は市街戦の泥沼と化す。難民は膨れ上がり、こちらの財政も破綻する。

「では、どう着地させるのですか」とAIが最適解を求めてくる。

アカレンジャーは、冷徹なトップダウンの決断を下す。

「講和条約の締結。埼玉の割譲やむなし」

特撮の歴史上、最も支持率の低い記者会見の幕開けだ。

当然、SNSは即座に炎上。#埼玉を返せ が日本のトレンド1位を独占する。前線で血を流した若手レンジャーは「俺たちの戦いは何だったんだ!」と激怒し、埼玉県民のパブリックオピニオンは最悪を極める。当然だ。しかし、47歳の中間管理職は知っている。部分的な損切り(ロスカット)を躊躇えば、本社(東京)ごと共倒れになるリスクがあることを。

画面の向こうでは、緑の防災服を着た東京都知事が、カメラのフラッシュを浴びながら会見を行っている。

「埼玉県民の安全保障はどうなるんですか!」と記者が詰め寄る。

知事は感情を殺した声で答える。

「現地のガバナンスにつきましては、占領当局が国際法に則り、責任を持って対応していただく領域となります。なお、都内に流入した避難民に対しては、都営住宅の優先提供枠を確保いたします」

もはや日曜朝の特撮ではない。完全にNHKの緊急ニュース枠である。

そして最終回の15秒予告。

『アカレンジャー、一連の引責による辞意表明。政界進出へ――。停戦の是非を問う、解散総選挙へ!』

幼稚園の頃の私がこれを見たら、チャンネルを即座に変えていただろう。怪人は死なない、巨大ロボの合体シーケンスもない、クライマックスは期日前投票。

しかし、47歳の今なら胃の腑に落ちる。

正義とは何か。敵を殲滅するカタルシスか。それとも、泥をすすりながらでもシステムを継続させることなのか。

3. 二郎系を占領した、大阪のラーメン

「――今日はラーメンの話ではないのですか」

AIの無機質な突っ込みで、ガタゴトと揺れる現実に引き戻された。

そうだった。私は今、出張先の大阪・新町にある「吉み乃製麺所」のカウンターに座っている。魚介と鶏豚骨の濃厚なWスープが、地元ビジネスパーソンに支持されている実力派の店だ。

お品書きを眺めていると、「賄い醤油らーめん」という文字が目に留まった。900円。この物価高のご時世に良心的な価格設定だ。

深く考えずに注文すると、オペレーション担当の店員さんから確認が入る。

「野菜の量、どうされますか?」「あ、大盛りで」

「ニンニクは入れますか?」

このツー・ステップの確認項目で、脳内のリスクマネジメントセンサーが警報を発した。

……しまっていこう。これ、いわゆる「二郎インスパイア系」のアプローチじゃないか?

ビジネスパーソンの昼飯において、二郎系は極めてクリティカルな選択だ。午後のアポイントメントにおけるニンニクの揮発性リスク、そして何より、47歳の消化器官のキャパシティ(最大処理能力)には明確な限界がある。

そして着丼した。

視界を遮る、もやしとキャベツの圧倒的な積層構造。完全なる二郎系のビジュアルだ。目の前に出現した「もやし山脈」という地政学的リスクを前に、池袋絶対国防ラインのことなど一瞬で吹き飛んだ。この物量をどう攻略するか。

しかし、スープを一口、蓮華ですくって驚いた。

二郎系に特有の、あの脳に直接響くような塩分と、暴力的で野生味溢れる豚脂のギトギト感がない。骨の臭みは丁寧にマスキングされている。

ベースにある魚介鶏豚骨の濃厚な旨味と、エッジの効いた醤油のキレが、そのボリューム感を「縦深防御」の構えで見事に受け止めているのだ。脂のコクはありつつも、後味が驚くほどスマート。自家製の低加水ストレート中太麺が、スープの粘度に負けずにしっかりと絡みつく。

なるほど。これは、「二郎系を占領し、独自の統治下に置いたラーメン」だ。

野蛮な力を力でねじ伏せたのではない。相手の持つ「ボリューム」という果実だけを抽出し、自らの洗練されたスープのシステムの中に組み込んでいる。

すべてを排除しようとしない。必要なファンクションだけをガバナンス下に残す。ここでも私の脳内AIが弾き出した「埼玉割譲理論」が、器の中で完全に発動していた。私は思わず、割り箸を握ったまま小さく笑ってしまった。

幼稚園の頃、私はアカレンジャーになって世界を無菌室のように救いたかった。

しかし47歳になった今、もし私が赤いマスクを被るなら、まずは敵のサプライチェーンを寸断し、泥臭い外交交渉のテーブルに着き、避難民のポートフォリオを組み、最後は選挙の投票箱を数えるだろう。

ヒーローになりたかったはずの少年は、気が付けば、コストとリスクを天秤にかけるただの管理職になっていた。

そして、スープを最後の一滴まで飲み干した今、それはそれで、それほど悪くない人生な気もしているのだ。

※このコラムはフィクションであり、実際の地政学およびラーメン店には、一部妄想が混じっています。

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