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漫画家アシスタント物語 諦めま章〈5〉 秋山プロのとんでもねぃ~野郎

 
《写真上: 秋山プロの仕事場にあるスクリーントーンの整理棚。全部で60段ほどの引き出しに、びっしりと各種のトーンが収められています。2008年》
             < この諦めま章〈5〉は、文庫本約10ページ分 >

 
 
「諦めま章」は、独立した「章」ですので、「第9章」の続きではありません。 ほとんどは、雑多な回想ですが、一部連続していますので、やはり、この「諦めま章〈1〉」からお読みになる事をお勧めいたします。
 
それから‥‥
はじめての方は、
「マガジン:第1章、第2章」(無料)がお薦めです!

 
 

              その9  

   《 漫画家アシスタントが・・・一刺しに泣く!? 》

 
葬儀が終わって1ヶ月以上経ってからジョージ先生から電話がありました‥‥

先生からの電話というのは、大変に珍しいわけです。 

10年に一度くらいしか電話をもらう事はないのです‥‥‥‥

電話の内容は、仕事上の事務的な話でしたが‥‥‥‥ そんな事をわざわざ電話してくるほどの事もなく‥‥‥‥ 実は、本題は仕事とはまったく関係ない葬儀場での出来事についてでした‥‥‥‥

受話器から聞こえるジョージ先生の声は重くゆっくりと‥‥‥‥ 

その話とは‥‥‥‥ 

昨日、吉さんの奥さんから電話があり、告別式の日の事をジョージ先生に詳しく語ったそうです‥‥‥‥

受話器からの‥‥ ジョージ先生の威圧するような声を聞きながら‥‥‥‥  私は嫌ぁ~~~な予感が‥‥‥‥

奥さんが語るには‥‥‥‥

葬儀場で写真の撮影を拒否した事( 先生は知りません )が失礼だったかどうか‥‥‥‥ もし、失礼な事をしたなら、小池君に謝罪した方が良いのかどうか‥‥‥‥ そんな事をジョージ先生に「相談」したのです。

私がとっさに思ったのは‥‥‥‥ なんで、そんな事を先生に‥‥‥‥?

『 あの奥さん、俺を潰すつもりだな‥‥ 』

ジョージ先生は‥‥‥‥
「 小池に謝ることなんかねぃ~よ 」
 
‥‥とキッパリ彼女に言ったそうです‥‥‥‥
 
そして‥‥‥‥ 私に‥‥‥‥
「 ブログの写真を撮らせろって言ったんだってなぁ‥‥? 」
 
安っぽいドラマでも見ている様な‥‥‥‥ まるで他人事の様に先生の言葉が響きます‥‥‥‥

先生は、吐き捨てるように‥‥
「 それを聞いた時には背筋に冷たいものが走ってゾ~ッとしたぜ‥‥‥‥ とんでもねぃ~野郎だなぁ~おみぃ~はよぉ~っ! 」

「 ゾ~ッ 」としたのは私の方だと思いますが‥‥‥‥‥‥

「 何でブログに載せるために写真なんか撮るんだよ! 」
「 ‥‥それはぁ‥‥‥‥ 」
「 俺ぃの悪口ばかり書きやがって‥‥ 」
「‥‥はぁ‥‥」
「 だから、おめぃ~の本なんか読まねぇ~んだよ! 」

「悪口ばかり」‥‥って、よく読んでるじゃないですか‥‥ なんて事は反論しません。 私はずっと紙風船みたいにフワフワ返答するだけでした。

これが、「 蜂の一刺し 」‥‥かぁ‥‥ 面白いなぁ‥‥ みたいな他人事のように聞いていました。

私は、「 女の一刺し 」で30年以上も仕事しながら培ってきた人間関係が、こうも簡単に瓦解する事が、可笑しいほど悲しく‥‥‥‥ また、虚しさのあまり‥‥‥‥ 弁明も出ませんでした‥‥‥‥

「 いえ‥‥ 」とか「 それは、ちょっと‥‥ 」とか曖昧な返事を返すだけで、もう何も喋りたくないような気分に落ち込んでいました‥‥‥‥( どうも人間関係って苦手で‥‥コミュ下手です )

