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第23話 博多駅の駅神様

  九州の玄関口、博多駅。新幹線、在来線、地下鉄、バスターミナルまで備えた巨大ターミナルで、観光客もビジネスマンもひっきりなしに行き交う。おまけに駅ビルはグルメ天国で、明太子やラーメンの香りが常に漂っている。
 そんな博多駅を守る駅神様は、博多織の羽織にラーメン鉢を抱えた陽気なおっちゃんだ。頭には「祭」と書かれたねじり鉢巻き、手にはとんこつスープの柄杓。
「今日もよか香りばしとる! さぁみんな、腹ごしらえしてから電車に乗んなっせ!」
 朝、スーツケースを引いた観光客が新幹線ホームで迷っていた。
「鹿児島? 長崎? どっち行き?」
 神様は柄杓を振ると、ちょうど案内板の電光掲示が切り替わり、「鹿児島中央行き」と赤々と表示された。観光客は歓声をあげて列に並ぶ。
「はい一件落着! ラーメン一杯ぶんの奇跡やね!」
 午前中、在来線ホームではビジネスマンが「久留米行きってどっち?」と焦っていた。神様はラーメン鉢を差し出し、「替え玉追加!」と叫ぶ。すると偶然、アナウンスが「久留米行き快速は三番ホーム」と響き、ビジネスマンは走り出す。
「よし、替え玉効果抜群!」
 昼になると、駅ビルのレストラン街は長蛇の列。観光客が「ラーメン? モツ鍋? 明太子?」と悩みに悩んでいる。神様は眉をしかめて頭を抱えた。
「そんなもん、どれも食べたらよかろーもん!」
 と、柄杓を振った瞬間、観光客が「ええい全部頼もう!」と叫ぶ。テーブルの上は鍋とラーメンと明太子で山盛りになり、店員は大慌て。しかし観光客は大満足で写真を撮りまくる。神様はにんまり笑って親指を立てた。
 午後、地下鉄の改札口で外国人旅行者が困っていた。
「キャナルシティ? ドコ?」
 神様はラーメン鉢を高く掲げる。すると近くにいた大学生が自然に「一緒に行きましょうか」と声をかけた。旅行者は感激して頭を下げ、神様は涙ぐみながら「若者よか仕事しとるばい」と呟く。
 夕方、帰宅ラッシュが始まり、駅構内は大混乱。神様は柄杓を振り回しながら叫んだ。
「さぁ行け! 博多の人は速いけん、テンポ合わせんと巻き込まれるばい!」
 そのリズムに合わせるように、人の流れが自然と速くなり、混雑は不思議と解消されていった。
 夜。博多の街から屋台の提灯が赤く灯り始め、飲み屋帰りの人々が駅に戻ってくる。神様は梁に腰かけ、湯気の立つラーメンをすする真似をしながらつぶやいた。
「博多駅は、観光も仕事もグルメもぜーんぶ抱えとる。そりゃあ忙しかけど……その分、人の笑顔も腹いっぱいやね」
 そしてラーメン鉢を高く掲げ、夜空に向かって叫んだ。
「替え玉もう一丁! 明日も腹いっぱい、笑顔いっぱいにしたるばい!」
 その声は誰にも届かない。けれど、改札を抜けて帰る人々の足取りは、どこか満腹感に包まれていた。


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