2026 北海道旅 6日目~偶然が旅を豊かにしてくれた日~
朝6時。
ウスタイベ千畳岩キャンプ場で目を覚ます。

海霧?辺り一面が白く霞んでいる。
海も空も境界が分からない。
昨日あれほど青かった北海道が、一晩で別の世界になっていた。
北海道の景色は、天気だけじゃない。
霧一つで空気まで変わってしまう。これだから毎日が新鮮なんだと思う。近くの三笠山展望台へ行ってみる。当然、
開いていないのは承知だが、昔ここで軽トラで日本一周していたお父さんの記憶を感じたくてつい。


お父さん元気にしているかな。
午前7時、雄武町の日の出岬へ向かった。



名前の通りなら、朝日が主役になる場所。
でも今日は、その主役が霧の向こうへ隠れていた。
展望台へ立っても海は見えない、水平線も見えない、少し残念だった。
でも、不思議と悔しさはなかった。
昨日は一日中、最高の青空を見せてもらった。
今日は北海道のもう一つの表情を見せてもらっている。
そう思うと、この霧さえも悪くなかった。
雄武の道の駅へ立ち寄る。



街灯には手作りの飾りがいくつも吊るされていた。


夏祭りでも近いんだろうか。
一つ一つ少しずつ違う形をしていて、誰かが時間をかけて作ったことが伝わってくる。
こういう町の日常に出会う瞬間が好きだ。
観光地だけを巡っていたら気付かない景色。
そこに暮らしている人たちの時間が、少しだけ見えた気がした。
午前10時、興部町へ到着。



ここへ来ると、必ず買うものがある。
牛乳。
そして飲むヨーグルト。

北海道には美味しい乳製品がたくさんある。でも僕の中では、興部の飲むヨーグルトが一番だ。
世界で一番美味しい。本気でそう思っている。
濃厚なのにしつこくない。
酸味も優しい。
朝一番の体へ、すっと染み込んでいく。
何度飲んでも変わらない。だから何度でも買ってしまう。
旅には「帰ってくる景色」がある。
でもそれだけじゃない。
「帰ってくる味」もある。
興部の飲むヨーグルトは、僕にとってそんな存在になっている。そしてこの道の駅にはライダーハウスも併設されている。

このライダーハウスで、初めての北海道の時、台風で3日間お世話になった。
その時一緒に避難していたオフローダーのおねいさん元気にしてるかな? 当時ここの管理人さんのお母さんは今もやってるのだろうか。夜傘をさして僕たちに焼きそばを作ってくれたっけ。
おねいさんに当時奢ってもらったレストランにも行ってみよう。

ランチはまだだけどパンは売ってるようなので入ってみる。




ああ、こんな感じだったね。
一つパンを買って後にした。

車を走らせ、西興部へ向かう。
まず、道の駅へ寄ろうと思っていた。しかし、向かっていると急に晴れ間が出てきた。
今日も予定通り進むはずだった。
でも旅は、そんな時ほど予定通りにはいかない。
道の駅の手前にある小さな森林公園が見えた。
「少しだけ寄ってみるか。」
本当に、それくらいの気持ちだった。





神社があった。
空を見ると、晴れて青空が顔を出し始めている。
静かな境内を歩いていると、一枚ののぼり旗が風になびいていた。
「お食事」
時間はまだ少し早い。
でも、朝からヨーグルトとパンしか口にしていない。
「早いけど昼飯にするか。」
この何気ない判断が、この日一番の出会いになるとは、この時はまだ思ってもいなかった。
店の名前はくう楽。

外から見ると、ごく普通の居酒屋だった。
昼営業をしているなんて、知らなければ通り過ぎてしまうような店だ。
ドアを開けて中へ入る。そして、いきなり驚いた。
メニューの多さだ。定食、丼物、ラーメン。
一体何種類あるんだろう。
居酒屋だと思って入ったのに、食堂以上の品揃えだった。
さらに店員さんがお水を持ってきた。
ジョッキだった。

思わず笑ってしまう。
北海道らしいというか、この店らしいというか。
こういう肩の力が抜けた雰囲気が好きだ。
メニューを眺めていると、目が止まった。


北海道で熊肉を食べられる店はある。
でも、こんな山の中で出会うとは思わなかった。
迷わず熊カレーを注文した。
しばらくして、熊カレーが運ばれてきた。

そして、また驚いた。
大きな器いっぱいのカレー。
その上には、「これでもか」と言わんばかりに熊肉が乗っていた。
正直、疑っていた。
こういうメニューって、名前だけ立派で、実際には「これ熊肉?」というくらい小さな切れ端が数個入っているだけのお店も少なくない。
でも、この店は違った。
熊肉が主役だった。
ゴロゴロという表現じゃ足りない。
大きな塊が惜しげもなく入っている。
しかも、それだけじゃない。
ルーも丁寧に煮込まれていて、具材が完全に溶け込んでいる。
一見すると、熊肉しか入っていないように見えるくらいだ。
スプーンを入れる。
口へ運ぶ。
うまい・・・・。臭みなんて全然ない。
熊肉特有のしっかりした歯ごたえは残しながらも、じっくり煮込まれていて柔らかい。それに、カレー単体がすでに美味しい。
気付けば夢中で食べていた。
値段は1100円。
安い。
まさか西興部で、今回の旅を代表するような食事に出会うとは思ってもいなかった。
旅は有名店ばかりを目指さなくてもいい。
偶然入った店が、一番の思い出になることだってある。
だから旅は面白い。
また西興部へ来ることがあったら、この店には必ず寄ろう。
今度は熊鹿丼も食べてみたい。



