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下町音楽夜話 Reloaded 186「スタンダード集」

■■■本稿は下町音楽夜話186「スタンダード集」(2006年1月14日)に加筆修正したものです■■■

先月、クリスマス・アルバムの話を書いたときに触れた、マイケル・マクドナルドの声が耳から離れず、正月を過ぎたこの時期になっても、まだあれやこれや引っ張り出してきては聴いている。クリスマス・ソング集に収められた「トゥ・メイク・ア・ミラクル」は、歌詞こそクリスマス的なのかも知れないが、演奏がえらく格好良くて、特にベースラインに聴き惚れている。どうしてこんなに格好良い曲が書けるのか、不思議でならない。もともと彼の書いた曲は、型にはまらない個性的なもので、一曲の中に複数の魅力的なメロディが含まれており、とりわけリードギターやキーボードが奏でるメインのフレーズとベースラインの絡み合いが、新たなグルーヴを生み出し、何とも格好良いのだ。

例えば、ドゥービー・ブラザーズの名曲、「ユー・ビロング・トゥ・ミー」然り、ソロになってからジェイムズ・イングラムとのコンビが意外でもあった大ヒット曲「ヤ・モ・ビー・ゼア」然りである。そもそもベースラインが非常にメロディアスで、2つのメロディラインがうまく重なったところにサビのフレーズが登場するような、あの作曲の技が冴えに冴えているのがこれらの曲、というわけなのだ。思うに3曲とも、イントロは後からできたようなあたりも含めて、同じような過程を経て作曲されたように思えてならない。

彼の場合、生来のスモーキーな声が、実にソウルフルで、評価もヴォーカル中心になってしまい勝ちなのが残念だ。もちろん非常に魅力的な声なので、評価されることはいいことなのだが、彼はあくまでもキーボーダーであり、また自分などはコンポーザーとしての彼を高く評価しているので、何とも残念に思えてしまうのだ。

とにかく、魅力的な曲を多く書いているということを、もっと高く評価してあげたい第一人者だ。ヴォーカルに関しては、ロック的ではない声なので、ドゥービー・ブラザーズに加入すること自体に無理があったように思うのだが、本人も「無我夢中で訳も分からずに、とにかく演っていた」と言っているくらいだから、やはり無理があったのだろう。

またそういう状況下でヒットを連発してしまうのだから、運命のめぐり合わせは何とも皮肉なものだ。その後期ドゥービーズの代表曲「ユー・ビロング・トゥ・ミー」は、カーリー・サイモンも1978年のアルバム「ボーイズ・イン・ザ・トゥリーズ」で取り上げている。といっても、この曲、実はカーリー・サイモンとマイケル・マクドナルドの共作である。この曲の構成は秀逸で、何度聴いても聴き惚れてしまう部分がある。とりあえずヴォーカルが、カーリー・サイモンになったことで、ドゥービーズ版よりもメリハリのあるこちらのテイクのほうが、自分の場合は好みなのである。

また彼女の前作、「アナザー・パッセンジャー」では、やはりドゥービーズの「イット・キープス・ユー・ランニン」もカヴァーしている。こちらも魅力的なヴァージョンだが、実際の演奏は大して変わりはない。何故なら、オリジナルと同じ、ドゥービーズの面々が演奏しているのである。プロデューサーがテッド・テンプルマンということに、このあたりの人脈の源はあるのだろうが、こんな贅沢なことが許されるのも、誰からも愛されるカーリー・サイモンという人ならではという気もする。

また、このアルバムには、生前のロウエル・ジョージとともにリトル・フィートの面々がバックアップした曲も収録されており、実に贅沢な一枚なのである。しかも、後期ドゥービーズがヒットを飛ばす中、前期ドゥービーズの中心人物、トム・ジョンストンは、よりによってドゥービーズのチームではなく、リトル・フィートのチームに参加しているのである。この辺の事情が判る人間には、何とも複雑な心境になるアルバムなのである。

さて、そのカーリー・サイモンの最新盤は「ムーンライト・セレナーデ」である。タイトルから内容が推察されようが、スタンダード・ナンバー集である。これが実に素晴らしい出来で、1981年の名盤「トーチ」を思い出してしまった。この盤は、自分がジャズを聴き始めた頃に発売されたこともあり、このアルバムでずいぶんジャズ・ヴォーカルというものを勉強させてもらったように思う。

本格的なジャズ・ヴォーカリストのアルバムではないので、ジャズ・ファンからは軽く見られがちだが、当時のパートナー、ステップスのマイク・マイニエリが全身全霊を傾けて作ったようなアルバムなのだから、悪かろうはずがない。カーリー・サイモンは1998年にも「フィルム・ノアール」という古臭い音楽にスポットを当てたアルバムを製作しており、これらの路線は決して嫌いではないのだろう。

曲作りでもかなりの実績がある彼女だけに、才能の枯渇というような評価をされたこともあるが、どうして、どうして、なかなか素敵なアルバムである。ジョン・トラボルタとのデュエット曲「トゥ・スリーピー・ピープル」など、自分は大好きなテイクである。

ついでに言及するならば、今回の「ムーンライト・セレナーデ」、何とプロデュースはリチャード・ペリーである。「うつろな愛」に始まる、カーリー・サイモン初期の大ヒット3部作のプロデューサーが、およそ30年ぶりにコンビを復活させ、波乱万丈の音楽人生を歩んできたカーリー・サイモンと、再度コンビを組んで作り上げたというわけだ。長年のファンとしては、実に嬉しいことなのである。またこのアルバム、彼女自身が本当に楽しんで作ったアルバムのように聴こえるのだ。次々とプロデューサーを変え、やっている音楽スタイルを変転させていったこの女性が、やっと居心地のいい場所に戻って、腰を落ち着けたようにも思われ、何とも微笑ましいのである。

IT立国を目指している日本で、よりによって下町を舞台に "IT推進担当" などという仕事をやっているがために、ピリピリした毎日を送っている自分にとって、今必要なのは、カーリー・サイモンのように、何時でも優しく迎え入れてくれる、温かみを持った音楽なのかも知れない。

願わくは、最近「モータウン」シリーズで、ソウル・スタンダードに挑戦し続けているマイケル・マクドナルドとデュエットで、この辺の曲を題材にしたアルバムを作ってもらえないだろうか。いい具合に年齢を重ねた大人同士が奏でるスタンダード・ナンバー集は、さぞ魅力的なものになるだろうに。どうも、最近そういったものに惹かれることが多いのだ。単に自分が年とっただけなのかも知れないが…。


■2026年の独り言■
ナルホド、ナルホド、そうきましたか。マイケル・マクドナルドの「トゥ・メイク・ア・ミラクル」大好きでした。ドハマリしましたねぇ…。そしてカーリー・サイモンが歌うスタンダード集…、何だかこの辺で少し音楽的な趣味を変えられるくらい影響を受けたように思います。自分がこういった音が好きだったのか…と気づかされたようなところがありましたね。しかも自分の仕事についてバラしていますねぇ…。意外でしたねぇ…。


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