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第17話 京都駅の駅神様

  京都駅。新幹線に在来線、地下鉄、近鉄まで乗り入れる巨大ターミナル。ガラス張りの大階段と吹き抜けの天井はまるで近未来だが、そのすぐ外には千年の都が広がっている。観光客は皆「お寺? 抹茶? それとも伏見稲荷?」と口々に叫び、駅は一日中お祭り騒ぎだ。
 そんな京都駅を守る駅神様は、和服にエプロン姿という不思議な格好をしていた。本人いわく「古都と現代の折衷スタイル」らしい。手には柄杓を持ち、なぜか常にお茶を点てる真似をしている。
「さぁさぁ、本日も参拝……じゃなくてご乗車ありがとうございますえ!」
 駅神様は京ことば混じりに呼びかけるが、実際には人間には聞こえない。ただその調子に乗って、やることなすことがどこかコントじみてしまうのだった。
 朝、新幹線ホームでは外国人観光客の大群がきょろきょろしていた。
「トーキョー? ナラ? オーサカ?」
 駅神様は慌てて柄杓を振る。すると偶然、駅員が通りかかって見事に三方向へ案内する。観光客は歓声をあげて散っていった。
「ふぅ……ここは“観光の三叉路”やさかいな。間違えたら大変や」
 一方、在来線ホームでは修学旅行生が騒ぎ立てていた。
「清水寺ってどこから行くんすかー!」
「嵐山も行きたいー!」
 神様はうろたえ、エプロンのポケットから折りたたみ地図を引っ張り出す。だが細かすぎて自分でも読めない。
「ええい! 観光地が多すぎるんや!」
 その叫びに呼応するように、観光バスの大型案内がホームの窓越しに見え、学生たちは「あっち行こう!」と勝手に盛り上がって走り出す。神様は腰を抜かしながらも「まぁ結果オーライや」と笑った。
 昼時。駅ナカのフードコートは観光客でぎゅうぎゅう詰め。うどん、そば、ラーメン、京料理の看板が並び、客は全員「どれにしよう」と悩んでいる。神様も梁の上から覗き込み、唾を飲み込んだ。
「お漬物プレートに湯豆腐、抹茶パフェ……あかん、全部食べたい」
 その瞬間、通りすがりのサラリーマンが「ええい、もう全部頼むわ!」と声をあげ、トレイに山ほど乗せる。周囲の人もつられて「じゃあ俺も!」と続き、フードコートはまるで食いしん坊選手権になった。神様はお腹を押さえながらも、「あれはあれで京都らしい」とにやける。
 夕方になると、大階段では観光客が一斉に写真を撮っていた。LEDイルミネーションが点灯し、「インスタ映え!」と叫ぶ声があちこちで響く。駅神様はお茶を点てる真似をやめ、柄杓をくるりと振った。すると偶然、カップルのスマホに美しい光の模様がぴたりと収まり、彼らは抱き合って喜んだ。
「恋のご利益までサービスしときましたえ」
 だが夜、最後の新幹線を見送ったあと、駅神様は大きくため息をついた。
「……なぁ、京都って観光地が多すぎひん? ワシ一人やと回りきれんのやけど」
 その愚痴を聞いたのか聞かないのか、風がすうっと吹き抜ける。駅の外では深夜バスが次々に発車し、まだまだ観光客を運んでいく。
「ま、しゃあない。明日も“どこ行けばええんですか祭り”が始まるんやろな」
 神様は肩をすくめて笑った。エプロン姿のその背中には、観光客の声と笑いがしっかり刻まれていた。


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