群馬で家を探してみようか Ver.8 〜犬友に聞く土地の記憶〜
無事に物件の申し込み(仮押さえ)を済ませたものの、まだ私の心は完全に落ち着いたわけではなかった。
ネットの数字やAIチームの分析は確かだ。
けれど、その土地が持つ本当の空気や歴史は、そこに長く暮らす人に聞くのが一番間違いない。私はさっそく、毎日の散歩仲間である犬友達に、それとなく探りを入れてみることにした。
五右衛門を連れていつものように散歩をしながら、新しく見つけた物件のエリアについて尋ねてみる。すると、地元ならではの興味深い歴史が次々と溢れ出してきた。
「あの辺りはね、昔ながらの地主さんがずっと大切に持っていた由緒ある土地なんだよ」 「あの界隈は昔からお医者さんが多く住むエリアでね。それにね、今あなたが住んでいるこの場所は、前橋空襲の戦火をギリギリで逃れた歴史がある土地なんだよ」
毎日何気なく歩いていた街並み。
その背後にある歴史や人々の営みが、犬友達の言葉を通して立体的に繋がっていく。同じような質問はAIにも投げかけていたけれど、土地に根ざした独自の記憶や情緒は、やはり生身の人間に聞くに限る。
「あそこにそんな手頃で程度のいい掘り出し物があったなんて、良いお買い物したね!」
地元の酸いも甘いも知る犬友達からのお墨付きをもらった瞬間、契約に対して募っていた不安が、もう一つ、綺麗に解消されていくのが分かった。
しかし、安心と同時に、胸の奥をチクリと刺す寂しさもあった。
家が変われば、毎日のように五右衛門と訪れ、大切な仲間たちと他愛のないお喋りを楽しんでいたこの公園には、もう気軽には来られなくなってしまう。
「寂しくなるね」と溢した私に、犬友達は優しく笑って言った。
「何言ってるの、あのあたりからも散歩に来る人いるのよ。またいつでも遊びに来ればいいじゃない。それにね、あの新しい家の近くにも、すごく良い公園があるのよ」
その言葉に、ふっと肩の力が抜けた。
ーー住めば都、なのかな。
引っ越しまでは、まだ数ヶ月の時間がある。
大好きなこの公園での時間、そして芽理の面影が残るこの街での日々を、一日一日、五右衛門と一緒に愛おしむように過ごしていこう。
そう心に誓いながら、私は次なるステップである「契約」へと、確かな足取りで進んでいった。
