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夢を追うとき気をつけること、心だけは、腐らせない。

★約1300字

何かを目指していると、うまくいかない時期がある。

作家になりたい。
歌手になりたい。
ダンサーになりたい。
芸人になりたい。
スポーツ選手になりたい。
何か新しい仕事を始めたい。

最初のうちは、

「いつかきっと」

と思って頑張れる。

ところが……。

僕の場合、売れっ子の漫画家になりたいと努力していたが、3年たっても芽が出ない。

5年たっても、いっこうに売れない。


それどころか、自分より後にデビューした人たちが、どんどん売れていく。

それでも、20代の頃は、

「次こそ頑張ろう」

と思えた。

ところが。

40歳、50歳となると、少し違ってくる。

同期の漫画家の中には、分譲マンションを買っていたり、豪邸を建てていたりする人も出てきた。

僕の心には、漫画家レースから脱落したような劣等感が、常にまとわりついていた。

76歳の今、振り返るとわかるのだが、こういうときに一番気をつけなければいけないことがある。

それは、

自分の心を腐らせないことだ。

心が腐り始めると、僕は強がるようになった。

「彼は僕より、運がよかっただけだ」

「世の中には見る目がない」

「売れている連中より、僕のほうが本当はすごい」

「僕の才能は、普通の人にはわからない」

そう言わなければ、自分が崩れそうになるからだ。

自分の中にある不安を隠すために、大きな声を出しているだけなのだ。

そして、そういう強がりを何年も続けていると、それがだんだん、僕自身になってしまう。

人の成功を素直に喜べなくなる。

若い人の才能を認められなくなる。

自分に対する厳しい意見を聞けなくなる。

僕は、これまで何度もうまくいかない時期を経験してきた。

そんなときにも、一つだけ心がけてきたことがある。

それが、

さらにくりかえすが、

自分の心だけは、腐らせない。

なのだ。

苦しいときは、苦しめばいい。

落ち込むときは、落ち込んでもいい。

「今の僕は、うまくいっていない」

そう認めていいのだ。

強がる必要はない。

でも、卑屈になる必要もない。

強がらない。
でも、卑屈にもならない。

そして、

「ああ、今はダメだなあ。さて、どうしようか」

そう言えればいい。

僕は、このくらいがちょうどいいと思う。

「自分はすごいんだ」と、自分に言い聞かせなくてもいい。

反対に、

「僕なんかダメだ」

と自分を痛めつける必要もない。

今は、うまくいっていない。

それだけのことだ。

だったら、

さて、どうしようか。

ここから、また考えればいい。

そして誰かが面白いことをやっていたら、

「へえ、面白いなあ」

と言いたい。

若い人がすごいことをやったら、

「すごいね」

と言いたい。

知らないものに出会ったら、

「それ、どういうこと?」

と聞ける自分でいたい。

そういうものが残っているうちは、まだ大丈夫だと思っている。

何かを目指している人に必要な「持続力」とは、単に、やめない力ではない。

自分を腐らせずに、続ける力。

そして、もしかすると、続けることより大切なのは、

「さて、どうしようか」

と、そのつど自分に問い直せることなのかもしれない。

続けてもいい。

やり方を変えてもいい。

場合によっては、別の道へ行ったっていい。

大切なのは、

自分の心まで、夢と一緒に人質にしないこと。

夢が叶っても、叶わなくても、

最後まで世界を面白がることのできる自分でいたい。




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