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【MLB選手が最も苦しむケガとは?】「多いケガ」と「選手生命を左右するケガ」は違う

はじめに


野球選手にとって、ケガはパフォーマンスだけでなく、キャリアそのものを左右します。

特にプロ野球選手では、1つのケガが出場機会、契約、復帰率、パフォーマンス低下に直結します。

では、MLB・MiLB選手で最も多いケガは何でしょうか?

多くの人は、

「肘のUCL損傷」
「肩のケガ」
「トミー・ジョン手術」

を思い浮かべるかもしれません。

しかし、HITSデータベースを用いた大規模レビューでは、最も多かったケガは、

ハムストリング損傷

でした。

一方で、最も選手生命に大きな影響を与えやすいケガは、

UCL損傷

でした。

HITSデータベースとは何か


HITSとは、

Health and Injury Tracking System

の略です。

MLBとMLB選手会によって作られた、プロ野球選手の傷害追跡システムです。

このデータベースは、メジャーリーガーだけでなく、マイナーリーグ選手も含めて、ケガの種類、部位、発生状況、手術の有無、復帰までの日数などを記録しています。

つまり、プロ野球におけるケガを大規模に把握できる、非常に重要なデータベースです。

今回のレビューでは、このHITSデータベースを用いた研究をまとめ、MLB・MiLB選手のケガの傾向、復帰率、治療成績を整理しています。

約5万件のケガが記録された


2011〜2016年の期間で、HITSには、

49,955件のケガ

が記録されました。

さらに、これらのケガによって、

722,176日

もの出場機会が失われています。

これは、野球選手にとってケガがどれほど大きな問題かを示しています。

1つ1つのケガは小さく見えても、チーム全体、リーグ全体で見ると、膨大な損失になります。

最も多いケガはハムストリング損傷


プロ野球で最も多かったケガは、

ハムストリング損傷

でした。

件数は3337件。

全体の6.7%を占めていました。

ハムストリングは、太ももの裏にある筋肉です。

野球では、

・全力疾走
・盗塁
・ベースランニング
・外野守備
・急停止
・方向転換

で大きな負荷がかかります。

野球は持久走のスポーツではありません。

しかし、瞬間的な加速と減速を繰り返すスポーツです。

そのため、ハムストリング損傷は非常に多くなります。

なぜ野球でハムストリングを痛めるのか


ハムストリング損傷は、主に高速スプリント中に起こります。

特に危険なのは、

・一塁への全力疾走
・盗塁スタート
・外野での打球追跡
・走塁中の急加速
・急な方向転換

です。

ハムストリングは、脚を後ろへ引く筋肉というイメージがあります。

しかし実際には、スプリント中に膝が伸びすぎないようにブレーキをかける役割もあります。

つまり、ハムストリングは、

加速の筋肉

であり、

減速の筋肉

でもあります。

このブレーキ能力が足りないと、肉離れが起こりやすくなります。

ハムストリング損傷は復帰しやすいが再発しやすい


ハムストリング損傷は、UCL損傷のように1年近く離脱するケガではありません。

平均離脱日数は約14.5日とされています。

しかし、問題は再発です。

ハムストリングは一度痛めると、再発しやすい部位です。

特に、

・復帰を急ぐ
・全力疾走の段階的復帰が不十分
・股関節伸展筋力が戻っていない
・骨盤コントロールが悪い
・左右差が残っている

状態で復帰すると、再発リスクが高まります。

つまり、ハムストリング損傷は、

短期離脱で済みやすいが、繰り返すと長期的な問題になるケガ

です。

上位に多い肩・体幹のケガ


ハムストリングに続いて多かったのは、

・ローテーターカフ損傷
・腰部筋損傷
・上腕二頭筋長頭腱炎
・腹斜筋損傷

でした。

これは野球という競技の特徴をよく表しています。

野球は、

投げる

打つ

走る

止まる

回る

という動作が中心です。

そのため、肩、肘、腰、腹斜筋、ハムストリングなどに負担が集中します。

