下町音楽夜話 Reloaded 035「転がる石」
■■■本稿は下町音楽夜話035「転がる石」(2003年2月22日)に加筆修正したものです■■■
ローリング・ストーンズがやってくる。結成40周年だそうだ。よくもったものだ。長く一つのことを続ける難しさは誰でもよく知っていることだろう。何度かのメンバー・チェンジは致し方ないとして、結成当時のメンバーがまだ3人もいることは奇跡に近い。元気オヤジの代表格でもある彼らも還暦の声を聞き、どういったステージ・パフォーマンスを見せるのか、いろいろな意味で楽しみだ。
そもそもローリング・ストーンズの音楽については、世の中では語り尽くされているだろうが、自分は結構冷めていた。いろいろとテクニックのあるギタリストを先に聴いてしまい、リフ中心の構成とカッティング一発で勝負が決まるような、演奏技術とは無縁の音楽の格好良さは、かなり歳を取ってから理解したものだ。
最初にローリング・ストーンズを意識したのは、自分がまだ中学生の頃だ。当時は父親の仕事の関係で、板橋区の方に住んでいた。十条銀座という知る人ぞ知る有名な商店街が近所にあり、これまた有名な篠原演芸場などという大衆演芸場まである面白い地域である。以前に下町というのは地域を指すのではなくて気質などの心情を言うのだということがどこぞで話題になったことがあるが、まさにそういう意味で下町そのものというべき地域だった。江東区に住む今の自分からしてみれば、十分に山の手の近くにあるような気もするのだが、あそこは紛れもなく下町だった。
中学に通い始めた頃、両親と兄貴と4人で外食したあと、縁日でもあったのか、十条銀座に露店が出ており、冷やかして歩いていた。そのうちの一軒が中古のドーナツ盤を台に並べて売っていた。最近はドーナツ盤と言っても、若い方には通じないかも知れないが、レコード時代の中央のホールが大きいシングル盤を、その形からドーナツ盤と呼んでいたのだ。今でも7インチと呼ばれ、専門のコレクターも多い魅力的なアイテムである。定価は自分が買い始めた1970年当時で400円程だった。450円、500円、600円と値上がりしていったが、700円でデジタル時代となる。
その晩、件の露店で母親が素早く4枚ほど選び出し、子どもたちに買い与えてくれた。一枚50円だったのをよく憶えている。この4枚は今も手元にある。一枚は安西マリア、もう一枚がカーリー・サイモン、そして残る二枚がローリング・ストーンズだった。カーリー・サイモンは大ヒット曲「うつろな愛 You're So Vain」の盤で、その時はこれが一番嬉しかった。
ストーンズのものはレーベルにサイコロが二つ描かれている「ダイスをころがせ」と「ハッピー」で、この時初めて知った曲だった。1960年代を通してロンドンを揺さぶり続けたストーンズの数々のヒット曲が、まだ楽器を手にしていなかった自分には、理解できていなかったのだろう、それまでに聴いていたストーンズの曲はどれもあまりピンとこなくて、さほど好きなグループではなかった。ただアンディ・ウォホールがデザインしたと言われている「ベロ出しマーク」は、何故か惹かれるものがあった。
ともかく「ダイスをころがせ」は、アタマの数秒でそのリフの格好良さが判る名曲中の名曲だ。いいフレーズだなと思いつつも、後々ギターを手にして初めてそのカッティングの絶妙さ加減を思い知らされたこの曲は、後に2枚組アルバム「メイン・ストリートのならず者」をLPで買い求め、そしてCDでも買いなおして30年経った今でも愛聴している一曲だ。
母親の気まぐれで自分の元にやってきたこれらの50円盤が、実は後々大きな驚きを与えてくれることになるとは、その時は思いもしなかった。以前にも触れたことがあるのだが、自分はレコードのコレクションをデータベース化しており、意外な人間関係などが見えてくることを楽しんでいる。このデータを入力していた際に知ったことなのだが、カーリー・サイモンの「うつろな愛」録音時には、隣のスタジオでローリング・ストーンズが録音しており、遊びにきたヴォーカルのミック・ジャガーがコーラスで参加しているという噂があった。ただしカーリー・サイモンの盤にはクレジットされてはいない。
しかし声を聴けば誰の声かは、はっきりと判別できる。もちろん自分のデータには、MICK JAGGER - Bvo. と入力してある。何度も聴いて誰の声か確信が持てたそのコーラスは、とてもラフでOKテイクとは思えないようなものだが、なぜか妙に格好よく、やはりなくてはならないこの曲の一部になっているのがさすがだ。
ただの偶然なのだが、自分としては忘れられないこの人間関係が、母親の気まぐれとリンクして、データベース作りの面白さを一層楽しいものにしてくれた。始めて5年ほど経つこの入力作業も、長年と言えるほどではないが、続けることに意味があるという次元にまでなってきた。5600枚を突破して増え続ける一方のコレクションを整理するのは、楽しくもあり、辛くもある。
転がる石には苔が生えないだけでなく、転がり続ける期間が長ければ、単なる石ころではなくなってしまう気もする。40年間(現時点では60年以上…スゴイ!)一つのバンドを続けているこの連中には、決して頭が上がらない。非常に楽しみな今回のツアー、願わくは「ダイスをころがせ」を、3月の東京ドームで聴きたいものだ。
■2026年の独り言■
20年以上前の文章でも、このバンドが続いていて凄いと書いておりますが、今も現役ですからねぇ…。凄いですねぇ…。いやホントに。
