祖父物語(満州で生まれた男)
終戦後、状況は一変した。
満州に、ソ連軍が南へと進んできた。
それまでとは、空気が明らかに変わったという。
祖父は、あまり多くを語らなかった。
ただ、現地の人々の態度が、
終戦を境に大きく変わったことだけは、はっきりと話していた。
昨日までと同じ場所のはずなのに、
同じではいられなくなった。
生活は、さらに厳しくなった。
配給は滞り、
食べるものは、ほとんどなかった。
その中で、祖父の弟は亡くなった。
餓死だった。
祖父自身も、栄養失調の状態だったという。
それでも、生きて帰らなければならなかった。
日本へ戻るためには、引き揚げ船に乗る必要があった。
けれど、そのためには許可がいる。
そして、その許可が、なかなか下りなかった。
いつ帰れるのか分からない。
そもそも、帰れるのかも分からない。
そんな状態の中で、
ただ待つしかなかったという。
祖父は、そのときのことを、
「毎日、ドキドキしていた」
とだけ言った。
やがて、ようやく許可が下りた。
乗ることができた船は、
最後から数えた方が早いほど、ぎりぎりの便だったという。
もし、あの船に乗れていなかったら——
今の私は、ここにいない。
