数学の作問と創作詰碁の違いは?Gemini3が書いたショートショート
「ふう……。これで来週の中間テスト対策プリント、数学の作問はバッチリですね」
学習塾の講師室。夜の授業を終えた山野詩織は、印刷したてのプリントをトントンと机に揃え、ホッと息を吐いた。
「お疲れ様、山野先生。どれどれ、見せてごらん」
隣のデスクでノートPCを閉じたのは、講師仲間の川辺亘だ。塾では数学と英語を教えているが、その正体は碁打ちである。
川辺は眼鏡の位置を直し、詩織の作った2次関数の問題に目を落とした。
「うん、いい逆算(バックワード・デザイン)だ。最初に答えを綺麗に決めて、そこから係数を組み立てたね? 途中の計算は少し骨があるけれど、最後に数字がピタッと噛み合う。生徒が達成感を得られる良問だ」
「ありがとうございます! 川辺先生に褒められると自信がつきます。……あ、そうだ。前からちょっと気になっていたんですけど」
詩織はパイプ椅子をくるりと回し、川辺に向き直った。
「数学の問題を作るのって、川辺先生がいつもSNSに上げている『創作詰碁』を作る感覚と、やっぱり似ているんですか?」
「お、鋭いところを突いてくるね」
川辺は嬉しそうに目を細めた。
「結論から言うとね、『思考のルートを設計する』という意味では、驚くほどそっくりだよ。でもね、決定的な違いがいくつかあるんだ。……そうだな、一番の違いは『対話相手の数』かもしれない」
「対話相手、ですか?」
「そう。数学の作問は、いわば『一本道の美しい登山ルート』を整備する仕事なんだ。解く生徒(登山者)が迷子にならないように、(1)で足場を作って、(2)で景色を見せて、(3)で頂上に導く。想定外のルート(別解)がないか、泥沼の計算にハマる崖がないか、隅々まで点検する。つまり、作成者と生徒の一対一の丁寧な対話なんだよ」
詩織は深く頷いた。「確かに、変なひっかけや曖昧な表現で迷わせないように、すごく気を遣います」
「だろう? 一方でね、創作詰碁はちょっと毛色が違う。詰碁っていうのはね、作成者と、それを解く人(正解の手順を追う黒)だけの世界じゃないんだ。もう一人、『全力で抵抗してくる白』という最悪の邪魔者が最初から組み込まれている」
「あ……! 相手の応手(おうしゅ)があるわけですね」
「その通り。詰碁の作問で最もエネルギーを使うのは、実は『正解ルート』を作ることじゃない。『こう打たれたら、白はどう抵抗するか?』『その抵抗を黒はどう咎めるか?』という、ありとあらゆる『変化図』の検証なんだ。正解が1つだとしても、不正解のルートに潜むトラップ(白の罠)をすべて完璧にコントロールしなきゃいけない。数学の作問が『綺麗な一本道の設計』なら、詰碁の作問は『四方八方から攻めてくる敵を想定した、難攻不落の迷宮の設計』だね」
川辺はペンを置き、悪戯っぽく笑った。
「だからね、数学の問題で『計算が地獄になるノイズ』は嫌われるけれど、詰碁において『白のいやらしい粘り』は、むしろ問題に深みを与えるスパイスになる。そこが面白いところさ」
「なるほど……。数学は導く優しさ、詰碁は騙し合いの美学、みたいな感じでしょうか」
「ハハハ! 言い得て妙だね。でも、共通する一番の喜びは同じだよ」
川辺は、詩織が作ったプリントを優しく手渡した。
「解いた生徒が『あ、そうか!』って、霧が晴れたような顔をする瞬間。あのカタルシス(解放感)を味わわせたくて、僕らは夜な夜な、うんうん唸りながら問題を作っているんだからね」
「そうですね。来週、生徒たちがどんな顔をするか、ちょっと楽しみになってきました」
外はすっかり暗くなっている。二人はどちらからともなく席を立ち、静かな夜へと帰る支度を始めた。
