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ランボーの才能(動きやすい格好)

人には、自分で気づかないだけで
一つくらい特別な才能がある。
私の場合、それは平和な社会では
かなり扱いに困る才能だった。
真夏の柏で、バンドTと一本のナイフが、
それを証明してしまった。


今日の弁当

- チリコンカン
- パプリカの麹マリネ
- オクラのハリッサ和え
- ゆで卵の麹漬け


以前youtubeで観た米軍のレーションを試食する動画の影響でチリコンカンが食べたくなった。
チリコンカンはレーションの定番メニューらしい。

そんな料理を弁当箱に詰めたところで、
私はふと昔の戦場での記憶が蘇った。


ランボーの才能

人には誰しも、自分では気づいていないだけで、
一つくらい特別な才能があると思っている。

歌がうまいとか、絵が描けるとか、そういう才能ならいい。履歴書に書けるし、飲み会で披露できるし、うまくいけば副業にもなる。

問題は、ようやく見つかった才能が、履歴書に書いた瞬間、封筒ごと別室に運ばれそうな種類だった場合である。

私の才能は、そこにあった。


動きやすい格好

昔、玩具の設計の仕事をしていた。仕事の関係で、
大手玩具メーカーともかなり仕事をさせてもらっていたのだが、その中に、ある有名な玩具メーカーが主催しているサバイバルゲームサークルがあった。

ある日、上から言われた。
「営業や人脈づくりにもなるから、出てみろ」
提示された選択肢は、接待ゴルフかサバゲーだった。

地獄にも二択があるのだと思った。
私はゴルフを知らない。サバゲーも知らない。
どちらも全く行きたくない。ただ、接待ゴルフよりは、まだ趣味のサークルのほうがましかもしれない。そう思って、私はサバゲーを選んだ。

恥ずかしながら、当時の私は玩具の仕事をしていたのに、サバイバルゲームが何なのかすらよく知らなかった。おもちゃのピストルで、縁日の射的みたいに的を狙うものだろう、くらいの認識である。

しかも長期出張中に、前々日くらいに連絡を投げられただけだった。

「道具はレンタルできるから」
「動きやすい服装でいいよ」

この二行を、私はそのまま信じた。
今思えば、「動きやすい服装でいいよ」は、
かなり危険な日本語である。

七月の真夏だった。

私は半袖短パンで、柏のサバゲー会場へ向かった。
汚れてもいいように、前日閉店前の下北沢の古着屋で安売りされていた、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの白いバンドTを着ていた。

これが最悪だった。

背中と心臓の位置に、いい感じに赤いロゴがある。
丸い輪郭に放射線状の形はまるでダーツの的のようだった。「さぁ、ここを狙ってください」と、服のほうから自己主張してくる。

同じ会社から参加したミリタリーオタクのSさんは、全身迷彩服にプロテクター、ヘルメット、フェイスガード、ゴーグルという完全装備で立っていた。めちゃくちゃでかい電動ガンを持っていて、いつもは製品の品質を守っているSさんが、この日は日本の平和を守っていそうな出立ちだった。

私が着替えすら持ってきていないことに気づくと、
当然Sさんに怒られた。

「戦場にそんな格好で参加するな」

私も同意見だ。バンドTに短パンは同じ森の中でも、どちらかと言えばフジロックのTPOだ。

レンタル出来ると言われても、実際に借りられたのは、ハンドガン、軍手、ゴーグルのみだった。その他は着てきたTシャツと短パンである。RPGの初期装備ですらもう少しましな格好をしているはず。

周りを見渡すと、さすが玩具メーカーの人たちだけあって、全員かなりのフル装備だった。顔が隠れていて、誰が誰だかわからない。それにSさん曰く、
日本最強のサバゲーチームが参戦しているという。

それは、東京マルイのサバゲーサークルである。

東京マルイとは、国内最大級のエアガンメーカーである。早い話が、サバゲーで使う銃や装備をだいたい作っている側の人たちだ。強いに決まっている。自分たちが元締めなのだから。彼らの装備はプロテクターが付きすぎて、迷彩服というよりメタルヒーローだった。

持っている銃も、元は他の人と同じようなアサルトライフルのはずなのに、搭載できる限界までカスタムパーツを後付けしていて、もう原型がわからない。

中でも、HK416D DEVGRUのフルカスタムと言われる銃は凄すぎて型番まで覚えてしまった。
銃口の他に似たような黒い筒が付きすぎて、素人の私にはもうどこの穴から発射されるのかすら想像できない。

参加者は顔見知りが多いらしく、みんなミリタリー談義に花を咲かせていた。取引先同士なので一見穏やかな会話だが、よく聞くと、どんな装備を持っているか、どれだけ知識があるかのマウントの取り合いが、京言葉のような柔らかさで交わされている。

始まる前に簡単なルール説明があった。BB弾が体に当たると、そのゲームでは死亡扱いになり、当たった人は「ヒット」と言ってセーフティーエリアに戻る。判定は当たった本人の自己申告らしい。

