「ワカル君、いきなりハプニング?」~キヅキさんとの出会い~
ゴルフ当日。初めての一人ゴルフだから迷惑かけないようと思って、余裕を持って家を出た。このペースなら1時間前にはゴルフ場に着けそうだ。
「やっぱりデキるゴルファーは、心にも余裕がないとね―!」
今日行くゴルフ場は前に一度行ったことがある。どんなゴルフ場だったか思い出しながら、いろいろと妄想は膨らむ。
「よーし、イメトレは完璧だ!・・・今日こそ100を切るぞ!」
・・・のはずが、ゴルフ場に向かう途中で大事なことに気が付いた。
「やばっ!シューズ忘れた!」
そういえばシューズを玄関に置いて、一回部屋に戻ったんだった。そしたら今度はシューズを置いたまま出てきてしまった!
慌ててUターンして家に戻ると、何やかんやで結局ゴルフ場に着いたのはスタート時間の30分前くらいだった。
「くっそー、余裕を持って到着して優雅にコーヒーでも飲もうかと思ってたのに、またギリギリじゃん!」
先ほどまでの妄想はすっかり消えてしまった。急いで支度してコースに向かうと、カートにはすでに少し年上の、眼鏡をかけた男性がいた。
穏やかな風貌で、少し知的な感じだ。よく見ると髪には少し白いものが混じっている。50歳くらいだろうか?
こちらが戸惑っていると、向こうから声をかけてきた。
「初めまして、木月(きづき)といいます」
「あ、こちらこそ初めまして。成程(なるほど)といいます。」
「こういう一人ゴルフって初めてで、迷惑かけちゃうと思うんですけど、よろしくお願いします」
(年齢から言って、この人が80台の人だな・・・何かゴルフ上手い人って、ピリピリした近づきがたいイメージがあったけど・・・思ったより優しそうな人で良かった!)
「誰でも最初は初めてだから気にしないで。天気もよさそうだから楽しみましょう」
「はい、よろしくお願いします」
優しい言葉をかけてもらって、少しホッとした。しかし、僕は大事なことに気がついた。
(それはそうと、同世代・同レベルのもう一人はどうしたんだ?その人が今日の心の支えなのに・・)
僕が少しきょろきょろしていると、それを察したのかキヅキさんが話しかけてきた。
「あ、言い忘れてましたけど、もう一人エントリーしていた方はキャンセルになったらしいですよ。ゴルフ場の人から連絡がありました。だから今日は2人ですね」
「え?そうなんですか?!」
(うっそー!何でその人キャンセルしちゃうのよ!上手い人と2人なんて緊張しちゃうよー!)
正直僕は動揺が隠せなかった。ただでさえ緊張するのに、マンツーマンだなんて!
「そうやって気軽に参加できたりキャンセルできるのが一人ゴルフのいいところでもあるんだけど、でもやっぱり当日のキャンセルは良くないよね・・」
・・・キヅキさんが何やら話していたが、動揺していて正直全然頭に入ってこなかった。
スタート1時間前に到着して、ゆっくりコーヒーを飲みながらコースの戦略を練っている・・イメージはもうすっかりなくなり、ただただ「どうやったら恥をかかずにラウンドを終えるられか」そんなことをずっと考えていた。
前の組は4人みたいだ。結構年配の人たちで、動きから見てあんまりプレーは速くなさそうだ。今日は結構待たされそうだな・・
そんなことを考えながら、しばらくして僕は腹をくくった。
(よーし、決まってしまったたことをどうこう言っても始まらない。せっかくだから、今回は勉強させてもらおう!)
いろいろ予想外のこともあったが、考えてみれば年上の人とラウンドする機会もなかったし、自分よりはるかに上手な人と2人だけでラウンドするということは、逆に、自分が上達するのにどうしたらいいのか、マンツーマンで教えてもらえるチャンスなのかもしれない。
(そう考えたら、これはむしろラッキーなのかも!せっかくのチャンスだから、この際、ゴルフの考え方とか、どういうスイングしてるのかとか、いろいろ教えてもらっちゃおう!)
そう考えたら、今までの緊張していた気持ちが少し楽になった。ヘタに実力が近いより、はるかにかけ離れていれば、無理してカッコつけることもない。自分のありのままをさらけ出して、いろいろ聞いちゃえばいいんだ。
朝のうち曇っていた空も、少しずつ日差しが差し込んできた。西の空は雲がないから、これからの時間は天気の心配はなさそうだ。
今までのラウンドとは違う期待感と、ちょっとした高揚感を感じながら、僕は大きく息を吸い込んだ。
