バルカン半島 食の旅路1
トルコのロカンタで食事をしたことが、思いがけずこの地域の家庭料理への扉を開いた。しかし、そんな店を見つけるのは、思った以上に骨の折れる作業だった。

普段はぱさぱさのパンに、水分も脂も抜け落ちたケバブを挟んだだけのサンドイッチのようなものばかりを口にしている。観光地のレストランで高い金を払ったところで、特別に美味いものに出会えるわけもない。ましてや日陰のテラス席などに腰を下ろせば、コーヒー一杯に5ユーロ(約800円)が飛んでいくのだ。
インド、ネパール、スリランカでは日本の食文化と大きく異なるため食に苦労したが、バルカン半島の煮込み料理は日本人の口にすんなりと馴染む。噛むほどに滋味が広がり、ほっとする味わいである。

北マケドニア、スコピエのVeroCenterには、ビュッフェ形式のフードコート「Full Plate」があった。皿に色とりどりのおかず、ご飯やパスタ、サラダを好きなだけ盛り、レジで量り売りしてもらう。価格は500円から900円ほど。肉料理は少し高めだが、その分しっかりと食べ応えがある。スコピエに八日間滞在したが、バスに乗り毎日のように通った。

ギリシャでも同様の店を探したが、なかなか見つからない。テッサロニキでは滞在も短く、望むような家庭料理には巡り会えなかった。アテネではMonastiraki駅近くに宿を取ったが、観光地ど真ん中で洒落たテラス席の店ばかり。安くて美味しい家庭料理は見つからない。しかし、一駅先のOmoniaで、パンやケーキ、ラザニアや惣菜を並べた店を一軒だけ見つけた。どれも美味しそうで色々試してみたい、こちらの方はどの店も一人前の量が多く、数種類を少しずつ試すといことは難しい。二、三人で来ればもっと楽しめるのだろう。
ギリシャ最終地、イオアニナ。人口12万ほど、パンヴォティダ湖を中心にした静かな街。地方の避暑地のように落ち着いた街だ。
夕方にバスで到着し、翌日にはアルバニア行きのバスを調べながら街を歩く。美味い店を探すが、なかなか見つからない。ChatGPTの情報もGoogleマップに書かれた口コミばかりで、目当ての店は中々見つからない。そこで「家庭料理のうまいタベルナを知りませんか」と、ギリシャ語と英語でメモに残しておいた。機会があれば誰かに聞いてみようと思った。
タベルナとはギリシャの庶民的なレストラン、肉や魚のグリルや煮込み料理を出す食堂や居酒屋のこと。煮込み料理専門の家庭料理の店は「マゲリオ(Mageirio)」と呼ばれるらしい。
街を歩き回っても目当ての店は見つからなかったが、スマホの地図を眺めながら歩いていると、昼間から一杯やっているオヤジが声をかけてきた。「どこを探しているんだ?見せてみろ!」と。その視線には、遠慮のない好奇心が滲む。アジアなら外国人と見るとだれかれ構わずに声をかけてくるが、ヨーロッパに入った途端にアジア人に親切に声を掛けてくる者などまるでいないどころか、その視線に棘すらかんじてしまう。
オヤジにメモを見せると、奥へ引っ込み、奥さんに聞いてくれたらしい。戻ってきてスマホを開き「ここだ」と指を差す。歩いて8分ほどの場所だった。
店の前に着くと、そこそこ客も入り、人気店の雰囲気が漂う。地元の人々が夫婦や家族で時々外食する、そんな雰囲気の食堂だ。昼飯にしては少し値は高めだが、ギリシャの本格的な地元料理をまだ味わっていないこともあり、入ることにした。
Fysa Roufa(タベルナ)

十種類ほどの料理が大きなトレイに並べられ、好みのものを選べる。チキンの煮込みと茄子の煮込みを注文すると、「半分ずつか?」と聞かれ、頷く。一人前ずつにすると、相当な量になるだろう。テーブルクロスの敷かれた席に、温められた料理とパン、水が運ばれてきた。合計で二千円ほど。味も量も、満足のいく昼食だった。

店には入れ替わり立ち替わり、お客さんがやってくる。やはり地元でも人気の店なのだろう。
観光客向けの店か、それとも地元民の店か。その見分け方は簡単だ。観光客はたいてい、テラス席で外の風にあたりながら飲み食いしている。わざわざ店内の席で食事をする者などいない。
だが、この店にはテラス席がない。すべてが室内のテーブル席だけだ。
きっとここは、地元の人々に愛される店に違いない。
ヨーロッパではチップの習慣がある。ChatGPTに訊ねると、2ユーロ置くようにとのこと。カードで支払い、コインをテーブルに置き、店を後にする。
チップ文化には、まだ慣れない。
放浪老人記 GG 2025/10/7
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タイ、インド、ネパール旅の記録
それぞれに連載があります
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