第117話 浦和駅の駅神様
京浜東北線・宇都宮線・高崎線が交差し、駅前にはサッカー関連の旗や赤いユニフォームを着た人々があふれる。浦和駅は、まさに「レッズの聖地」と呼ぶにふさわしい。
そんな浦和駅を守る駅神様は、赤いマントを羽織った熱血漢だ。手にはサッカーボールを抱え、やたらと実況調で人の流れを見守っている。
「おっとー! ただいま改札口、サポーター軍団が一気に突入してきたぁ! 旗を振る手にSuicaを握るのは至難の業! しかしここで駅神、華麗なるスルーパス!」
神様がボールを蹴る真似をすると、偶然自動改札が一瞬スムーズに開き、サポーターたちは見事に改札を抜けていった。
「ゴーーール! 見事な突破力! 今日も埼スタへ快進撃だぁ!」
午前中、ホームで中学生が友人と口論していた。
「浦和美園行き? あれ、違う電車?」
「え、東川口? なにそれ?」
神様は頭を抱えた。
「路線図がサッカーの戦術ボードに見えるやろ? でも大丈夫、ワシが解説したる!」
指を鳴らすと、ちょうど近くにいた親切なおばさんが「埼スタなら浦和美園行きに乗ればええんよ」と教えてくれる。中学生は「助かった!」と笑顔に。
「よし、ここでもアシスト成功! サッカーは一人じゃできへんのや!」
昼時。駅ナカの蕎麦屋にサラリーマンの行列ができる。天ぷらそばかカレーうどんかで迷う人々に、神様はニヤリと笑い、ボールをポンと弾いた。すると、厨房から揚げたてのかき揚げが「じゅわっ」と音を立てて登場し、行列は一斉に天ぷらそばへ傾く。
「戦術的勝利や! 飯テロの一点先取!」
午後になると、駅前の商店街では赤いレプリカユニを着た子どもたちがボールを蹴って遊んでいる。神様は思わず目を細める。
「ええなぁ……将来のストライカー候補やな。浦和は世代交代もうまいんや」
しかし夕方、帰宅ラッシュに巻き込まれた観光客が「え、浦和って駅多くない? 北浦和? 南浦和? 中浦和?」と大混乱。神様はひっくり返りそうになった。
「せやねん! 浦和は多すぎるねん! 誰やこんなに作ったん!」
結局、地元の高校生が「埼玉スタジアム行くなら浦和美園っす」とさっと教え、観光客はなんとか正しい電車に乗る。神様は胸をなで下ろしつつ、「今日はPK戦に勝った気分や」と呟いた。
夜、スタジアム帰りのサポーターが赤いマフラーを揺らして駅に戻ってくる。勝っても負けても歌いながら帰ってくる彼らを見て、神様はマントを広げて叫んだ。
「よっしゃー! 浦和は今日も熱かった! 明日も人も電車も、全部まとめて応援したるで!」
その声は人には届かない。けれど駅を出ていく人々の背中には、どこかスタジアムの熱気が残っていた。
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