私は、あんなフルアーマー状態で当たったかどうかわかるのだろうか? と思った。

その疑問はすぐに解けた。

最初のゲームで、私は速攻で死亡した。
エアガンの威力は、想像の遥か上だった。
めちゃくちゃ痛い。普通にアザができる。

玩具という言葉の中に、こんな暴力が住んでいていいのかと疑った。そりゃあんなギャバンみたいにもなる。

一回目を終えた時点で、本気で来たことを後悔した。
しかし、ここから私の謎の才能が開花する。


サバゲーは脚力

続いて行われたのはフラッグ戦だった。相手陣地にあるフラッグ、というか押しボタンを押したら勝ち。ただ、互いの装備が充実している場合、撃ち合いが長引いて結局時間切れになることが多いらしい。

結果から言うと、そのゲームでフラッグを取ったのは、まさかの私だった。

初戦の痛みがトラウマになり、私は絶対に当たりたくない一心で、潜伏に全神経を集中した。

さらに私は、子どもの頃から東京のくせに妙に自然が多い日野市の山を走り回って育っていた。大人になっても、山道を普通に全力疾走できるくらいの脚力だけは残っていた。

参加者の多くは、銃を撃つ為にここに来ている。
私は、早く終わらせるためにフラッグへ走っている。

なんなら走るのに邪魔だから、銃はトンファー みたいに逆手に持っていた。銃口は常に後ろを向いていた、そもそも打つ気がない。

一人だけビーチフラッグをしている。
種目が違うのだ。

普通、初参戦でフラッグを取ることはほぼ無いらしい。私がフラッグを取った時の周りの動揺は、今でも忘れられない。

これがビギナーズラックというものかとも思った。
だが、それだけでは終わらなかった。

次はハンドガン戦だった。ナイフアタックあり。使用する武器はハンドガンと、持っている人はラバーナイフのみ使用可。ナイフはゴムの刃の部分を当てればヒット扱い。ただし顔は反則とのことだった。
私は、Sさんの持っていたナイフを借りて参加した。

聞くところによると、ナイフアタックはほとんど成功しないらしい。なんせ皆、飛び道具を持っている。よほど気づかれずに背後から一刺しするような特殊状況でない限り、あってないようなルールだという。

結果として、私は三人ほどナイフで仕留めた。
全員、後ろから。
有識者曰く、見たことがないレベルらしい。

今回の参加者は専門家だらけで、普通のサバゲーよりも数段重武装だった。年齢層的にも、そこまで俊敏に動ける人ばかりではない。

何より、いかに現代の最新兵器で武装し、緻密に作戦を立てようとも、戦場にバンドTと短パンでナイフ一本を持って突撃してくるやたら俊敏な馬鹿は想定していなかったのだろう。

私は目立つつもりはなかった。むしろ、できるだけ早く終わらせたかった。それなのに、その日、完全装備のSさんよりも私の名のほうが知れ渡ってしまった。

周りからは、
「ナイフ一本でそんなに殺した人、見たことがない」
「動きが完全にゲリラ」 
「地元アフガン?」

など、今後の人生で言われることは二度となさそうな賞賛を受けた。

正直、私は戸惑っていた。
これをサバイバルゲームの才能と言っていいのだろうか?

なぜならその日、私は肝心の銃のほうは一発も当たらなかったのである。


才能の使い道

この結果から言うと、おそらく私の能力は、
気づかれないように潜伏して、背後からナイフで刺すという、謎にゲリラ戦へ特化した暗殺スキルなのだ。

なぜ自分にこれほどまで暗殺の才能があるのか、
原因がわからなかった。
ひょっとして、前世はランボーだったりするのだろうか。いや、スタローンはまだ存命である。

私は自分の才能に、やっと気づけた。

だが悲しいことに、平和な現代の日本では、それを生かす術がない。そういう才能も世の中にはあるのだと知った。しかもナイフアタックも、今は怪我防止のため、ほとんど禁止になっている場所が多いらしい。

才能が見つかった瞬間、もう規制対象である。

よく少年漫画や、マーベルのヴィランで、戦闘マシンとしての能力を持ってしまったのに、平和な社会になじめず、犯罪を犯すキャラクターがいる。

昔は、物騒な設定だなと思っていた。
今なら少しだけわかる。

才能がある。
でも使えない。
使ったらたぶん怒られる。
収益化の道も見えない。

世の中には、歌って稼ぐ人がいる。
絵を描いて稼ぐ人がいる。
話すことで稼ぐ人もいる。

では、気配を消して背後を取る人間はどうすればいいのか?

私はいまだに、自分の才能の換金方法がわからない。
ただ一つわかるのは、まともな確定申告の項目にはたぶん存在しないということだ。




※弁当とエッセイをまとめた「弁当記録」というマガジンがあります。
今回の文章が気に入った方は、自己紹介と合わせてのぞいていただけたらうれしいです。

自己紹介エッセイ

マガジン|弁当記録

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