見出し画像

下町音楽夜話 1009「Port Of Harlem Jazzmen」

テディ・バンというギタリストが気になっていろいろ調べたら、自分の曖昧な戦前ジャズに関する知識の一部が整理され、何だかスッキリした。

とにかく古いジャズ・ギタリストといえば、チャーリー・クリスチャンかジャンゴ・ラインハルト、せいぜいでタル・ファーロウしか思い出せないようなもので、その他の名前はなかなか出てこない。そもそもそのことが "素朴な疑問" 的に少し不思議だったのだ。引っかかっていたのが、一枚のレコード・ジャケットの真ん中に写っているギタリストだったのである。ヘッダー写真の「The Complete Recordings of The Port of Harlem Jazzmen」という盤が手元にあり、ギタリストはテディ・バンという。このレコードは、かのブルーノート・レーベルの創始者アルフレッド・ライオンが最初に録音した音源が含まれているというので買ってみたもので、1984年頃に再発されたLPである。大した価値のあるものではないが、それでもこういった音源はやはりアナログで聴きたいものである。

Teddy Bunn

テディ・バンは、見た目は何だか洒落者のようだが、どうだったのだろう。戦前のジャズにおいてのギターは、"ザッザッザッザッ…" というアコギのカッティング音であって、リードをとるような楽器ではない。エレクトリック・ギターが登場したり、アンプリファイして音量が上げられるようになってからはまた違うのだろうが、ようはロックなどのギターとは全く別物である。要は金管楽器の音量には敵わないのだ。それでも、ポート・オブ・ハーレム・ジャズメンのジャケット写真では、センターにドンと居るのである。やはり気になる。

自分の手元にある数少ない戦前ジャズの音盤といえば、まずルイ・アームストロングだが、彼のホット・ファイヴでもギターの音は聴こえている。ここで弾いているのはジョニー・セント・シア Johnny St. Cyr という男が多く、本来はバンジョー弾きである。彼はキング・オリヴァーやジェリー・ロール・モートンやキング・オリーといった有名どころの盤にクレジットが散見されるので、ニュー・オリンズ系ギターのファースト・コールというやつなのだろう。ただし、やはりリーダーとしての録音があるわけではない。ちなみに、ルイ・アームストロングのホット・ファイヴでは、曲によってテディ・バンの名前も見られる録音がある。数は少ないのでジョニー・セント・シアの代役なのだろうか。

戦前のギターという楽器の立ち位置が後のものとは違うことが原因であることは分かってきた。それでも、不思議なのは、「ではチャーリー・クリスチャンやジャンゴ・ラインハルトはなぜあれだけの知名度を獲得できたのか?」ということだ。チャーリー・クリスチャンは、そもそもエレクトリック・ギターを早くに導入したということがあるだろうし、ベニー・グッドマンのオーケストラに加入したりもして、知名度を獲得する理由が見受けられる。そしてミントンズ・プレイハウスの伝説的な録音がある。ブルーノートの5000番台にも彼のプレイは残されている。まだ納得がいく。チャーリー・クリスチャンは1942年に結核を患い25歳という若さで亡くなっている。そういうことも伝説のギタリスト化を助けただろう。

ジャンゴ・ラインハルトはジプシー・スウィングのギタリストとして、フランスを代表する人間だから何となくは理解はできる。残された録音も多いし、手指の怪我のはなしもある。伝説中の伝説だ。しかも最近気がついたのだが、彼はリーダー作が多いので見逃し勝ちだが、他のアーティストのバックアップもあることはあるのだ。コールマン・ホーキンスの「スター・ダスト」のSP盤が手元にあるのだが、これは1935年にコールマン・ホーキンス楽団がフランスを訪れた際に録音されたもので、現地のミュージシャンがバックアップした企画ものである。ここにジャンゴ・ラインハルトも居て、カッティング・ギターを聴かせているのである。こういう音源がまだまだあるのだろうか。ちなみにこの「スター・ダスト」、ピアノを弾いているのは、あのヴァイオリニストのステファン・グラッペリである。…凄い。

最近のYouTubeはこの辺の事情もわかった上でアップしている人間がいるのだから凄い世の中になったものだと思う。ダメ元で検索してみるのだが、大抵のものはヒットする。AI に訊くよりも直接検索する方がいろいろ出てきて面白い。AI やウェブを取り巻く環境はやはり過渡期なのだろうか。日々こういった情報は増えているような気がする。当時を知る人間から直接話を聞ける時代ではなくなってしまったからといって、嘆く必要もないのだろうか。ジャズにおけるギターという楽器の立ち位置が時代で違うとしても、その辺を承知の上で掘り下げる余地はYouTube辺りにまだまだありそうだ。


いいなと思ったら応援しよう!