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第20話 新大阪駅の駅神様

  東京から新幹線に揺られること数時間、たどり着くのは西の玄関口・新大阪駅。旅行者も出張族も一斉に降り立ち、そこからさらに在来線や地下鉄に乗り換えて、大阪の街へと散っていく。
 そんな新大阪を守る駅神様は、たこ焼きの湯気をまとったようなおっちゃん神だ。腹巻きに法被姿、手には鉄板返しを二本。本人はいたって真面目に「これが正装や」と言い張る。
「ほな、今日も新幹線組をおもてなしするでー!」
 朝、新幹線からぞろぞろ降りてきたビジネスマンたちが「梅田? 心斎橋? どう行くんや?」と口々に混乱している。神様は鉄板返しをカンカンと鳴らし、「御堂筋線! 御堂筋線!」と叫ぶ。もちろん人には聞こえない。だが偶然、駅構内アナウンスがちょうど同じタイミングで「御堂筋線はこちら」と流れ、一行は無事に改札へ吸い込まれた。
「よっしゃ! これで今日も会議に間に合うやろ。……ま、内容は知らんけどな!」
 昼前、観光客のカップルが改札口で立ち尽くしていた。
「道頓堀ってどっちから?」
 神様は鉄板返しをくるりと回す。すると、近くの若者がグリコポーズを決めながら「御堂筋線やでー」と声をかける。観光客は爆笑しながら地下鉄へ駆け込んだ。
「サービス精神旺盛な若者に拍手! 大阪の血は伊達やないわ」
 午後になると、お土産コーナーが人でごった返す。神様は梁の上から覗き込み、思わず腹を鳴らす。
「りくろーおじさんのチーズケーキに、赤福、八つ橋、551の豚まん……欲張りセットか!」
 見ているだけで食べた気分になったが、観光客が「どれにしよう」と悩んで動けなくなると、神様は慌てて鉄板返しを振った。すると、たまたま店員が試食の豚まんを差し出す。観光客は「うまっ!」と即決で購入した。
「ほれ見い! 大阪のお土産は腹で決めるんや!」
 夕方。乗り換えに迷った旅行者が在来線ホームでつぶやいた。
「新大阪って、大阪駅と別なのか……」
 神様は頭を抱える。
「それな! みんな一回は混乱するやつ! ワシらも説明めんどいねん!」
 結局、旅行者は地元の学生に案内されて事なきを得たが、神様はため息交じりに笑った。
「まぁ、迷っても人の縁が生まれる。それが駅の醍醐味や」
 夜、新幹線の最終列車がホームを離れる。スーツケースを引く人々、串カツの匂いをまとって帰る人々、さまざまな一日が新大阪から再び広がっていく。
 神様は鉄板返しを肩に担ぎ、屋根の上で大声を張り上げた。
「さぁて明日も、たこ焼きみたいに熱々の一日が始まるでー!」
 その声はもちろん人には届かない。だが不思議と、駅を出ていく人々の表情には、ほんのり笑みが浮かんでいた。


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