何だか今日は、このまま最後まで良い一日になる気がした。
よしこのまま西興部の道の駅に行こう。




ここの目的は、これ↓

一度でいいから食べてみてほしい。ここのソフトクリームは僕的に北海道の道の駅の中で一番美味しい。
甘すぎず、牛乳のようなスッキリ感がたまらない。
午後13時、紋別へ到着。



まず向かったのは、毎年のように立ち寄っている巨大なカニのオブジェ。


正式には「カニの爪オブジェ」。
何度見ても面白い。
毎年来ているのに、今年もまた写真を撮ってしまう。
すっかり旅の恒例行事になっていた。
今回は、そのすぐ隣にある流氷科学センターへ入ってみることにした。
今まで何度も前を通っていたのに、一度も入ったことがなかった。
入館料は七百円。






過酷な環境の中で活動する人たちの写真や装備。
想像以上に見応えがある。
続いて、流氷の上に乗っているような感覚を体験できるコーナー。
オホーツク海を身近に感じられる展示が続く。
そして、小さなクリオネが泳ぐ水槽。






何度見ても不思議な生き物だ。小さいのに存在感がある。
そして、この施設で一番楽しみにしていた場所へ向かった。
マイナス二十度体験室。

重たい扉を開ける。
一歩入る。
「気持ちいい。」
最初にそう思った。
真夏だからこそ、この冷気が心地いい。
でも、それはほんの数十秒だった。
寒い。
一気に寒さが体へ刺さってくる。
息をするだけで鼻の奥が痛い。
展示室には流氷や、凍ったまま保存された魚やカニの標本がずらりと並んでいる。









本当ならゆっくり見て回りたかった。
でも、そんな余裕はなかった。
寒すぎる。
展示を見るというより、「早く出たい」が勝ってしまう。結局、一通り見ただけで外へ飛び出した。
外へ出た瞬間、夏の空気が温かく感じる。
さっきまで暑いと思っていたのに、人間の感覚なんて本当に面白い。
この施設へ入らなければ、この感覚は味わえなかった。
旅先では景色を見ることが多い。
でも今日は、「体験」を持ち帰ることができた。
それが何だか嬉しかった。
午後13時。小向原生花園へ到着。

ここへ来るのは初めてだ。
原生花園と聞くと、遊歩道が整備されていて、その上を歩きながら花を眺める景色を想像していた。
でも、ここは少し違った。
遊歩道はない。
だから国際キャンプ場の周辺やコムケ湖の湖畔へ。







湖なのに、水は驚くほど勢いよく流れている。
河口が近いからなんだろう。
穏やかな湖面を想像していた僕は少し驚いた。
水辺を眺めていると、大きなクラゲがゆっくり漂っている。
さらに水中には、もしかすると毛ガニだろうかと思う生き物の姿も見えた。
鳥たちは自由に飛び回り、風が草を揺らしている。
人間よりも、動物たちの方がこの場所の主人なんだと感じる。
それだけ自然がそのまま残っている場所だった。
そこから車を走らせ、初めての、シブツナイ湖へ向かう。
舗装路が終わり、砂利道になる。
タイヤが砂利を踏む音だけが静かな森へ響いていく。だんだんと木々が深くなり、人の気配もなくなっていく。
少し鬱蒼とした雰囲気。
正直、「この先に本当に景色なんてあるのかな」と思いながら車を進めた。
でも、その予想は完全に裏切られた。





目の前に広がっていた湿原は、一面がピンク色だった。
花が咲き誇っている。
ちょうど見頃だったのかな。風が吹くたび、小さな花たちが一斉に揺れる。
静かなのに、躍動していた。
誰もいない。あるのは風と鳥の声だけ。
僕はしばらく立ち尽くした。
人間が手入れした庭園は確かに綺麗だ。でも、僕にはこの景色の方が何倍も美しく見えた。
誰かに見せるためではなく、ただそこに生きるためだけに咲いている。
小さな花たちが、一生懸命に命を繋いでいる。
その姿を見ていると、不思議と力が湧いてきた。
生きる勇気を、この小さな花たちが教えてくれる。
北海道には何度も来ている。
有名な絶景もたくさん見てきた。
それでも、この何気ない湿原の景色は、今この一瞬だ。なぜかわからないけど、いつも毎日頑張る必要なんてないよって
言ってるようだった。
午後17;30、湧別町へ到着。
Aコープで夕飯を買う。

最近、北海道へ来ると必ず買ってしまうものがある。
ホルモンだ。
こっちのホルモンは本当に美味しい。そして今日はホタテの刺身も買った。
旅の途中で食べるには十分すぎるご馳走だった。
今夜は三里浜キャンプ場へ泊まる予定だった。ところが着いてみると、管理棟には誰もいない。
営業時間も終わっているようだった。
どうしよう。
少し考えて予定を変更する。
目の前の竜宮台展望台へ。



展望台には誰もいない。
サロマ湖へ細長く伸びる砂嘴を見下ろせる。
静かだ。
本当に静かだ。
ホルモンを焼く音だけ空気に溶けていく。ホタテを頬張り、おにぎりを食べながら、今日一日を思い返す。


朝は霧だった。
偶然見つけた熊カレー。
初めて入った流氷科学センター。
誰もいないシブツナイ湖。
泊まれなかったキャンプ場。
どれ一つとして、最初に思い描いていた予定ではなかった。
でも、振り返ってみると、その予定外ばかりが今日を特別な一日にしてくれた。
旅は計画するものだけど、本当に心に残る思い出は、いつも予定の外側で待っている。
そんなことを思いながら、サロマ湖を見下ろす静かな夜で この記事を書いている。



続く・・・