特に投手では、肩と肘。

打者では、体幹と下半身。

走塁では、ハムストリングと股関節。

それぞれに特徴的なケガが起こります。

最も危険なのは「多いケガ」ではない


ここが今回のレビューで最も重要なポイントです。

最も多いケガはハムストリング損傷でした。

しかし、最もキャリアに大きな影響を与えるケガは別です。

それが、

UCL損傷

です。

UCL損傷は、発生件数としては6番目でした。

しかし、

・手術が必要になる割合:46.3%
・シーズン終了となる割合:60%
・平均離脱日数:約275日

と、非常に重いケガでした。

つまり、UCL損傷は頻度だけで見れば最多ではありません。

しかし、重症度で見ると、最も深刻なケガの1つです。

UCLとは何か


UCLとは、

肘内側側副靱帯

のことです。

投球中、肘の内側には大きな外反ストレスがかかります。

この力に抵抗するのがUCLです。

投球動作では、特に腕がしなってボールを加速する局面で、UCLに大きな負荷がかかります。

この負荷が繰り返されることで、UCLは徐々に損傷します。

そして最終的に断裂すると、トミー・ジョン手術が必要になることがあります。

UCL損傷が選手生命に与える影響


UCL損傷が深刻なのは、単に手術が大きいからではありません。

復帰までに長い時間がかかります。

さらに、復帰しても以前と同じパフォーマンスに戻れるとは限りません。

レビューでは、UCL再建術後の競技復帰率はおおよそ73〜84%と報告されています。

一見高く見えます。

しかし重要なのは、

競技復帰することと、元のレベルに戻ることは違う

ということです。

試合に戻れても、

球速が戻らない。

制球が戻らない。

登板数が減る。

リリース感覚が変わる。

再発への不安が残る。

このような問題が残ることがあります。

トミー・ジョン手術は魔法ではない


近年、トミー・ジョン手術は有名になりすぎて、

「手術すれば球速が上がる」
「手術すれば復活できる」

という誤解もあります。

しかし、手術は魔法ではありません。

UCL再建術は、壊れた靱帯を再建する手術です。

選手の能力を高める手術ではありません。

復帰には長いリハビリが必要です。

さらに、再建術後もパフォーマンス低下や再手術リスクがあります。

特に再手術になると、復帰率や元のレベルへ戻る確率はさらに下がります。

UCL再手術はさらに厳しい


今回のレビューでは、revision UCLR、つまり再手術後の結果にも触れられています。

再手術では、競技復帰率は約72〜76%。

しかし、同じレベルへ戻れる選手は約55〜58%程度でした。

これは非常に重い数字です。

初回手術でも簡単ではありません。

しかし再手術になると、さらに厳しくなります。

だからこそ、UCL損傷は「治せばいい」ではなく、

そもそも壊さないこと

が最重要です。

前腕屈筋群のケガも危険サイン


レビューでは、前腕屈筋・回内筋群の損傷にも触れられています。

この筋群は、UCLを守る重要な筋肉です。

尺側手根屈筋。

浅指屈筋。

円回内筋。

これらは、投球中の肘外反ストレスに対して、動的に肘を安定させます。

つまり、前腕屈筋群は、

UCLのボディガード

です。

この前腕屈筋群に損傷が起きるということは、肘内側に大きな負荷がかかっているサインでもあります。

レビューでは、前腕屈筋群損傷後に、その後の上肢障害、とくにUCL損傷リスクが高まる可能性が示されています。

肩のケガは復帰が難しい


UCL損傷と並んで重要なのが、肩のケガです。

特に投手の肩は非常に複雑です。

投球肩は、普通の肩とは違います。

大きな外旋可動域。

肩甲骨の連動。

高速内旋。

強い減速負荷。

反復ストレス。

これらに耐える必要があります。

そのため、肩を手術しても元のレベルに戻るのは簡単ではありません。

ローテーターカフ修復後の復帰率は低い


レビューでは、ローテーターカフ手術後の競技復帰についても触れられています。

特にローテーターカフ修復術では、元のレベルへ戻れる割合が低いことが示されています。