ジョージ先生はどうも、自分である程度ストーリーを作り上げてしまう悪癖があって、そこから極端な判断を下してしまう‥‥‥‥ たまにそういう事をやってしまうのです。

優秀なクリエイターほど、想像力が豊かであると同時に、それが強力で堅牢なのです。

強い人間から断定的な言葉を浴びせられると、気の小さな人間は沈黙するしか術をなくしてしまうもの‥‥‥‥ 私と先生との関係は、いつも、そんな感じなのです。

後に、先輩スタッフから‥‥‥‥

「 小池君、そりゃ先生が完全に誤解してるんだからマズいぞ‥‥ 」

‥‥と、先生への釈明を勧められますが‥‥‥‥ いまだに、この件に関しては、何も弁明してはいません。( 結局、弁明もせずに終わりました )

あの日から、3年になりますが‥‥‥‥ それ以来、まともに先生とは口をきいていません‥‥‥‥‥‥

漫画家先生とアシスタントがまったく( 週に一言位しか)口をきかないのに仕事が出来るのかどうなのか‥‥‥‥ その辺のお話は次回に‥‥‥‥
 

ちなみに、この後の事を心配される方もあるようなので、書き加えておきますが‥‥‥‥ 

こうした出来事は、30年、40年の先生と弟子との間に起こる出来事の一つのエピソードにすぎません。 つまり、お互いにもう細かいことを気にする関係ではないので、時間の経過とともに何事も無かったように修復されていきました。

「 蜂の一刺し 」は痛かったですが‥‥‥‥

何も喋らなくても‥‥‥‥ 

先生も私も、「 小事を気にせず流れる雲のごとし 」‥‥だった、というわけです。( いや、ホントに! )

 

 
 


仕事場にある電気掃除機です。年式は70年代のもので、20年以上使用していません。そのまま置きっぱなしになっています。これ以外にも使用しない家電や日用品が何十年も放置されています。

 
                その10  

   《 漫画家アシスタントが・・・沈黙の中で仕事をする!? 》

漫画家はストーリーを考えて、キャラクターを描く‥‥ その後に、背景をアシスタントが描いて仕上げる‥‥‥‥

‥‥これが、一般的な漫画制作の流れになります。

今回は、秋山プロでの漫画背景制作について‥‥ クイズ形式で解説したいと思います。

時代劇漫画「浮浪雲」( ※参照 )の背景画クイズ!

問題1( 難易度:初級 )

「浮浪雲」の主人公が一人の娘に声をかけているシーン‥‥‥‥

「 おねえちぇん、あちきと遊ばない? 」

このシーンの背景画はどのようなものになるでしょうか?

 問題2( 難易度:中級 )

主人公(同上)が立っている。その背景にヨコ線が一本、鉛筆でひかれています‥‥‥‥ このシーンの背景画はどのようなものになるでしょうか?

 問題3( 難易度:上級 )

主人公( 同上 )が煙管タバコを吸いながらあぐらをかいている‥‥ このシーンの背景画はどのようなものになるでしょうか?

以上の問題は、「 浮浪雲 」の読者なら大体お分かりになるかとは思うのですが‥‥‥‥ 答えは‥‥‥‥

1、町中  2、海岸  3、自宅の縁側( もしくは問屋場の荷物の上 )

1年もアシスタントをやっていれば、躊躇ちゅうちょする事もなくサクサクと背景画を入れていく事ができます。

アシスタントが出勤した時には、すでにデスクの上にその日仕上げなければならない数枚の原稿が置かれています‥‥‥‥( 先生の描いた人物だけが入っている )

