第45話 船橋駅の駅神様
総武線と東武アーバンパークラインが交差し、駅前にはデパートと商店街、そして競馬場やららぽーとまで抱え込む、千葉の大ターミナル・船橋駅。
ここを守る駅神様は、半纏姿に鉢巻き、肩に大根を担いだ豪快なおっちゃんだ。自称「市場と商店街の守護神」。やたらと声がでかく、梁の上からでもその調子は変わらない。
「おいおい! 改札口で立ち止まるな! “右よし左よし”で突っ走れやー!」
朝のラッシュ。通勤客が総武線ホームを埋め尽くす。そこにカバンをひっくり返した学生が。ノートや筆箱が床に散乱し、ホーム全体が一瞬ざわつく。神様は肩の大根をブンと振る。すると、通りかかったサラリーマンが偶然ノートを拾い、「これ落としたよ」と差し出した。学生は慌てて礼を言い、流れはすぐに戻る。
「よっしゃ、商店街式“助け合い精神”や!」
午前中、観光客の親子が駅前で首をかしげていた。
「競馬場ってどっち?」
神様は腹を叩き、にかっと笑う。
「よっしゃ、今日はレース日やな! こっちやこっち!」
もちろん人間には聞こえない。だがちょうどその時、競馬新聞を小脇に抱えたおじさんが横を通り、「競馬場? 一緒に行こうや」と声をかけた。親子は大喜びでついていき、神様は大根を抱え直して満足げにうなずいた。
「ふふん、船橋の案内は地元のおっちゃんが一番や!」
昼時。デパ地下はお惣菜を買う人であふれていた。唐揚げかコロッケかで迷う主婦を見て、神様は大根をポンと掲げる。すると、たまたま揚げたてのコロッケが「揚げたてです!」と並べられ、主婦は「これにするわ」と笑顔で購入。
「決断力は“揚げたて”から生まれるんや!」
午後になると、駅前のバスロータリーでは子どもが「ららぽーと行きたい!」と駄々をこねていた。神様は大根を一振り。偶然、行き先表示が点滅して「ららぽーと」と大きく見え、母親は「ほら、すぐ来るじゃない」と笑う。子どもは跳びはねて大喜び。
「はい満点! 商店街の子育て支援はばっちりや!」
夕方、帰宅ラッシュが始まり、ホームはぎゅうぎゅう詰め。神様は大根を太鼓代わりに叩きながら叫んだ。
「みんなー! 押すなよ! 今日は“船橋音頭”で流れるんや!」
リズムに合わせるように、人々の流れがなぜか少しスムーズになった。サラリーマンが「なんか今日は混んでる割に楽だな」とぼやき、神様は鼻高々に笑う。
夜。改札を抜けた人々が商店街に吸い込まれていく。居酒屋からは焼き鳥の煙、魚屋からは元気な声。神様は大根を肩から下ろし、梁の上であぐらをかいてつぶやいた。
「船橋は市場も商店街も駅もひっくるめて“人情の寄せ鍋”やな。明日もたっぷり具材を詰め込んだろ!」
その声は誰にも届かない。けれど駅を出ていく人々の顔は、どこかほころんで見えた。
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