デブリードメントでは同レベル復帰率が約42%。

ローテーターカフ修復では約14%と報告されています。

これは非常に厳しい数字です。

つまり、投手にとって肩の手術は、肘以上に難しい場合があります。

だからこそ、肩障害も予防が最重要です。

肩は「治せば戻る」部位ではない


肘のUCL再建術は、比較的復帰率が高い手術です。

一方で肩は、そう単純ではありません。

肩は自由度が高く、個人差も大きい関節です。

投手に必要な肩の可動域や緩さは、一般人から見ると異常に見えることがあります。

しかし、その緩さがパフォーマンスに必要なこともあります。

逆に、少しの不安定性や痛みが、投球パフォーマンスを大きく落とすこともあります。

この難しさが、投手の肩障害を複雑にしています。

体幹のケガも見逃せない


野球では、腹斜筋損傷や腰部障害も多く発生します。

腹斜筋は、打撃や投球の回旋動作で重要です。

特に、

・スイング
・投球
・急な体幹回旋
・減速動作

で大きな負荷がかかります。

腹斜筋損傷は、プロ野球選手に多いケガの1つです。

野球は回旋競技です。

だからこそ、体幹の筋肉にも大きなストレスがかかります。

腰のケガもパフォーマンスに直結する


腰部障害もプロ野球では大きな問題です。

腰は、下半身と上半身をつなぐ中継地点です。

投球でも打撃でも、

下半身

骨盤

体幹

上半身

という流れが必要です。

腰が痛いと、この連鎖が崩れます。

すると、肩や肘、股関節、ハムストリングなどに代償が起こります。

つまり腰痛は、単なる腰の問題ではなく、全身のパフォーマンス低下につながります。

下半身のケガは試合出場に大きく影響する


ハムストリング、股関節、膝、足首のケガは、投手だけでなく野手にも大きな影響を与えます。

特に野手では、

走塁

守備範囲

盗塁

打撃時の下半身出力

に影響します。

下半身のケガは、肩肘のように注目されにくいかもしれません。

しかし、試合に出続ける能力には大きく関係します。

最も多いケガと最も危険なケガを分けて考える


この論文から学ぶべき最重要ポイントは、

頻度と重症度を分けて考える

ということです。

例えば、

ハムストリング損傷は多い。

しかし、平均離脱期間は比較的短い。

UCL損傷は最多ではない。

しかし、手術率、シーズン終了率、離脱期間が非常に大きい。

ローテーターカフ損傷は頻度も高く、手術後の復帰が難しい。

つまり、障害予防では、

「何が多いか」

だけでなく、

「何がキャリアを壊すか」

を見る必要があります。

現場で考えるべき3つの指標


ケガを見る時は、次の3つで考えるべきです。

① 発生頻度


どれくらい多いケガなのか。

例:ハムストリング損傷。

② 離脱期間


どれくらいプレーできなくなるのか。

例:UCL損傷は平均離脱日数が非常に長い。

③ 復帰後のパフォーマンス


戻った後に、元のレベルでプレーできるのか。

例:肩の手術後はここが大きな課題。

この3つを見ないと、ケガの本当の怖さは分かりません。

育成年代に落とし込むなら


この研究はMLB・MiLB選手のデータです。

しかし、育成年代にも重要な示唆があります。

それは、

痛くなってから考えるのでは遅い

ということです。

プロでも、ケガから完全に戻るのは簡単ではありません。

まして育成年代では、身体が未成熟です。

だからこそ、日頃から予防が必要です。

投手が予防すべきこと


投手では、

・投球負荷管理
・肩外旋・内旋可動域の管理
・肩甲骨機能
・前腕屈筋群の強化
・体幹回旋能力
・股関節機能
・リカバリー
・睡眠
・投球フォーム改善

が必要です。

特にUCL損傷を防ぐには、肘だけを見るのでは不十分です。

肩、肩甲骨、胸郭、股関節、前腕、投球量まで含めて見る必要があります。

野手が予防すべきこと


野手では、

・ハムストリングのエキセントリック筋力
・股関節可動域
・スプリントフォーム
・体幹回旋
・足首・膝の安定性
・走塁後の疲労管理
・手首・手のケア
・腰部のコンディショニング

