チリンのすず

『友だちに意地悪されたから、やり返そうと思った。』
クラスの子どもが嫌がらせをしている場面を目の前で確認しました。どうしたの?と問いかけると、『友だちに意地悪されたから、やり返そうと思った。』と答えました。もう一人が近寄ってきて、『俺は、〇〇が嫌な思いをしてるっていってたから、守りたいと思った。』と言いました。
『そうか。そうなんだね。正義だね。』
と言いました。すると、子どもたちは、すぐさま、『違う‼︎』と言いました。
『どうして? 友だちが意地悪されているのを知って、守りたいって思ったんでしょ? そして、守るために立ち向かったってことでしょ? 正義じゃないの? アンパンマンじゃん?』
と私は返しました。
すると、二人とも口を揃えたように言いました。
『守りたいっていうのは正義だけど、やり返し方が良くなかった。』
そうなんだね。どんなやり返し方が良かったんだろうね?
じっとした、沈黙の時間がしばらく流れました。
チリンのすずのおおまかな内容
ある牧場で、チリンという子羊が生まれました。母羊(おかあさんひつじ)は優しくチリンを育てます。チリンには、生まれた時に首に金色(きんいろ)の鈴をつけてもらいました。ある夜、オオカミのウォーが牧場を襲い、チリンは母羊を失ってしまいます。チリンのことを守って、死んでしまいました。悲しんだチリンは強くなることを決意し、オオカミのウォーに弟子になります。 ウォーのきびしい修行(しゅぎょう)に耐えて、チリンは3年後に立派な角を持つ強い姿へと成長します。
ある夜、二人はふるさとの牧場へ向かいます。この頃には、チリンとウォーは二人組の暴れ者として悪名高くなっていました。激しい嵐の夜でした。チリンはウォーを裏切って逆にウォーに襲いかかりました。長い間恨みの心を隠したまま、この時を待っていたと話します。ウォーはチリンに倒され、その場で息を引き取ります。 ずっと前からこうなることを覚悟していたようです。チリンにやられることを喜びだと言います。その後、ひとりぼっちになったチリンは、とてもさびしい気持ちになります。ウォーを失って、初めて仇を取ることの虚しさを知ったようでした。チリンは最後に何を思ったのでしょうか。
この絵本の注目ポイント
チリンの すずで
おもいだす
やさしい
まつげを
ほほえみを
チリンの すずで
おもいだす
このよの
さびしさ
また
かなしみ
この詩は、この絵本で書きたい主題のように感じます。
チリンのすずが鳴るたびに、母親からもらった愛情の豊かさを思い出すのでしょう。それと同時に、ウォーもチリンへの愛情を持っていたことが想像されます。チリンは、自分の首の鈴が鳴るたびに、二人の『家族』と過ごした日々を思い出すことでしょう。頭の中には、やさしい母の微笑みや、厳しくも、うまくいった時には無骨な表情で認めてくれたあの父の微笑みが、何度も何度も浮かんでくるはずです。
しかし、母はそのウォーに殺されました。母の下で恐怖に震えていたあのシーンも思い出されることでしょう。そして、その恨みを糧に強くなることを誓い、ウォーを殺した自分と、ウォーの最後の言葉も思い出されます。
この世がやられたり、やり返されたりすることを常としていることを感じたやなせたかしさんは、やさしさや正義の裏側を見つめようとしたように感じます。そんなやなせたかしさんの思いが込められた詩のように感じます。
どうしてすずがついている?
この物語を読み終えた後に、一つ大きな疑問が浮かびました。
この物語を進めていく上で、『すず』はかなり大きなキーとして描かれているはずです。ですが、多くの子どもは、この『すず』に特に疑問を持つこともなく読み終えてしまうでしょう。この『すず』が扱われるのは物語の初めと終わりです。中盤部分ではほとんど触れられません。『すず』がなくても、この物語はきっと似たような話になります。しかし、『すず』をつけたのです。ここにも、きっと深い意味が込められているのだろうなと思います。
読んだ子どもたちとブックトークをしてみたい
『どうしてすずをつけたんだろう?』
『このすずはどんなことを表しているのだろう?』
他者との対話を通して、物語に対する思いは深められそうです。
多角的・多面的に捉えるために『あんぱん』
このチリンのすずを、作者に寄せながら捉えていくためにも、『あんぱん』を観ていこうと思っています。現在5週目が終わりました。少しずつ戦争の影も見えてくるようになりました。当時の記録や実際に生きてきた人々の声も、時代考証として参考にしていると思います。やなせたかしさん、のぶさんも戦前・戦時中・戦後を生きた人たちです。当時の人々の感覚やものの見方・考え方を少しでも知ることができると思います。作家のやなせたかしさんは『正義とは何か?』を問い続けたと思っています。『あんぱんまん』は『アンパンマン』となりました。チリンのすずも、アニメ映画の『チリンの鈴』となり、世に広がりました。どちらも原作と少し違いがあるようですね。多くの葛藤があったのだろうなぁと思いを巡らせて、作品を味わってみるのはどうでしょうか。
