見出し画像

【肩や肘の痛みは、股関節から始まっているかもしれない】投手と野手の股関節機能を比較した研究から考える、球速アップとケガ予防

はじめに


投球フォームを見る時、多くの人はまず肩や肘を見ます。

肘が下がっていないか。

肩が開いていないか。

腕の振りが悪くないか。

もちろん、これらは重要です。

しかし、投球動作は肩や肘だけで完結しているわけではありません。

投球は、

下半身

骨盤

体幹







ボール

という順番で力を伝える全身運動です。

つまり、肩や肘に起きている問題の原因が、実は股関節にあることもあります。

今回紹介するLaudnerらの研究は、プロ野球選手を対象に、投手と野手の股関節機能を比較した論文です。

この研究では、投手は野手と比べて、軸足側の股関節内旋可動域と中殿筋筋力が低い傾向にあることが示されました。

これは投球障害予防や球速アップを考える上で非常に重要です。

なぜなら、軸足の股関節は投球動作の土台だからです。

この研究は何を調べたのか


この研究では、プロ野球選手80名を対象にしました。

内訳は、

・投手40名
・野手40名

です。

全員、最近2年間に上肢、下肢、脊柱の大きな障害や手術歴がない選手でした。

研究では、両脚の股関節について、

・股関節内旋可動域
・股関節外旋可動域
・股関節の総可動域
・中殿筋筋力

を測定しました。

ここで重要なのが、

Trail Leg

Lead Leg

です。

Trail Legとは、投球腕側の脚です。

右投げなら右脚。

左投げなら左脚。

つまり、いわゆる軸足です。

Lead Legとは、踏み込み脚です。

右投げなら左脚。

左投げなら右脚です。

この研究では、この軸足と踏み込み脚を分けて評価しています。

結果① 投手は軸足の股関節内旋が少なかった


研究の結果、投手は野手と比べて、軸足の股関節内旋可動域が小さいことが分かりました。

投手の軸足内旋可動域は約34.6°。

野手は約37.7°。

差は約3.1°でした。

この差は統計学的には有意でした。

つまり、偶然とは考えにくい差です。

ただし、著者らはこの差が臨床的に大きな意味を持つかどうかは慎重に解釈すべきだと述べています。

つまり、

「投手は股関節内旋が少し少ない傾向がある」

とは言えるが、

「この差だけで必ずケガをする」

とは言えないということです。

結果② 投手は軸足の中殿筋筋力も低かった


もう一つ重要な結果があります。

投手は野手と比べて、軸足の中殿筋筋力も低い傾向がありました。

投手は約41.4kg。

野手は約44.9kg。

差は約3.5kgでした。

これも統計学的には有意でした。

中殿筋は、骨盤を安定させる重要な筋肉です。

特に投球では、片脚で立つワインドアップ期や、並進運動を始める局面で重要になります。

軸足の中殿筋が弱いと、骨盤が安定しにくくなり、運動連鎖が崩れやすくなります。

結果③ その他の項目には大きな差はなかった


一方で、股関節外旋可動域や総可動域、踏み込み脚側の可動域や筋力には大きな差は見られませんでした。

つまり、この研究で投手と野手の違いとして示されたのは、主に

軸足の股関節内旋

軸足の中殿筋筋力

です。

ここが非常に重要です。

投球における軸足は、地面から力を受け取り、骨盤を動かし、体幹へエネルギーを伝える起点です。

その軸足に違いが見られたという点が、この研究のポイントです。

なぜ軸足の股関節内旋が重要なのか


投球動作では、軸足の股関節内旋が非常に重要です。

右投手であれば、右股関節が内旋しながら骨盤が投球方向へ回っていきます。

この動きが不足すると、骨盤の回旋が制限されます。

骨盤がうまく回らなければ、胸郭との捻転差も作りにくくなります。

その結果、下半身で作ったエネルギーを体幹へ伝えにくくなります。

つまり、軸足の股関節内旋不足は、

骨盤回旋不足

につながり、

そこから

体幹回旋不足

につながり、

最終的に

肩や肘への代償

につながる可能性があります。

股関節内旋不足が起こす投球フォームの問題


軸足の股関節内旋が不足すると、投球フォームでは次のような問題が起こりやすくなります。

・骨盤が早く開く
・軸足に乗れない
・ヒップファーストが作れない
・体幹が早く正面を向く
・胸郭との捻転差が小さくなる
・腕が早く出る
・手投げになりやすい

これらはすべて、投球の効率を下げる要因になります。

