心に重低音を響かせろ
黒板が、レモン色に塗り替えられた瞬間があった。
あの日から私の世界は、色と音が重なり出した。
でも、そんなことを言いながら、今の私は無音の中で画面を見つめている。
目につくタイトルってなんだろう。
フルボリュームで考えても出てこない。
興味をそそるつかみの文章ってなんだろう。
モアエナジーで絞り出しても出てこない。
楽しい方向ってどっちだろう。
フルコースが並んでも選べない。
いつだって自分では何もできないから、見よう見まねで周りの人についていく。
小学生の頃からそうだった。
校区外の学校に行ったから、保育園の時の友だちはいなかった。
加えて私は人見知り。
ただ椅子に座って黒板を見ていた。
1、2年生の頃はそんな日々だったと思う。
3年生になってクラス替えがあった。
いつも通り黒板を見つめていたら、声をかけられた。
「ギャグ考えたんだけど見てくれる?」
私と黒板の間に突然現れたのは、クラスメイトの久田まゆこだった。
「…うん」
否定する理由もないので、応じてみた。
「じゃあ、いくね」
「でもレモン!!!!!!!!!」
黒板が割れるほどの音量だった。
目の前に差し出されたのはエアレモンだった。
この瞬間から私の視界は、黒からレモン色に変わった。
⸻というのはnote向けの脚色だが、本音はこうだ。
「夢ならばどれほどよかったでしょう」
米津よりも先に、苦いレモンの匂いを味わっていたのだ。
久田は続ける。
会話の中で「でも…」が出てきた時に発すること。
これを流行らせたいから協力してほしい。
とのことだった。
黒板も割れてしまったし、やることもなかったので、応じてみた。
「でもレモン」拡散に向けて、会話が増えた。
「でも」に繋がる言葉を探して、頭を働かせた。
エアレモンを差し出すために、運動量が増えた。
やっと私に友だちができた。
やっと学校が楽しくなった。
久田の誘いで、器楽部に入った。
久田の誘いで、学校のステージで歌った。
曲はモーニング娘。の『Mr.Moonlight〜愛のビックバンド〜』
歌い出しの「愛をください〜」を担当したのだから、小1の時に比べたら成長したものだ。
久田の誘いでラジオごっこもした。
架空のハガキを読んだり、架空のリクエスト曲を流したりした。
リクエスト曲は『ハッピーサマーウエディング』だった。
音源はないので、2人で踊りながら歌った。
これを全てカセットテープに録音した。
今この世に存在していないことを、強く願う。
久田は小学校卒業とともに、遠くへ引っ越した。
卒業式で一人だけみんなと違う制服を着た久田は、なんだか誇らしかった。
「でもレモン」の拡散は失敗したが、手紙の文中にイラストを添えることで、命を繋いだ。
中学でも、高校でも、こうして私の手を引いてくれる存在がいた。
その存在がなければ、今頃「副業!」「収益化!」なんてギラついた文章を書いていたかもしれない。
そもそも文章すら書いていなかったかもしれない。
黒板を見つめたまま、時が止まっていたかもしれない。
社会に揉まれて流れ着いたnoteでも、その存在がいた。
収益化を目指したギラついたXのDMに紛れて現れたのは、明日原しろのさんだった。
「コラボタイトルを考えました!」
「“たいたよ、しろのごはん”はどうですか?」
「“DANZEN!ふたりはプリキュア!”みたいに
“TOTSUZEN!たいたよ、しろのごはん!”はどうですか?」
久田以来の出会いだった。
エアレモンを差し出されたあの時。
コラボタイトルを差し出された今。
レモン色だった視界が、カラフルに色づいた。
こうして私は、突然プリキュアに任命されたのだ。
明日原しろのさんの文章を初めて読んだ時は衝撃的だった。
ファンシーなのにロック。
カラフルなのにダーク。
ふわふわなのに鋭利。
こんな感覚になったのは初めてだったから、即フォローとコメントを送った。
ファンとして読んでいたのに、まさかプリキュアになれる未来が来るなんて。
呆然と立ち尽くす私に、しろのさんはぐいぐいと手を引く。
「スナックをやりましょう!」
プリキュア引退後は、スナックのママになるらしい。
なんだかとっても未来が明るくなった。
ところで、プリキュアって何をするのだろう。
その一歩を踏み出したのは、やっぱりしろのさんだった。
しろのさんがダンスサイトに招いてくれた。
いつも読んでいた文章に、私の名前がある。
そわそわしてしまったけど、プリキュアを結成したのだから、堂々としていなければ。
今日はそのアンサーソング。
うまく書けたかな。
行動力のない私。
新しいことが苦手な私。
その手を引く存在は、いつも眩しい。
もうプリキュアになったのだから、眩しさを跳ね返すことだってできる気がした。
タイトルもつかみの文も、考えるのは苦手だ。
文章なんて、国語でしか習ったことがないのだから。
気づけば、なんだかnoteからはみ出てしまったようだ。
それでも“自称・プリキュア”なんて、きっとnoteにはいない。
はみ出した者にしか書けない文章があると思う。
「でも…」
なんて言い訳しそうになったら、特大のレモンが飛んでくるから気をつけろ。
言い訳している暇があったら、動ける準備をしておけ。
書いて書いて書きまくる。
歌って踊って戦うんだ。
そして疲れたらスナックに集まろう。
朝まで重低音を響かせて、みんなで朝日を浴びるんだ。
そんな夜明けを、私は信じている。
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みっくみくにしてやんよ ⊂ミ⊃^ω^ )⊃