2026.3.27 金 朝 羽化
朝の光が気分を軽くした。それだけのことで、庭に出てみた。落ち葉を掃き、大きくなった雑草をぼちぼちと抜く。しゃがんで土に近づいたとき、縁台の下に何かがぶら下がっているのに気がついた。

蜘蛛の巣に引っ掛かった何か、と最初は思った。けれどそれはかすかに動いていた。風でもなく、虫でもなく、もっとゆっくりとした動きで。目を凝らしたとき、褐色のサナギと、そこから滲み出るようにして広がる翅が見えた。アゲハ蝶が、今まさに羽化しているところだった。

我が家には柚子とすだちの木がある。アゲハの幼虫もサナギも、見慣れた光景だ。夏ともなれば三羽五羽と飛び交う。それでも今日は少し驚いた。まだ三月。ただその驚きはすぐに、そうか、春はもうそこまで来ていたのかという、静かな納得に変わった。

暫く見守ったが、やがてその場を離れた。数時間後に思い出して戻ってみると、もうそこには空になったサナギの殻だけが残っていた。

飛び立った後の殻を見ながら、願わくばと思った。元気に飛びまわってほしい。パートナーと出逢い、子孫を残してほしい。柚子の葉に卵を産んで、また来年もここで羽化してほしい。それは自分の庭を想う気持ちなのか、あるいは別の何かを重ねていたのか、自分でもよくわからなかった。ただその小さな抜け殻を、しばらくそっと見つめていた。