そして効率が下がると、選手は不足した球速を肩や肘で補おうとします。

その結果、上半身への負担が増えやすくなります。

なぜ中殿筋が重要なのか


中殿筋は、股関節外転筋の代表的な筋肉です。

主な役割は、骨盤の安定です。

片脚立ちになった時に、反対側の骨盤が落ちないように支えます。

投球では、ワインドアップ期に軸足一本でバランスを取ります。

この時、中殿筋が働いて骨盤を安定させます。

さらに、コッキング期では、軸足側の股関節外転筋が骨盤を支えながら、前方への移動やストライドを助けます。

つまり中殿筋は、

骨盤を安定させる筋肉

であり、

下半身から体幹へ力を伝える土台

でもあります。

中殿筋が弱いと何が起こるか


中殿筋が弱いと、投球中に骨盤が安定しにくくなります。

例えば、

・片脚立ちで骨盤が横に流れる
・軸足に乗れない
・並進中に骨盤が落ちる
・ストライド方向がズレる
・体幹が早く倒れる
・前脚接地時に姿勢が崩れる

といった問題が起こりやすくなります。

骨盤が安定しなければ、体幹は正しく回旋できません。

体幹が正しく回旋できなければ、肩や肘に負担が集中します。

つまり、中殿筋の弱さは単なる股関節の問題ではありません。

肩肘への負担に繋がる運動連鎖の問題

なのです。

投手と野手でなぜ差が出るのか


この研究では、なぜ投手の方が軸足股関節内旋や中殿筋筋力が低かったのかについて、いくつかの可能性が考察されています。

一つは、投手はマウンドの傾斜を利用して投げるという点です。

投手は斜面を使って前方へ移動できます。

一方、野手は平地で強く踏み込み、送球します。

また、野手は守備で横方向へ動く機会が多く、打撃でも股関節外転筋を使います。

そのため、野手の方が中殿筋へ刺激が入りやすい可能性があります。

つまり、ポジションによって身体にかかる負荷が違い、その結果として股関節特性が変わる可能性があるということです。

肩や肘だけを見ても原因は見えない


投球障害が起きた時、多くの人は肩や肘だけを見ます。

もちろん、痛みがある部位を評価することは重要です。

しかし、肩や肘は運動連鎖の最終地点です。

そこに負担が出ている原因は、もっと下流ではなく、上流にあることがあります。

つまり、

肩肘の痛みの原因が
股関節にある


こともあるのです。

例えば、股関節が動かない。

骨盤が回らない。

体幹が回らない。

その結果、腕で投げる。

そして肘が痛くなる。

この流れは現場でもよく見られます。

だからこそ、投手を見る時は、肩や肘だけでなく、股関節から評価する必要があります。

球速アップにも股関節は重要


股関節機能は、障害予防だけでなく球速アップにも関係します。

球速は腕だけで作るものではありません。

地面から作った力を、どれだけ効率よくボールへ伝えられるかで決まります。

軸足の股関節が使える投手は、

・地面を押せる
・骨盤を運べる
・ヒップファーストを作れる
・骨盤回旋を起こせる
・胸郭との捻転差を作れる

可能性が高くなります。

その結果、肩や肘だけに頼らず球速を出しやすくなります。

つまり、股関節機能は、

球速アップの土台

でもあるのです。

現場で見るべきポイント


この論文を現場に落とし込むなら、以下のポイントを評価する必要があります。

① 軸足の股関節内旋可動域


右投手なら右股関節。

左投手なら左股関節。

ここが十分に内旋できるかを見る。

② 軸足の中殿筋筋力


片脚で骨盤を安定させられるか。

横方向へ流れないか。

骨盤が落ちないか。

③ 片脚立位の安定性


ワインドアップで軸足に乗れるか。

骨盤がブレないか。

④ ヒップファースト


骨盤が前方へ運べているか。

上半身が先に突っ込んでいないか。

⑤ 骨盤回旋


軸足股関節を使って骨盤がスムーズに回っているか。

⑥ 肩肘への代償


股関節が使えないことで、腕だけで投げていないか。

トレーニングへの落とし込み


股関節機能を改善するには、単にストレッチだけでは不十分です。

可動域と筋力、そして動作への統合が必要です。

① 股関節内旋可動域


まずは軸足の股関節内旋が出るかを確認する。

ただし、無理に可動域を広げるのではなく、骨盤や腰椎の代償が出ない範囲で行う。

② 中殿筋強化


サイドプランク、ヒップアブダクション、ミニバンドウォークなどで中殿筋を強化する。

