下町音楽夜話 Reloaded 255「7インチの誘惑(3) - フォー・ジュークボックス・オンリー」
■■■本稿は下町音楽夜話255「7インチの誘惑(3) - フォー・ジュークボックス・オンリー」(2007年5月12日)に加筆修正したものです■■■
ジュークボックスが好きだった。別にジュークボックスで音楽をかけるのが好きというのではなくて、眺めているだけでよかったのだ。子どもの頃、時計を修理すると言っては分解して、元に戻せなくなり、結果的には壊してしまったという経験をお持ちの方は多いだろう。機械好き、メカ好き、プラモデル好き、などという人間はみな共通の過去を持っているはずだ。
なぜだか男の子に限った話のようでもあるが、マブチ・モーターなどという名前を聞いて、心躍る元少年諸君はみなジュークボックスの動きに、一度は見とれた覚えがあるのではなかろうか。ボタンを押して曲を指定すると、器用にロボットアームのような動きで7インチ盤をとりに行き、ピックアップして、また実に器用にターンテーブルに載せるのだ。針が上手く下りて曲がスタートするまでが、実に楽しかった。実際はあまり楽しい思い出ではないが、学生のころ、コンパがつまらなくて、ジュークボックスの動きを眺めていた記憶もあるにはある。
江戸川区南小岩にある大和音響株式会社は、今では数少ないジュークボックスを販売、リース、レンタル、修理してくれる大変貴重な会社である。30年以上もワーリッツァー社のジュークボックスの修理を手がけているというから、年季も入っている。戦後に進駐軍が持ち込んだという日本でのジュークボックスの立ち位置は、実に微妙なものだった。カラオケに押されたり、CDの登場で対応を求められたり、そしてウォークマンの流行も音楽に「個人的な楽しみ」という方向性を与えることになったであろうから、それなりの影響もあったのではなかろうか。飲食店やホテルなどに置かれていたというジュークボックスを知らない若い世代も増えたことだろう。その中で、大和音響のような会社が活動を続けてくれていることが、嬉しいとともに頭が下がる思いがする。
ジュークボックスは、ワーリッツァー社以外にもシーバーグ社やロック・オラ社など、様々なメーカーがあったようだ。国産では圧倒的にビクター社製が多く、自分が記憶しているのも正面にVictorの文字が大きく書かれていたもののように思う。最近でこそ、アメリカのマザーロード、ルート66を偲ぶレトロなイヴェントなどで、典型的なデザインのワーリッツァー社のものを間近で見る機会を得たりもしたが、あんなに格好良いジュークボックスが置いてある店なんて、残念ながら記憶にない。それでも1980年代のヴィデオクリップなどに登場するのも、イメージ画として描かれるのも、みな派手なネオンが取り巻いているワーリッツァー社のものが多い。実際に低音が豊富で魅力的な音だったというから、今更ながらに聴いてみたいものだと惹かれている。
さて、少々前にビートルズの7インチ盤の話を書いたが、その中に「for jukeboxes only!」と書かれているものがある。その後もこの盤が気になって、いろいろ調べていたのだ。そうしたところ、1993年に1タイトル、1994年に15タイトル、1996年に14タイトル、合計30タイトルの7インチ盤が、米キャピトルから発売されていることが分かった。手元にあるのは、そのうちの、1994年に発売された数枚である。中古レコード店でダンボール箱のなかから見つけた、300円程度の大して価値があるとはされていない代物である。
それでも「イエロー・サブマリン」はしっかり黄色い半透明のビニールが使われているし、「キャント・バイ・ミー・ラヴ」は緑色の半透明、「ヘルプ」は白色のビニールで、何ともいえず可愛いのである。そもそもジュークボックスに触れたことがない世代のカミさんに見せても「面白いモノを持っているね」と興味を示すことになる。やはり大量のアナログ盤に囲まれて暮らしている自分が見ても、「面白いもの」と思うのである。ピクチャー・ディスクも何枚かはあるが、飾るわけでなし、面白いなと思うに止めている。あの世界も、相当深遠なようで、拘りを持つととんでもないことになりそうだ。見て見ぬ振りをするしかないか。
ともあれ、レーベルに書かれた「for jukeboxes only!」の文字だ。何故この期に及んでジュークボックス用なのか、何でアナログの、それも7インチをCD全盛の1990年代中盤にリリースしたのか、そこがよく分からない。よく分からないどころか、まるで理解できない。ジュークボックスだって、CD化もされたわけで、アナログ盤である必要がない。何か理由があったのだろうか。
しかも、この30タイトルのうち9タイトルは、独自のカップリングがなされているのだ。つまり、ジュークボックスを設置する立場としては、限られたスペースに人気のある曲を詰め込みたいわけで、普通のシングル盤のB面曲には用はないのだ。要は、両サイドともヒット曲が収録されている、ジュークボックス専用の独自カップリング盤が必要というわけなのだ。しかし、すでにジュークボックスは骨董屋にでも行かないとお目にかかれなかったであろう1990年代中盤に、何ゆえこういったものをリリースする必要があったのだろうか?しかも、独自カップリングをするからには、権利関係も面倒だったろうに…。実に不可解なのである。
とにかく、ジャケットもろくにないこの7インチが、中古盤店では妙に魅力的に見えて、とりあえず買っておいたのだが、そのこと自体に大して意味はない。ただし、ジュークボックスは将来広い遊び部屋なりが持てたときには、ぜひとも置いてみたい代物の代表なのである。そのときに中に入れておくレコードがないのは寂しいではないか。どうも、こういうことを考えている好き者は大勢いるらしい。
アンティーク・ショップでの定番中の定番、コカ・コーラ・グッズは、数え切れないほどの品物があるが、その中にはコカ・コーラ・ブランドのジュークボックス型CDプレイヤーなどもある。これ、かなり魅力的な代物である。でもせっかく部屋に置くなら、アナログ・レコードがかけられるワーリッツァー社あたり、いやビクターでも構わないから、7インチ盤が入れられるものが欲しいなあ、などと考えている。ここまでくると好き者ではなくて、物好きになってしまうか。
大和音響の存在自体もそうだが、やはり趣味の世界に共通して言えることで、拘りを持つことは重要だと思う。仕事だと怒られるかも知れないが、アナログのジュークボックスの修理や販売など、拘りがなくては絶対に成り立たない仕事ではなかろうか。絶対に尊敬すべき「好き者」がいるに違いない。楽しんでやれる仕事だからこそ、続けられるのではなかろうか。
昨今、仕事が忙しいとグチることが多くなっているが、好きなもののために邁進するその生き方が、羨ましいと思う反面、実は大変だろうなとも思う。ひょんなことから、人生の楽しみ方、誇れる生き方の見本を見せられたような気がして、自分の働き方も見直してみるかと、殊勝な気分になっている下町のオヤジであった。
■2026年の独り言■
前回に続いて好き者について語っておりますが、…何かありましたかねぇ。とにかく今でも同じ考えですが、仕事であれ、趣味であれ、拘ってやらないと意味がないというか、面白くないと思うわけです。まあ自分も拘りの店をやっておりましたから、今は自信をもって言えますが、拘り抜いたと言える趣味があるのは良いことですよ。
.
