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下町音楽夜話 Reloaded 571「「愛への賛歌」の残念な音質」

■■■本稿は下町音楽夜話571「「愛への賛歌」の残念な音質」(2013年6月1日)に加筆修正したものです■■■

スティーヴン・スティルスのベスト盤「キャリー・オン」が発売された。CD4枚組、計82曲、5時間以上に及ぶボリュームである。アナログでも発売されたが、8枚組でCDの約3倍のお値段が、手を出すことを躊躇させた。また、どのみち音質に期待できないかと思い、さほどアナログで聴きたいという気持ちを起こさせなかったのである。安く売られていたCDボックスを入手し、お目当ての曲を聴いて、やはりこの程度かといった音質に安心したような、腹立たしいような、何とも複雑な気持ちにさせられた。何故彼の音源はこうも音質がよくないのか。昔から不思議でならないのだ。

お目当ての曲というのは「愛への賛歌(ラヴ・ジ・ワン・ユア・ウィズ)」である。1970年発売のファースト・ソロの1曲目だ。このアルバムはジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトンが参加していることでも有名な盤だが、やはり曲がよい。時代の音と感ずる部分もあり、何とも言えず高揚感のあるサビの部分は一度聴いたら耳から離れない。そして、残念ながら音が悪い。モコモコした音質とでも言えばご理解いただけるか。ベースは輪郭がはっきりしないし、ヴォーカルは引っ込んでいて、バランスもこれでいいのかと思いたくなるものだ。ドラムレスというのも、この時代のロックにしては珍しいような気がする。コンガやスティール・ドラムのようなパーカッションは入っているのだが、効果のほどは定かでない。自分が知る限り、音が悪いアルバムの代表格である。

さすがに2013年発売のリマスタリングされたボックスの音質は、少しは改善されているかと期待したものである。しかし、実際のところはそう簡単な話ではなかったようだ。当時のアナログ盤や1995年発売のリマスタリングCDよりも、モコモコ感が増した音質のように感じられる。この曲をいい音で聴きたいと思っているファンは結構な数いらっしゃるのではなかろうか。「ブラック・クイーン」というアコースティック・ギターと唸っているだけに近いヴォーカルのみの曲があるのだが、これだけは何故か意外と良い音で録れているのだ。その辺も変わりはないようだ。

しかし、だからといって「買う必要がない代物だ!」と言えないところが、また難しいのである。このボックス、未発表音源が多数採用されているのである。音質は他のものと大差ないが、貴重極まりないジミ・ヘンドリックスとのジャムまで収録されているのだ。これは聴かずに死ねないではないか。度々これでもかというほど貴重な未発表音源が発掘されるジミ・ヘンドリックスという男は、よほどジャム・セッションが好きだったのだろう。今後まだ貴重な音源が眠っているのか知れたものではないが、そろそろネタが尽きてもおかしくはない。こういった音源も有り難く聴くべきだろう。

他の時代のもの、例えばバッファロー・スプリングフィールドやCSN&Yの音源は全く問題がない。そこそこの音質で聴けるし、「青い瞳のジュディ」やら「ウッドストック」といったベスト盤に収録されるべきものはきちんと入っている。そこはCD4枚組のボリュームがものを言うといったところで、選曲で残念な思いをするベスト盤とは一線を画している。ソロ・アルバムの音源が中心とはいえ、ツボは押えてくれているのである。そして、上手いギタリストとしてのスティーヴン・スティルスを堪能できるのである。さらには、何ともおっさん臭い声質のヴォーカルも堪能できることはできるのである。

そんなわけで、どうも大満足というものではなかったのだが、貴重な写真が満載のブックレットなどは楽しめたし、あらためて幅広い人脈とともに残してくれた数々のセッション音源のいずれもが、一定以上のクオリティを維持していたことも確認できた。

結局たどり着いた考えは、「愛への賛歌」に関しては、多重録音が抱えているアナログ・テープの限界ということなのだろうということだ。自分ひとりで、アコースティック・ギターとオルガン、さらにはスティール・ドラムやパーカッションまでこなしているのだ。曲がこなれていく過程を示すようなデモ音源が出てくるわけでなし、素晴らしいライヴ・テイクが出てくるわけでなし、たまたま回していたテープが奇跡の瞬間を捉えたというのでもなさそうだ。そうなれば、テープの限界と考えるのが最も自然というものだろう。自分では、自分のことをさほど音質にこだわる人間ではないと思っているのだが、こればかりは肩が落ちる。本当に何とかならないものだろうか。


■2026年の独り言■
本当に大好きな曲なんですけどねぇ…。音質はイマイチですからねぇ…。その印象は今でも変わりませんね、当然。


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