自分が好きになった日
その日は、特別なことがあったわけじゃなかった。
晴れてもいないし、仕事がうまくいったわけでもない。
ただ、私はいつものように散歩に出て、川沿いのベンチに腰を下ろした。
春の風が髪を揺らし、川面がきらきら光っている。
深呼吸をした。
「気持ちいいな…」
その瞬間、ふと気づいた。
最近、こうして“気持ちいい”と感じる余裕が、自分の中に戻ってきていることに。
■ 1. 自分を責めなかった瞬間
家に帰ると、洗濯物を取り込み畳んでないことに気づいた。
以前なら、
「なんでこんなこともできないの」
と自分を責めていたはずだ。
でもその日は違った。
「まあ、いっか。」
その言葉が自然に出てきた。
その軽さに、
“あれ、私…前より優しい?”
自分に向けたその優しさが、胸の奥でふわっと広がった。
■ 2. 自分のために選んだ瞬間
ご褒美に一人焼き肉、
帰りに小さなケーキを買った。
誰かのためじゃなく、自分が食べたいから。
家に帰って、紅茶を淹れて、ケーキをひと口。
「おいしい…」
その声は、誰に聞かせるでもなく、ただ自分のためのものだった。
そのとき、私はふと笑った。
“こういう時間、好きだな”
その“好き”が、ケーキでも紅茶でもなく、
その時間を選んだ自分に向いていることに気づいた。
■ 3. 自分を肯定できた瞬間
夜、ノートを開いた。今日の出来事を書きながら手を止めた。
「今日の私は、なんだかいい感じだった」
その一文を書いたとき、胸がじんわり温かくなった。
“あ、これ…私のこと、好きってことじゃない?”
誰かに認められたわけでも、褒められたわけでもない。
ただ、自分の中に芽生えた静かな肯定。
ゆっくりとノートを閉じた。
「私、悪くないな」
その言葉は、今までの人生でいちばん優しい“自己紹介”だった。
私が自分を好きになった瞬間は、
誰かの言葉ではなく、自分の選択と、自分への優しさが積み重なった結果だった。
その気づきは小さくても、確かに私の未来を変え始めていた。
