2026 北海道旅 8日目 ~故郷を辿り、人の温かさに出会う~
朝7時。
斜里グリーン温泉ホテルで目を覚ます。
窓の外を見ると、今日もどんよりとした空だった。


今回の北海道旅は、快晴の日が本当に少ない。でも、不思議ともう気にならなくなっていた。
今日は朝食を付けていたので、のんびりと朝を過ごす。
朝食は、ごく普通の和定食。
豪華でもなければ特別なものでもない。
でも、それでいい。いや、これがいい。
旅は豪華である必要なんてない。
質素な朝ご飯を食べながら今日の予定を考える時間も、旅の楽しさの一つだ。
朝食を食べ終え、最初に向かったのはオホーツク霊園。


毎年恒例になっている、じいちゃんのお墓参りだ。
まだお盆には少し早いけれど、北海道へ来たら必ずここへ来る。
去年までは墓の周りに生えた草を、小さなナイフで一本一本切っていた。


炎天下で四時間近くかかることも珍しくなかった。
でも今年は違う。
パジェロにはスコップが積んである。試しに使ってみると、これが驚くほど作業しやすい。
ザクザクと草が切れていく。
結局、一時間ほどで全部終わってしまった。
スコップって、こんなにすごい道具だったのか。
手を合わせる。
「また来るよ。」
それだけ伝えて、お墓を後にした。
次に向かったのは来運神社。

昔はここへ湧き水を汲みに来ることはあっても、神社があることまでは知らなかった。
そういえば、この近くの川ではじいちゃんと何度も釣りをした。
今では「来運の水」として多くの観光客が訪れる場所になっているけれど、昔は本当に人がいなかった。
地元の人でも知らない人がいたんじゃないかと思うくらい静かな場所だった。
知床連山に降った雪や雨が長い年月をかけて地中を流れ、この場所で湧き出す。
そんな自然の恵みを昔は何気なく飲んでいたんだから、贅沢な話だ。
境内で手を合わせる。
それから湧き水を口に含んだ。
冷たい。
そして、美味しい。
周りの空気までひんやりとしていて、森全体が深呼吸をしているような静けさだった。
熊がいてもおかしくない場所なのに、不思議と怖さは感じなかった。






そのまま知床・ウトロへ向かう。
「天に続く道」は昔から何度も通ってきた道なので今回はそのまま通過した。
お昼は以前から楽しみにしていた圓子水産へ。
注文したのはウニ丼。
五千円。決して安くはない。
店員のお兄ちゃんたちはとても気さくで、料理を待っている間もカメラの話で盛り上がった。
「ソニーなんですね。」
「同じですね。」
そんな何気ない会話が旅では嬉しい。
運ばれてきたウニ丼には、ブリのそぼろ、ホタテの酢味噌、鮭のあら汁、そしてカジカの出汁まで付いていた。
一口食べる。美味い。全部美味い。
北海道で何度もウニ丼を食べてきたけれど、僕の中ではここが一番だった。
値段以上の満足感。
また絶対に来よう、そう思える店だった。










食後はフレペの滝へ。
知床世界自然遺産の中でも代表的な景勝地で、「乙女の涙」とも呼ばれる滝だ。
川が流れ落ちているわけではなく、知床連山に降った雪や雨が地下水となり、断崖から直接湧き出している珍しい滝らしい。
そして、この辺りはヒグマの生息密度も非常に高い。一応、言っておくが、僕はヒグマに会いたいわけじゃない。知床に
くる人の多くは会ってみたいって気持ちが少なからずあると思うけど、正直クマは興味がない。一生会いたくはない。ここの自然を楽しみたいだけだ。
クマスプレーを腰に付け、歩き始める。
断崖の先に見えるオホーツク海。
切り立った崖。








地球って、本当にすごい。
そんなことを自然と思ってしまう景色だった。
ビジターセンターにも立ち寄った。
でも、人が多い。
夏休みも近く、館内は観光客でいっぱいだった。
なんとなく気持ちが乗らない。
知床五湖へ行く予定だったけれど、今回はやめることにした。
旅では、無理に予定をこなさない。
その時の気分を優先する。
それも一人旅の良さだ。

そのまま羅臼を抜け、開陽台へ向かう。
到着すると、期待通り……いや、期待通りに霧だった。






「地球が丸く見える。」
そう言われる場所だけど、今日はさすがに丸いとは言えない。
人も少ない。
最近思う。
天気が悪い日も嫌いじゃない。
人が少ないから。静かな北海道を歩けるから。




開陽台を出ると、一枚の看板が目に入った。
「牧場のソフトクリーム」
寒い。
気温は十七度・・・普通なら食べようとは思わない。
でも気になった。
行ってみる。
着いてみると、大きな牛舎と、大きなトラクター、古いプレハブと小さな看板。
誰もいない。
「ああ、今日は休みか。」
そう思った瞬間だった。
犬が二匹、しっぽを振りながら走ってきた。
可愛い。
人懐っこい。
あまりにも可愛くて、ソフトクリームのことなんて忘れて夢中で撫でていた。

すると牛舎の方から声がした。
「ソフトクリームかい?」
びっくりして、
「はい!」と返事をする。
「今から作るから待っててね。」
そう言われ、また犬たちと遊ぶ。
しばらくすると、お父さんが出来たてのソフトクリームを持ってきてくれた。

「今日は寒暖差が激しいから、誰も来ないと思ってたよ。」
そう笑う。
一口食べる。
……美味い。
いや、これは美味すぎる。
今まで食べた北海道のソフトクリームの中で、一番だった。
有名な道の駅のソフトクリームが霞んでしまうくらい。
思わず声が出る。
その反応を見て、お父さんも嬉しそうに笑っていた。
霧雨の中、犬たちの横でソフトクリームを食べる。
酪農地帯の真ん中で、
「ああ、今、誰よりも北海道を満喫している。」
そんな気がした。




その後は阿寒湖のアイヌコタンへ。

ここは日本最大級のアイヌ集落で、今もアイヌの人たちが暮らしながら木彫りや工芸品、舞踊などの文化を受け継いでいる場所だ。
木彫りのお土産を眺めながら歩く。
見るだけでも楽しい。
文化に触れる場所として、とても魅力的だと思う。
今回は何も買わなかった。昔、結構買っているから。
帰り際、お店の人が笑いながら言った。「夕方は鹿、本当に気を付けてね!」
北海道の人は、こういう一言を自然にかけてくれる。
その優しさが嬉しい。










今日は足寄の道の駅で車中泊。着いてみると気温は15度。
雨も降っている。
寒い。
車へ戻り、EcoFlowの電源を入れる。
ケトルでお湯を沸かし、途中で買ったカップラーメンへ注ぐ。
湯気が立ち上る、温かいラーメンをすする。
ただそれだけなのに、幸せだった。温かいご飯って、本当に最高だ。

今日は、お墓参りから始まり、知床を歩き、北海道の人たちと話し、犬と遊び、牧場で最高のソフトクリームを食べた。
天気は最後まで曇り。
でも、不思議と心は晴れていた。
今日も、本当にいい一日だった。
続く・・・