上記の例題と同じ様に、室内( 居間、台所、勉強部屋 )、商店、田んぼのあぜ道、林道、街道、空、海、山‥‥‥‥

ほとんど、原稿用紙は真っ白‥‥‥‥ ジョージ先生が描いたキャラクターが各コマの中にポツンとあるだけで、後は真っ白です。

アシスタントは、その原稿だけを見ながら何を背景に描いたら良いかを瞬時に判断しています。

もっとも、極たまに‥‥‥‥ 一週間に一度くらい‥‥‥‥

「 このシーンは‥‥ 昼間ですか‥‥ 夜ですか‥‥‥‥? 」
とか‥‥

「 この人物は玄関を出た所にいるのか‥‥ それとも、まだ玄関の内側にいるのか‥‥? 」
‥‥など‥‥‥‥

どうしても分からない場合に限り、ジョージ先生に質問しに行くわけです。

滅多にはない事なのですが‥‥ 

キャラクターの服装についてジョージ先生に問い質す事もあります‥‥

これは、先月あった事なのですが‥‥‥‥

「 浮浪雲 」の話で、とても暑い夏の一日をテーマにした作品で、いつもの主人公である「 雲さん 」が服を脱いで、下着姿になっているのですが‥‥

慣れない服装のために、ジョージ先生もつい、いつもの服装( 着流し )を描いてしまう単純なミスを犯してしまうわけです‥‥

「 あれ‥‥? ヤバイよなぁ~これ‥‥‥‥ さっきフンドシ一丁だったのに、次のページでいつもの着流しに戻ってる! 」

このような時には、さすがに黙っているわけにもいかず‥‥‥‥ 隣の部屋で仕事をするジョージ先生のところへ原稿を片手にペタペタ( スリッパの音 )と出向いていきます‥‥‥‥

「 セ‥‥ センセ‥‥ これ‥‥ ちょっと‥‥ あの‥‥ この服なんですがぁ‥‥ 」
などと小声で話しかけます‥‥ すると‥‥‥‥

「 ありぃ‥‥‥‥!? 」

『 俺ィがこんなミスをするのか? 』といった感じで‥‥‥‥ それでも落ち着いて、サラサラッと裸の姿に描き直します。( 後は、私が巧くホワイト修正で服を消したりしておくわけです )

週に一回ぐらいは、こうして簡単なやり取りをするのですが‥‥‥‥ 普段はまったく、顔を合わせる事すらありません。

会話どころか、ホントに顔を一度も合わせる事なく、一日の仕事を終える事が普通の事なのです。

ちなみに、毎朝、出勤時に私はジョージ先生の背後から挨拶だけはするようにしています‥‥

「 お早うございます 」

「 ‥‥う‥‥‥‥ 」( 私を振り返る事もありません )

「 う 」か「 お 」という返事をいただける時は、まだ良いのですが‥‥‥‥ 最近は、3回に1回は無言( 無視 )のままなので気が気でなりません‥‥‥‥

『 ま‥‥ まさか‥‥‥‥ 今日、クビになるのでは‥‥!? 』( 汗 )

ちなみに‥‥ 通常の会社でしたら、「 お早う 」とか「 お疲れさん 」とか、当たり前に交わされるものですが‥‥‥‥ 秋山プロでは、先生から34年間( 結局40年間 )、そんな言葉を聞いた事がありません!( ホントに『 お早う 』を聞いた事がありません!)

もっとも‥‥‥‥ 20年以上前には、私は連日、遅刻ばかりしていましたので‥‥‥‥ 背後から小さな声( 蚊の鳴く様な声 )で挨拶すると‥‥

「 おめぃ~は何考えてっだよぉ~っ! 」( 濁ったような低い、モゴモゴした声です! )

などと振り返ってにらまれた事が懐かしく思い出されますが‥‥‥‥

上記のように、秋山プロでは一日、まったく口をきくこともなく( 先生ともスタッフとも )仕事が成立する事‥‥‥‥ ご理解いただけますかどうか‥‥‥‥

ちなみに、今( 2012年 )は、スタッフが私と先輩スタッフの二人きり‥‥‥‥ まるでお通夜の様な毎日なのです‥‥‥‥

たまに訪ねてくる編集員やマスコミ関係者にとっては、頭の薄くなった白髪まじりのオヤジが黙々と仕事している様子は‥‥‥‥ 息が詰まるような緊張したものに感じられるかも知れません‥‥‥‥。

60歳前後のアシスタントが怖い顔して‥‥ デスクに向かってますが‥‥‥

その頭の中は、空っぽなんです‥‥‥‥

  
 
  

      「 漫画家アシスタント物語 諦めま章〈6〉」へつづく・・・・

                  「諦めま章〈4〉」へもどる‥‥

                       「もくじ」 へ‥‥
 

 
 ~~~ 参照 諦めま章〈5〉 ~~~ ( 読んでも、読まなくても!)

 【その10】
・「浮浪雲」 : 青年漫画雑誌「ビッグコミックオリジナル」に1977年から2017年まで連載された時代劇。江戸、品川宿を舞台にした遊び人のモテ男‥‥問屋場の頭でもあり剣豪というユニークな主人公の物語。(何度もTVドラマ化、舞台化されました)一時政権党だった党首さんも大ファンとか。

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