映画感想文:『ビッグ』~コメディだけど心に余韻を残す映画~
子供の頃に、早く大人になりたいと願ったことはないだろうか。
ある日、ジョッシュは家族とともに遊園地に出掛け、憧れの女の子を見かける。怖がらずにジェットコースターに乗り、格好いいところを見せようと意気込むが、係の人から身長が足りないと門前払いされてしまう。
失意のジョッシュは、願い事を叶えるゲーム機に向かって願いをかけた。
”I wish I was big.”
ゲーム機の中の人形の目が赤く光り、機械仕掛けの口が不気味に開閉する。その後、「願いは聞き入れられた」と書かれた紙きれが出てくる。
翌朝、朝食の準備をしている母親が、「早く起きないと学校に遅れるわよ!」と階下から大声で叫ぶ。いつもどおりの朝だ。嫌々ベッドから起きだし、洗面所の鏡に映る自分の姿を見て、ジョッシュは愕然とする。これはいったい誰だ??
この映画は、一夜にして大人になったジョッシュが、唯一それを信じてくれた親友ビリーの助けを借りながら、元の姿に戻るために奔走する話である。(作品情報については、こちら)
以下、私の超個人的な見解に基づいて、この映画の見どころを紹介したい。ネタバレありまくりです。
見どころ① トム・ハンクス
大人になったジョッシュを演じるのは、トム・ハンクス。当時32歳。若い。親友のビリーとじゃれ合って遊んだり、大人たちとの会話でおかしな発言をしたりするするのだが、見た目は大人なのに中身は子供というチグハグ感をうまく表現している。この映画を観ている側が、この設定を疑わずにストーリーに入っていけるのは、トム・ハンクスの表現力のなせる業だと思う。
見どころ② 誰もが笑顔になってしまうシーン
大人になりたいというジョッシュの願いを叶えたゲーム機の所在を探すため、役所を訪れた2人。だが、関連資料を取り寄せるのに6週間かかるといわれてしまう。その間を食いつなぐため、ジョッシュはおもちゃ会社に入り、働き始める。
ある休日、おもちゃ屋に入ったジョッシュは、偶然、会社の社長と出くわした。店内にあるおもちゃについて、率直で子供目線(中身は子供だから当然)の意見を社長相手にもためらいなく話すジョッシュ。
ふいに、床に広げてあったタップピアノを踏んでしまい、足元で音が鳴る。ジョッシュはふむと少し考えてから、ある曲の伴奏パートを演奏し始める。その伴奏に合わせて社長がメロディ部分に参戦。そして、途中から二人でメロディを見事に合わせて最後まで演奏する。
この曲は、「Heart and Soul」という1938年に発表された曲で、アメリカ人にとっては昔懐かしいメロディのようだ。
一人、また一人と立ち止まり、周りにはいつしか人だかりができる。曲が終わったときには、大人も子供もみんな笑顔で、わっと拍手が起きた。
この場面、練習が大変だっただろうなあ、と微笑ましくなってしまった。やっている本人たちも、真剣にやりながらも楽しんでいるのがわかるし、やり終えた後の安心したような、やったぜ!というような表情は、きっと演技ではなく本心からのものだろう。
この映画の有名なシーンである。
見どころ③ 大人になるということは…
会社では、前項の社長とのやりとり以降、子供の視線からのコメントやアイデアが評価され、あれよと出世し、高給取りになったジョッシュ。次第に大きな仕事を任されるようになる。
そんな中、ゲーム機の所在を示す資料を手に入れたビリーがジョッシュのオフィスを訪ねてくるが、ジョッシュは重要なクライアントとの電話の最中。今は話す時間がないから、あとにしてくれというジョッシュ。でも、これ(ゲーム機を探すこと)は大事なことだと食い下がるビリーと言い合いになる。
Josh: You don’t get it, do you? This is important! (わからないのか、(この仕事は)大事なことなんだよ!)
Billy: I’m your best friend. What’s more important than that, huh? (僕は君の親友だろ?親友より大事なものって何だよ?!)
[Turns to leave]
Billy: And I’m three months older than you are, ASSHOLE!” (それに、僕は君より3カ月年上なんだよ!) ※()内は筆者の仮訳
大人になるにつれて、大切なものが増えていく。それは悪いことではない。でも大切なものの数が増えれば、その全てを一様に大切にすることは難しくなる。当然、優先順位を付けざるを得ない。では何を一番にもってくる?それは時と場合によって変わる。リストの順番は常に複雑に入れ替わる。
思い返してみると、親友よりも大切なものなんて何もなかった時代が、私にもあった。そのことに思い至り、ビリーのこの一言にはっとさせられる。
見どころ④ ラストシーンに重ねるもの
ラストシーンで、ジョッシュはエリザベスに別れを告げる。何度観ても胸にじんと沁みるものがあった。子供の頃には誰しもが持っていた純粋な心。それは経験を積み重ね、人間関係のあれこれを学ぶことと引き換えに、多くの人が失ってしまいがちなもの。一番大切なものを一番大切にして生きていたあの頃を懐かしく思い出し、遠い日々が戻らない切なさに胸が震える。
ジョッシュとかつて子供だった自分を重ねながら、いつのまにか、幼い我が息子の10年後の姿にも重ねている。こうなると、最後に、子供に戻り、エリザベスを振り返るあどけない少年の姿が、愛おしくてたまらなくなる。ラストシーンに思わず流れた涙の理由は、実は私の我が子への愛おしさだったんだと気付く。
あれからジョッシュはどんな大人になったのだろう、とエンドロールが流れる余韻の中で考えた。そして、我が子はこれからどんなふうに大きくなっていくのだろう。
***
この記事を書くために、いろいろなページを参照する中で、この映画についてこんなレビューを見つけた。
「この映画は、子供の頃に観たときは、子供であることを十分に楽しめと教えてくれた。そして大人になったいまは、自分の中にいる子供の声によく耳を傾けろと教えてくれる。」(出典:https://www.youtube.com/watch?v=CF7-rz9nIn4)
うまいこと言うなあと思った。
