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第84話 三ノ宮駅の駅神様

  神戸の中心・三ノ宮駅。JR・阪急・阪神・地下鉄が入り乱れ、南へ行けば港、北へ行けば山。街の空気はおしゃれで、どこか港町らしい余裕も漂っている……はずなのだが、駅の中はいつも人でごった返している。
 そんな三ノ宮を守る駅神様は、港町らしく水兵帽をかぶった陽気なお兄さんだ。胸には錨のブローチ、肩にはオウム(もちろん神様仕様で人には見えない)がとまっている。
「おーい! 本日も入港ありがとさーん! みんな迷子にならずに甲板へ……いや、改札へ進むんやでー!」
 朝のラッシュ。JRから阪急に乗り換えようとする人々が、流れるように改札を抜けていく。だが一人、寝ぼけた学生が阪神の改札に吸い込まれそうになった。神様はオウムに合図を送る。
「おいっ、右や右! 阪急はそっちちゃうで!」
 オウムが「ミギ! ミギ!」と叫ぶと、学生はハッと気づいて引き返す。神様は親指を立て、「よし、航路修正完了!」と満足げに笑った。
 昼、観光客の家族が駅前で立ち止まる。
「北野異人館ってどっち?」
 神様は水兵帽を揺らし、指笛をひと吹き。すると山の方角にちょうど観光バスが停まり、案内係が旗を振っていた。家族は「あっちだ!」と声をあげて駆け出す。
「はーい、安全航行! 神戸の風に乗っていってらっしゃーい!」
 午後、神戸っ子の女子高生たちが駅ナカでスイーツの話題に夢中になっていた。
「やっぱりパンケーキ?」「でも南京町で小籠包も食べたいし」
 神様は苦笑いしながら、ポケットからカスタードクリームの香りをふわりと漂わせる。すると偶然、駅前の洋菓子店の呼び込みが耳に入り、女子高生たちは「ここにしよ!」と笑顔で突入した。
「スイーツは港町の誇りや。悩んだら甘い方へ行け!」
 夕方、帰宅ラッシュが始まると、人々は阪神・阪急・JRの改札を目指して入り乱れる。神様は慌てて両手を広げ、交通整理のジェスチャー。
「はいはいー! 阪急組は右へ、阪神組は左へ! JRは真っすぐ航路をとれー!」
 その大げさな動きに合わせるかのように、人の流れが少しずつ整理されていく。実際には偶然が重なっただけだが、神様は胸を張って叫ぶ。
「三ノ宮の大海原を仕切るのはこのワイや!」
 夜。駅前のイルミネーションが輝き始め、若者たちが港へ歩いていく。神様は水兵帽を脱ぎ、梁の上に座ってため息をついた。
「……ほんま、路線多すぎてワイも混乱するわ」
 オウムが「コンラン! コンラン!」と繰り返す。神様は吹き出しながら、その頭をなでた。
「ま、ええか。迷子も、寄り道も、神戸の楽しみのひとつやしな」
 そして鉄道の音と海風のざわめきが混ざる夜に、三ノ宮駅の駅神様はマラカスの代わりにオウムと一緒に「ご苦労さん!」と叫ぶのだった。
【終】



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