見出し画像

ミュトスは令和版ノストラダムスか。🍣 AIと孤独じゃないグルメ


本町の地下は、時間の流れが少し違う。

 仕事終わりの人間が、吸い殻のような顔をして地下鉄の出口に吸い込まれていく。

 「寿司居酒屋 一心 本町本店」。

 船場センタービルの地下にある、いかにも“ちょうどいい”店だ。

17時から20時はハッピーアワー。メガハイボールが350円。

 安い。だが料理は少し高め。ただし量が多い。結果、コスパはいい。

 名物は海鮮盛り。1グラム11円で好きなだけ頼める。

 海鮮ミックスを150グラム。マグロは冷凍だが中トロクラス。サーモン、ブリ、鯛がぶつ切りでゴロゴロ入っている。

「ええな」

AI「極めて合理的な選択です」

「それや」

ホッケの塩焼き。でかい。ほぼ一匹だ。

 スルメの天ぷらも、山のように盛られている。

 ふと壁を見ると「SNS投稿で一品無料」の文字。だがnoteは対象外らしい。

 世の中の最適化なんて、だいたいそんなもんだ。

今、巷では米アンソロピックの最新モデル「Claude Mythos(クロード・ミュトス)」が騒がれている。

 サイバー世界の核兵器。既存のセキュリティを無効化する、神話(Mythos)の名を冠した怪物。

 私はそれを、メガハイボールの泡越しに少し引いて眺めている。

私は専門家でもないし、記者として特別な情報を持っているわけでもない。

あとで「アホなこと言ってたな」と笑われるかもしれない。

だが
ーーどうせ、肩透かしさ。

我々の世代は知っている。熱狂がフェードアウトする瞬間の、あの白々しい静けさを。

ノストラダムスの大予言。

 そしてY2K問題。

 ノストラダムスでは何も起きなかった。

 Y2Kも、結果としては何も起きなかった。

 ただ、Y2Kは違う。エンジニアや研究者が、血の滲むような対策をしたから「何も起きなかった」のだ。

「見えへん成功やな」

AI「はい。観測されない防衛の結果です」

「それや」

それでも、記憶に残るのは「結局、騒いだだけだったね」という冷めた感覚だ。

 だからどこかで思ってしまう。今回も、大したことはないのではないか、と。

 これは冷静さではない。経験によって塗り固められた「冷笑」という名のバイアスだ。

だが、その冷笑の裏側には、別のドロりとした感情がへばりついている。

 我々は、どこかで“ガラガラポン”を期待しているのだ。

今の秩序のままでは、どれだけ働いても、普通の生活を維持するのが精一杯だ。

 だから、何かがこの盤面をリセットしてくれることを、心の隅で願っている。

 破滅ではない。抗えないほどの「変化」だ。

就職氷河期世代の我々は、かつて希望が見えていた。ただ、指先が届かなかった。

 だから悔しさがある。リセットを望む。

 だが、今の若い世代はもっと乾いている。

 最初から椅子がない。努力で届く気配すらない。

 彼らにあるのは悔しさではなく、静かな「諦念」だ。

「しんどいな」

AI「構造的な閉塞感ですね」

「それや」

そう考えると、ミュトスの見え方も変わってくる。

 我々にとっては「変えてくれるかもしれない外圧」。

 若い世代にとっては「このクソゲーを終わらせてくれるかもしれないバグ」。

AIは、令和版の「ノストラダムスの大予言」なのだ。

 未来を当てるものではない。

 この閉塞した構造を、外側からぶち壊してくれるかもしれない「救世主」としての投影。

 半分は冗談で、半分は切実な祈り。

だが、それは未来を見ているのではない。

 自分たちの「ままならなさ」を、AIという鏡に映しているだけだ。

 変えてほしい。壊してほしい。

 でも、自分では指一本動かしたくない。

 だから、サンフランシスコからやってきた「神話」に、自分たちの願望を全振りする。

ハイボールをもう一杯頼む。350円でメガサイズ。実に合理的だ。

 だが、こんな地下の居酒屋に寄り道している時点で、人間は合理性だけで生きていない。

 うまいとか、むなしいとか、誰かに同意してほしいとか。

 そんな非合理なガソリンで、日々をやり過ごしている。

ミュトスの知能は、すでに人間を置き去りにしつつある。

 だが、それをどう解釈するかは、どこまでも泥臭い人間側の問題だ。

 恐れるのか。利用するのか。

 あるいは、救いの予言として縋るのか。

今回の狂騒も、数年後には笑い話になっているかもしれない。

「またシリコンバレーに踊らされてたな」と。

 ただし、もし今回が「本物」だった場合。

 その代償は、過大評価の恥などより、ずっと高くつくだろう。

未来を見ているつもりで、私たちは、ただ自分たちを映す鏡を磨いているだけなのかもしれない。

会計を済ませる。noteの割引は、やはり適用されなかった。

 世界はまだ、私の願ったようには変わっていない。

(フィクションです)

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集