「50代女子」、スパで15人の尻に学ぶ筋肉の現実
今年の夏、アルプス縦走には行けなかった。
正直、もうハードな山行は卒業しようと思っていた。それでも胸の奥に、小さな棘みたいな「やり残し」が残っている。
50代。
目標が途切れると、気力もいっしょにしぼんでいく。
日々の細かな面倒ごとが積み重なり、気づけば坂の上から転がり落ちていく自分が、容易に想像できる。
特に冬。
こたつに入れば、必ずロックオン。
来年の夏を、どう迎えたいのか。
その問いを、自分に投げかけてみた。
今のまま体力が落ちた状態で、重い荷物を担いで長距離を歩けば、足も腰も肩も、確実に悲鳴を上げる。
無理を重ねれば、そのツケは“後遺症”として返ってくる。
だから、この冬は身体の立て直し期間にしようと思った。
一気に追い込むのではなく、地道に、確実に。
衰えた体力を、ひとつずつ取り戻していく。
さて、気持ちが萎える前に、ジムの見学へ行ってみよう。
ジム入会は“冬限定”。
登山の筋肉は登山でしかつかない、とよく言うけれど、冬はどうしても高山に一人では行けない。
ならば冬はジム、暖かくなったら山へ。
お金がかかると動く自分を知っているからこその、ジム入会作戦だ。
さらに、スパや岩盤浴が併設された施設なら「今日は風呂だけでも」と外へ出られる。
飴と鞭、どちらも必要な年齢になった。
ただ、最近のジムは入り口から難しい。
受付はQRコード、レッスン予約はLINE。
エアロバイクはタッチパネル予約。
会員カードなど存在しない。
見学当日、私は手順が分からず、受付をすっ飛ばしてそのままジムエリアへ向かった。
帰り際、スタッフに怪訝そうな顔で見つめられ、
「あ、あの…入会…してきたんです…」
と、もはや説明になっていない言葉を残す。
せっかくなので、そのまま併設のスパを体験することにした。
火曜日はレディースデイで、風呂場で泥パックが配られるらしい。
興味のなかった私は、炭酸泉につかりながら、裸体で並び始める女性たちの背中をぼんやり眺めていた。
そして炭酸の泡の向こうに、15人ほどの尻が静かに並んだ。
若い女性の尻は弾力のある“桃”。
対して60代くらいの女性たちの尻は“長方形”。
さらに年齢が上になると、“ムンクの叫び”のように頬がこけた尻になっている。
「ああ、筋肉って、こんなふうに変わっていくんだ——」
専門書より早く答えをくれる、“現場”だった。
思い返せば、私が知る足腰の強い高齢者は、決まって体を動かしていた人たち。
プールで歩いていたり、山を登っていたり、毎日畑に出て土をいじっていたり。
共通していたのは、日々の暮らしに、自然と体を使う時間が組み込まれていたということ。
臀部の筋肉は、立つ、歩く、階段を上がる、姿勢を保つ——そのすべての基盤。
大臀筋、中臀筋、小臀筋どれか一つでも弱れば、体の軸は揺らぎ、腰痛も転倒も、当たり前に起こる。
だから今、もう一度、身体をメンテナンスしよう。
春までにコツコツ筋肉をつけて、夏にはまた、自分の足で山に立ちたい。
今日見たこと、感じたこと。
老いていく現実さえ、これからの歩みに変えていきたい。
そんなふうに思った一日だった。
ちなみに泥パックが余っていたようなので、長方形になりかけた尻をふりつつ、私もちゃっかり貰いに行ったのは言うまでもない。