ただし、筋トレだけで終わらせず、投球動作に繋げる必要がある。

③ 片脚支持トレーニング


片脚RDL、スプリットスクワット、ステップダウンなどで、片脚で骨盤を安定させる能力を高める。

④ 回旋トレーニング


股関節と骨盤、胸郭の連動を作る。

メディシンボールスローやケーブルローテーションなどが有効。

⑤ 投球動作への統合


最終的には、ドリルやシャドーピッチングで股関節機能を投球に繋げる。

注意点


この論文で見られた差は、統計学的には有意でした。

しかし、差の大きさはそれほど大きくありませんでした。

著者らも、臨床的には大きな差ではない可能性があると述べています。

つまり、この研究だけで、

投手は必ず股関節が悪い
とか、
股関節内旋が少ないと必ず怪我をする

とは言えません。

大切なのは、股関節機能を投球評価の一部として見ることです。

肩や肘だけでなく、下半身から運動連鎖全体を見る。

これが重要です。

最終まとめ


この研究では、プロ野球選手80名を対象に、投手と野手の股関節機能を比較しました。

その結果、

・投手は野手より軸足の股関節内旋可動域が小さかった
・投手は野手より軸足の中殿筋筋力が低かった
・その他の股関節可動域や総可動域には大きな差はなかった
・差は統計学的には有意だが、臨床的には大きな差ではない可能性がある

ことが示されました。

この研究から分かるのは、

投球動作は肩肘だけでは語れない

ということです。

股関節は、地面から作った力を骨盤と体幹へ伝える土台です。

その土台が崩れれば、肩や肘が代償します。

つまり、

肩や肘の痛みは
股関節から始まっている可能性がある


のです。

球速を上げたい投手。

肩肘を守りたい投手。

フォームを改善したい投手。

まずは腕だけでなく、股関節から見直してみてください。

現場で使える一文


肩や肘の痛みは、肩や肘だけの問題ではない。
股関節という土台が崩れると、最後に肩と肘が代償する。


参考論文

Laudner KG, Moore SD, Sipes RC, Meister K.
Functional Hip Characteristics of Baseball Pitchers and Position Players.
The American Journal of Sports Medicine. 2010.

Burkhart SS, Morgan CD, Kibler WB.
The disabled throwing shoulder: spectrum of pathology. Part III: the SICK scapula, scapular dyskinesis, the kinetic chain, and rehabilitation.
Arthroscopy. 2003.

MacWilliams BA, Choi T, Perezous MK, Chao EY, McFarland EG.
Characteristic ground-reaction forces in baseball pitching.
American Journal of Sports Medicine. 1998.

Stodden DF, Fleisig GS, McLean SP, Lyman SL, Andrews JR.
Relationship of pelvis and upper torso kinematics to pitched baseball velocity.
Journal of Applied Biomechanics. 2001.

■ フォローのお願い


この記事が少しでも役に立ったら
フォローして次の記事を待っててください!⚾️

迷ってる選手、悩んでる選手に、必ず役立つ情報を届けます。

🇺🇸 USA Baseball公認コーチ
⚾️ 投球・打撃フォーム改善/イップス改善
📩 オンライン指導受付中(公式LINEから)
👣 X・Instagramでもノウハウ配信中
→ noteプロフィールからリンクへ!

ここから先は

0字
「投球動作・トレーニング・回復を一貫して学べる。投手のための完全ガイドマガジン。」

球速・コントロール・ケガ予防。投手に求められる要素は多いが、「何を、どの順番でやるべきか」を正しく理解している選手は多くありません。このマ…

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?