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第35話 川崎駅の駅神様

  京浜東北線、東海道線、南武線――三路線が行き交う川崎駅。改札を抜ければ、すぐに大型ショッピングモールがそびえ立ち、休日は買い物客でごった返す。通勤客も観光客も入り乱れ、駅は一日じゅう活気に満ちている。
 ここを守る駅神様は、ラテン音楽好きのおじさんだ。頭にはカウボーイハット、手にはマラカス。どうしてもリズムを刻まずにはいられない性分である。
「オーレ! 今日も人の流れ、リズムよくいくでー!」
 朝、南武線から東海道線に乗り換えようとする人々が一斉に走り出した。神様はマラカスをシャカシャカ振り、リズムを刻む。すると不思議なことに、走る人の足取りが自然と揃い、混乱なく改札を抜けていく。
「グルーヴって大事やねん。リズムさえあれば、人はぶつからへん!」
 昼になると、ラゾーナ川崎のフードコートは家族連れでいっぱい。子どもが泣き出して母親が困っているのを見て、神様はマラカスを振り下ろす。すると、目の前の大型スクリーンでちょうど子ども向けアニメの映像が流れ出す。子どもはピタリと泣き止み、母親はほっと笑った。
「ほーら、音楽と映像で解決や!」
 午後、駅前の広場ではストリートパフォーマーがギターを弾き始める。神様は気分が乗って、梁の上から一緒に手拍子を始めた。すると観客が集まり、パフォーマーは思わぬ大盛況に。本人も驚きながら「今日は調子がいいな!」と叫んだ。
「ふふん、駅神様の隠れバックバンド効果やな」
 夕方、帰宅ラッシュのホームで、疲れたサラリーマンが「うわ、乗れない!」と嘆いていた。神様はマラカスをぐるりと回す。するとちょうど一人が降りてスペースが空き、サラリーマンは滑り込むことができた。
「ほら見てみぃ、人生タイミングが命や!」
 夜。最後の電車が走り去り、駅に静けさが戻る。神様はマラカスをひとつ床に置き、軽く肩を回した。
「川崎は音楽の街や。明日も人の流れを最高のリズムに仕立てたるで!」
 その声は誰にも届かない。けれど、駅を出ていく人々の足取りは、どこか音楽に合わせるように軽やかだった。


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