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簿記3級よりも先に鍛えたいもの――決算書を読んで「何をすべきか」判断する力

「社長や幹部には、まず簿記3級を取ってもらいましょう」。
中小企業の現場で、こうした声をよく耳にします。簿記の勉強自体はとても大切ですし、私も反対ではありません。ただ一方で、「簿記3級に受かった=決算書が読めるようになった」「=経営判断ができるようになった」と考えてしまうのは、少し危ういなとも感じています。

簿記が教えてくれるのは、「取引をどう仕訳し、どう集計していくか」というルールの世界です。
一方で、経営者や幹部に本当に必要なのは、
• この貸借対照表(BS)は、どんな会社の構造や体力を表しているのか
• この損益計算書(PL)は、どの事業・どの現場の動きが、どの数字に効いているのか
• この数字のまま進むと、将来どうなりそうか・今なにを変えるべきか

といったことを読み取り、経営の判断材料に変えていく力です。

言い換えると、

「仕訳ができる力」と
「決算書から打ち手を考える力」
は、似ているようでいて別物だということです。



簿記は「成り立ち」を知るための基礎体力

もちろん、簿記を学ぶことにも大きな意味があります。
なぜなら、決算書というのは、簿記のルールに従って積み上げた結果であり、成り立ちを知らないと「数字の裏にあるストーリー」が見えにくいからです。
• なぜ売上を計上した瞬間に、まだ入金されていないのに「売掛金」が立つのか
• なぜ「減価償却費」という現金の出ていかない費用があるのか
• なぜ在庫が増えると、利益は出ているのにお金が苦しくなるのか

こうした疑問は、簿記の基本を知っているかどうかで理解の深さがまったく変わります。
ですから、簿記は「決算書の成り立ち」を理解するための重要な基礎体力です。

ただし――ここが大事なポイントですが――

簿記を勉強したからといって、
そのまま「経営判断ができるようになる」わけではありません。

筋トレだけしていても、サッカーの試合運びが上手くなるとは限らないのと同じです。
試合で必要なのは、「状況を見て、どこにパスを出すか」「いつシュートを打つか」を決める力です。簿記は、あくまでその前段階の筋力トレーニングに近いものだと捉えたほうが良いと思います。



経営者に必要なのは「数字を見て、何をするか」を決める力

では、簿記3級よりも先に、あるいは並行して鍛えるべき「経営者の数字力」とは何でしょうか。
私自身の経験からいうと、次の3つが中心になります。
1. 貸借対照表を“箱”で捉える力
• 資産・負債・純資産を、金額の大きさに応じて「箱」としてイメージする
• 「この会社はどこにお金(資産)を張っていて、どこから資金(負債・純資産)を調達しているのか」を感覚でつかむ
• 自己資本比率や有利子負債などの“構造”を見て、体力やリスクを判断する
2. PLの数字と現場の動きを結びつける力
• 売上・粗利・販管費・営業利益を、商品・取引先・部門などと紐づけて考える
• 「この費用は、本当にこの売上・この利益を生むために必要だったのか?」と問い直す
• 赤字/黒字だけでなく、「どこをいじれば一番効くのか」を探す癖をつける
3. 数字を使って「もし〜なら?」をシミュレーションする力
• 「この赤字事業をやめたら、BSとPLはどう変わるか」
• 「この投資をすることで、3年後の利益と借入残高はどうなるか」
• 「人件費を◯%上げたときに、労働分配率や採算は持つのか」

この3つは、仕訳が1行も切れなくても、トレーニング次第で身につけることができます。
むしろ幹部や次期社長には、**「仕訳の正しさ」よりも「意思決定の質」**を先に鍛えたほうが、会社全体の成果に直結しやすいと感じています。



どうやって鍛えるか? 実務に近いトレーニングを

具体的な鍛え方は、また別の記事で詳しく書こうと思いますが、方向性だけお伝えしておきます。
• 現在の自社の貸借対照表を手書きで“箱”にしてみる
• 過去3年分の決算書を並べて、「この3年で体型がどう変わったか」を言語化してみる
• 実際の投資案・撤退案を題材に、数字ベースで“もし〜なら”を検討する練習をしてみる
• 「この数字の変化の裏側で、現場では何が起きていたのか?」を、現場の幹部と一緒に振り返る

こうしたトレーニングは、簿記のテキストにはあまり出てきません。
しかし、経営の現場で戦える「数字の筋肉」は、こうした実務寄りの鍛え方でこそ育つと実感しています。



まとめ:簿記3級はゴールではなく、“入口の入口”

誤解のないように言えば、私は簿記3級に価値がないと言いたいわけではありません。
むしろ、決算書の成り立ちを理解するうえで、とても良い教材です。

ただし、
• 「簿記3級を取ったら、それで一安心」ではなく
• 「簿記で“成り立ち”を押さえつつ、決算書を経営判断に使う練習を重ねる」

という順番で考えていただくほうが、会社にとっても、社長・幹部の方にとっても、はるかにリターンが大きいと思います。

次回は、

「簿記より先にやりたい“貸借対照表の箱トレーニング”」
のような形で、具体的な鍛え方を書いてみたいと思います。

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