が重要です。

特にハムストリング損傷は多いため、走塁・守備・スプリント系の準備が必要です。

ハムストリング損傷予防の考え方


ハムストリングを守るには、単にストレッチするだけでは足りません。

必要なのは、

・エキセントリック筋力
・股関節伸展力
・骨盤コントロール
・スプリント技術
・段階的な全力走復帰
・疲労管理

です。

代表的には、ノルディックハムストリングやRDL、スプリントの段階的プログラムが有効です。

UCL損傷予防の考え方


UCLを守るには、肘の靱帯を直接鍛えることはできません。

だからこそ、周囲の組織で守ります。

・前腕屈筋群
・回内筋群
・肩甲骨
・回旋筋腱板
・胸郭
・股関節
・投球フォーム
・投球量管理

これら全てがUCLの負担を減らします。

特に、前腕屈筋群の疲労や違和感は、UCL損傷の前兆として注意すべきです。

肩障害予防の考え方


肩を守るには、肩だけを鍛えても不十分です。

投球肩には、

・回旋筋腱板
・肩甲骨安定性
・胸郭回旋
・下半身出力
・前脚ブレーキ
・投球量管理
・リカバリー

が必要です。

特に肩の手術後は元のレベルへ戻るのが難しいため、予防の価値が非常に高いです。

プロほど予防に時間をかける


トップ選手ほど、ケガをしてから治すのではなく、ケガをしない準備に時間を使います。

なぜなら、ケガをすると時間を失うからです。

技術練習ができない。
試合に出られない。
感覚が落ちる。
競争から遅れる。
評価が下がる。

だからこそ、予防は「余裕がある時にやるもの」ではありません。

競技力を高めるための中心です。

最終まとめ


MLB・MiLBのHITSデータベースを用いたレビューでは、約5万件のケガが分析されました。

最も多いケガはハムストリング損傷。

しかし、最も選手生命に大きな影響を与えやすいケガはUCL損傷でした。

UCL損傷は発生数では6番目ですが、手術率、シーズン終了率、離脱期間が非常に大きいケガです。

肩のケガ、とくにローテーターカフ手術後の復帰も非常に難しいことが示されています。

つまり、ケガを見る時は、

「多いかどうか」

だけでは不十分です。

大切なのは、

どれだけ離脱するか。
元のレベルに戻れるか。
キャリアにどれだけ影響するか。


です。

現場で使える一文


最も多いケガはハムストリング損傷。
しかし、選手生命を最も左右するのはUCL損傷である。



参考論文・引用論文

Lezak BA, Chalmers PN, Erickson BJ, Romeo AA.

Major League Baseball Health and Injury Tracking System (HITS): A Review of MLB Injuries Documented in the HITS Database Since Its Inception.

The Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2026.

Camp CL, Dines JS, van der List JP, et al.

Summative Report on Time Out of Play for Major and Minor League Baseball: An Analysis of 49,955 Injuries From 2011 Through 2016.

American Journal of Sports Medicine. 2018.

Camp CL, Conte S, D’Angelo J, Fealy SA.

Epidemiology of Ulnar Collateral Ligament Reconstruction in Major and Minor League Baseball Pitchers: Comprehensive Report of 1429 Cases.

Journal of Shoulder and Elbow Surgery. 2018.

Erickson BJ, Chalmers PN, D’Angelo J, Ma K, Romeo AA.

Performance and Return to Sport Following Rotator Cuff Surgery in Professional Baseball Players.

Journal of Shoulder and Elbow Surgery. 2019.

Hodgins JL, Trofa DP, Donohue S, Littlefield M, Schuk M, Ahmad CS.

Forearm Flexor Injuries Among Major League Baseball Players: Epidemiology, Performance, and Associated Injuries.

American Journal of Sports Medicine. 2018.

Ahmad CS, Dick RW, Snell E, et al.

Major and Minor League Baseball Hamstring Injuries: Epidemiologic Findings From the Major League Baseball Injury Surveillance System.

American Journal of Sports Medicine. 2014

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