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短編小説:礼拝中の事件

舞台は未来の小樽市。

私の名前はエカテリーナ。15歳。

みんなは「カーチャ」と呼ぶ。

私は生まれは日本人だ。けれど幼い頃、ロシア人の家庭の養子となり、この港町で育った。

私には大好きなお父さんとお母さんがいる。

優しいお友達がいる。

そして、小さなロシア正教会がある。

毎週日曜日になると、家族と一緒に教会へ向かう。

その時間は、一週間の中で一番心が落ち着く時間だった。

教会の中は、いつも静かで温かい。

無数の蝋燭が黄金色の光を揺らし、香炉から立ち上る香の煙がゆっくりと天井へ昇っていく。

聖歌隊が歌い始めると、その澄んだ歌声が礼拝堂いっぱいに響き渡った。

私は胸の前で十字を切り、静かに祈る。

神よ。
今日も家族と共にここへ来られたことを感謝します。

その時だった。

パン、パパパン。

乾いた破裂音が教会の外から聞こえた。

礼拝堂の空気が一瞬で揺らぐ。

周囲の人々が顔を見合わせ、小さくざわめき始めた。

私は不安になり、思わず辺りを見回した。

すると――

パパパパン。

また破裂音が響いた。

お父さんが静かに立ち上がる。

「少し外を見てきます。」

そう言うと、数人の大人たちも一緒に教会の外へ向かった。

礼拝は中断された。

教会の中は静まり返る。

幼い子どもは母親に抱き寄せられ、不安そうな表情を浮かべている。

私はただ、お父さんたちの帰りを待っていた。

数分後。

教会の扉が勢いよく開いた。

そこには、一人の少年がお父さんたちに両腕を押さえられながら連れて来られていた。

どうやら、この少年が騒ぎを起こしたらしかった。

少年は暴れ、振りほどこうともがいている。

「離せ!」

叫ぶ声を聞いた瞬間、私は息をのんだ。

その顔を知っていた。

「……竜次(りゅうじ)。」

同じ中学校に通う同級生だった。

竜次は私を見つけると、鋭く睨みつけた。

「日本人のくせにロシア人と暮らす裏切り者!」

教会の中に、その怒鳴り声が響いた。

胸の奥が熱くなる。

怖さではない。

怒りだった。

私はゆっくりと竜次の前まで歩いた。

「私は確かに見た目は日本人よ。でも、私は家族として、仲間として生きてきた。どうして私たちの祈りを邪魔したの?」

竜次は吐き捨てるように言った。

「許せないんだよ、お前みたいな存在が。日本人なのにロシア人と暮らすなんてわけがわからない。日本人なら日本人らしく生きるのが普通だろ。他の人間と仲良くするなよ。」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、竜次の体が後ろへ向けられた。

次の瞬間。

パン――。

乾いた音が礼拝堂に響いた。

平手打ちだった。

竜次を叩いたのは、お父さんだった。

教会は静まり返る。

お父さんは竜次を真っ直ぐ見つめ、低く、それでも怒りを抑えた声で言った。

「神の御前で、そして私の娘の前で、何ということを言う。」

一呼吸置き、お父さんは続けた。

「カーチャはカーチャだ。日本人でもロシア人でも関係ない。私の娘であり、家族であり、仲間なんだ。」

礼拝堂にいる全員が、その言葉を静かに聞いていた。

「そして、ここは祈る場所だ。人種は関係ない。祈りを踏みにじり、人を傷つける言葉や行いを、私たちは許さない。」

竜次は何も言い返せなかった。

やがて駆けつけた警察官に引き渡され、教会を後にした。

静けさが戻る。

けれど私の涙は止まらなかった。

祈りの場所を傷つけられた悲しみ。

大切な家族を侮辱された怒り。

いろいろな感情が胸の中で渦を巻いていた。

お母さんがそっと私の肩を抱く。

友達たちも何も言わず、私の隣にいてくれた。

その温もりだけで十分だった。

すると、お父さんが司祭の方へ向き直った。

「司祭様。礼拝を続けましょう。傷ついた娘のためにも、そして私たち自身のためにも。」

司祭は静かにうなずいた。

「ええ。祈りは憎しみに負けません。」

すると教会のあちこちから声が上がる。

「そうだ。」

「礼拝を続けよう。」

「神に祈ろう。」

聖歌隊が再び歌い始める。

蝋燭の炎は静かに揺れ、香の煙は変わらず天へと昇っていく。

さっきまで止まっていた祈りの時間が、再びゆっくりと動き始めた。

私は涙をぬぐった。

今度の涙は悲しみだけではなかった。

守ってくれる家族がいる。

支えてくれる友達がいる。

そして神がいてくださる。

そのことが、何よりも嬉しかった。

私は静かに十字を切り、小さく祈った。

「お父さん、お母さん。そして神よ。感謝いたします。」

その祈りは、聖歌とともに静かな礼拝堂へ溶け込んでいった。

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