『闇の正体』~詩集「笑い続けてよかったな」より
2018年に出版した、詩集「笑い続けてよかったな」に載せている作品です。
闇と聞くと、怖くて恐ろしい感じがしますが、
もしかしたらそうじゃないのかも、と思って書いた作品です。
少し長いけど、読んでいただけたら嬉しいです。
どうしようもないと思う
どうしようもできないと思う
途方に暮れる
ひとりでいるのが怖くなる 家にいるのが怖くなる
思わず 窓を開ける
みんな いつもの生活をしている
でも 自分とは 違う気がする
まるで 別世界を見ているみたい……
みんな楽しそう みんな笑ってる
自分との隔たりを 感じる
外を歩く
いつもの生活をしている人たちの そばを通る
自分との隔たりを ますます感じる
いつもの青空 いつもの昼間
太陽が照らしてくれている
それなのに まぶしく感じない
黒いフィルターが かかっているようだ
日が暮れると 太陽が恋しくなる
早く朝になれ と思う
まわりを闇に囲まれる 見渡す限りの暗い闇
どこを見ても 何を見ても
真っ暗で 色彩が失われた世界
夏なのに 冬のよう
太陽の光が 自分だけに当たってない気がする
体が震える 心が震える
耳をふさがれたのかな 何の音も聞こえない
すぐそばで 人が話しているのにな
やっぱり 住む世界が違うのかな
目を開けても 闇 目を閉じても 闇
その目から……
ただただ 涙だけが こぼれ落ちる
暗闇の一点になった自分に しばらく浸る
遠くから 叫ぶ声が聞こえてきた
『ねぇ 私を助けてよ 約束が違うじゃない』
「誰? 今の私に誰を助けろというの?」
思わず 目を開けた でも誰もいない
すると……
その声は 信じられない話をし始めた
『私は闇
ねぇ なんで私を怖がるの?
なんで 近づいても近づいても 私から遠ざかるの?』
私は その言葉にかっとなった
「誰のおかげで こんな思いをしてると思ってるの?
あなたが近づくから 私は 苦しくて苦しくて仕方がないのに」
闇も 怒って言った
『あなたの魂が 私を天から呼んだんじゃない
あなたを信じて降りてきたのに 何もしてくれないじゃない』
「今の私に 何を期待してるの?
今の私に 何ができるというの?」
『私は 闇
私は あなたの魂に呼ばれたの
人の魂に必要とされない限り 私は この世に降りることは許されない
私は凧のように あなたと見えない糸でつながっている
この世に生きるあなたが立ち上がり 前へ前へ 歩を進めてくれないと
私は 天高く舞い上がれない
天高く舞い上がったとき
あなたと私をつなぐ糸が切れるしくみになってるの
私はただ 天に帰りたいだけ
だから あなたが逃げても逃げても 私は近づくの』
「そんな勝手なこと言われても
私には 闇を天高く 飛ばす力なんて持ってない」
『いいえ きっとできるはず
だって あなたの魂ができるって言ってるんだもの
できないわけないじゃない』
「できない」
『できる』
「できない」
『できる』
同じ言葉が行き交うだけ 決して交わることがない
言い合いすることに疲れ 仕方なく闇に聞いてみる
「ねぇ どうすれば あなたを天に帰せるの?」
闇は にっこりと笑った
『簡単だよ 私のように笑えばいい
私に笑いかけてくれたらいい
あなたの心の温度が上がれば 私は温められる
空気と一緒で 温かいものは上昇していくんだよ
だから
笑って笑って あなたの心を温めてほしい
笑って笑って あなたの心の温度を上げてほしい
もし途中であきらめそうになったら
私のことを思い出して
私が悲しむことを思い出して』
私は 何だか おかしくなってきた
自分を苦しめていた闇のために 何かをするなんて
だいたい 闇が苦しんでるなんて 誰が想像できようか
今まで 必死で苦しんできたことが ばからしくなってきた
ずっと張り詰めたままだった 心のこわばりがゆるんでいった
この話が本当かうそかは わからないけど
闇のために 一肌脱ごうかと思った
あんなに何もしたくなかったのに 力が湧いてきた
また おかしくなった
力がまだまだ残っていることに 気がついた
「ウフフ クックックッ ハハハ」
なんだか おもしろくておもしろくて 腹を抱えて笑い始めた
「ゲラゲラゲラ ワッハッハ」
すると不思議なことに
ずっと黒しか見えなかったのに いろんな色が見えてきた
赤 オレンジ 黄色 緑
「わぁ 色って やっぱりきれいだなぁ」
なんだか ワクワクしてきた
今度は 一気に いろんな音が聞こえてきた
鳥たちの軽やかなさえずり 川の流れる清らかな音
肌が何かを感じた
風だ!
風が きれいな色彩の花たちから 甘く 芳しい香りを運んできた
「な~んて いい香りなんだろう」
心が熱くなる
心が熱くなって 溶けちゃいそう

空を見上げる
陽の光が七色に輝き まぶしかった
どこまでも澄み切った青空
ふわふわと気持ちよさそうに 雲が流れていく
「あ~ なんて気持ちがいいんだろう
あ~ 生きるって 感動の連続なんだね
青い空も 太陽も
鳥のさえずりも 川のせせらぎも
今まで ずっとそばにあったのにね
見えなかった 聞こえなかった」
大切なものは 探さなくても いつもそばにあるんだよね
それを見ようとしないから
その大切さを感じてほしいから
闇が一瞬 隠してしまうだけなんだよね
闇は そのために あったんだね
闇が 悪いわけじゃなかった
闇はただ
大切なものを見つけるためだけにあったんだね
「よ~し 闇さん
私がこれから 天に帰してあげるからね」
私はそう言って 闇を振り返った
私の目の前も 後ろも 横も 明るくなっていた
闇がいない……
そのとき 空から 白いものが降ってきた
ふわりふわり 舞い降りてきたもの
それは……
真っ白い 小さな天使の羽だった

