映画評:『キャント・バイ・ミー・ラブ』~すっきりと前向きな気持ちになる映画
昨晩、ベッドに入る前に、軽くて気持ちがあがるような映画が観たいなあと言ったら、夫が選んでくれたのが『キャント・バイ・ミー・ラブ』。
私の夫は、大の映画好きで、これまで観た映画は数知れず。すごいのは、それらをことごとく詳細に記憶し、どこが良かったとか、どの俳優がその後どうキャリアを伸ばしていったかなど背景事情にも詳しい。
今日は、こんな感じの映画が観たいなあとリクエストすれば、ネットフリックスなどから適当に選んできてくれる。そして、彼が推す映画はだいたいはずれがない。今から紹介するこの映画も、鑑賞後にすっきりと前向きな気持ちになれる、おススメの作品である。
あらすじと感想
冴えない高校生の主人公ロナルドが、みんなの憧れの女の子シンディの窮地を救い、見返りとして1カ月だけ付き合ってもらう。それによって、「イケてる男子」的な地位を築いていく話。
オタクでもてないロナルドは、かねてから人気者グループの側へいきたいと思っていた。アメフト部の体格の良い男子たち、チアリーダーのかわいい女子たち。きらきらしている彼ら、彼女らにどうしたら近づけるかと考えていた。
ある日、ロナルドは、ショッピングモールでシンディを見かける。彼女は、無断で母親から拝借した真っ白のドレスに大きなワインの沁みを作ってしまい、クリーニング店でその沁みはもう消せないといわれ、途方に暮れていた。ロナルドは、瞬時に良いアイデアを思いつく。シンディが新しいドレスを購入するお金を用立てる代わりに、1カ月自分と付き合うフリをしてくれ、というのだ。それは、人気者グループに加わるための作戦だった。
その作戦は実にうまく運び、その1カ月の間に、ロナルドは徐々に人々に受け入れられ、人気者への階段を駆け足で上っていく。1カ月の約束が終わり、シンディと別れたフリまでしても、その人気は衰えることがなかった。
自分が高校生だった頃を思い返してみると、教室の中は、グラデーションのように色分けされていたような気がする。勉強ができたり、スポーツが得意だったり、明るくて話が面白くて、みんなの人気者のグループがいれば、声が小さく、存在感が薄く、どことなく地味なグループもいた。誰に教えられたわけでもないのに、当時は、そんなことで形作られる階級のようなものがあって、その中の自分の立ち位置を認識しない人はいなかった。
こういう事情は、古今東西、どこの国でもたいして変わらないらしい。
この映画では、高嶺の花のような存在の女の子と付き合っているように見せることで、周囲が簡単にロナルドの株を上げていく様が見ていて面白い。そして、ロナルド自身も、最初は挙動不審で自信がなさそうだったのに、徐々に自分を開花させていくところに、多少飛躍は感じるものの、彼自身の変化としての継続性がある。途中から、ロナルドって結構格好いいじゃない、と思い始めている自分に気付く。映画の中の大勢の一人のように。人への評価は、本質よりも、案外見え方や他人の見解によって簡単に影響されるものかもしれない。
シンディのお陰で人気者になったロナルドだが、その実は、本来の自分を完全に塗り替えて、人気者ロナルドを演じ続けていた。本人としては、周囲の期待に応えようと頑張っていたのだろうが、その結果大切な人を傷つけてしまう。
ある日、シンディが真実を暴いたことで、彼の人気は一夜にして無に帰すことに。人気を博している間、冴えないグループの仲間たちをおざなりにし、人気者グループの一員としての地位を失いたくないがために、本当の友達にひどい仕打ちをしてしまったりしていたので、真実が明らかになると、学校中から総スカンを食らうことになってしまう。教室に一緒に歩いていく人もいない。昼ご飯を一緒に食べてくれる人もいない。残酷なまでに掌を返して、ロナルドの存在を無視する人々。
ある日、オタク仲間のケニースが、カフェテリアでチアリーダーの女の子に勉強を教えていた。イケてる人たちに囲まれて、楽しそうに談笑するケニースは、第二のロナルドの存在を彷彿とさせる。そこへ、アメフト部の男子が歩み寄り、ケニースの胸ぐらをつかむ。彼の言いたいことは、「”そっち側”のやつが、”こっち側”に来るんじゃねえよ!」ということだ。
木の陰に座って一人でランチを食べていたロナルドは、その様子を見るや、すぐにバッドを片手に二人の間に割りこむ。ここでのロナルドのスピーチが、この映画のエッセンスであり、主要なテーマである。
“Nerds, jocks. My side, your side. Man, it's all bullshit. It's hard enough just trying to be yourself. I know cause I messed up. I tried to buy my way in. But Kenneth, he's not trying to buy anybody, he's just trying to make friends; being himself.”
「そっち側」も「こっち側」もない、ただ自分自身でいればいい。ユニバーサルなメッセージ。言葉で言うほどたやすくない。人生の大半は、人間関係で形作られる。周囲の人たちとのコミュニティの中で、自分のキャラクターや役割を意識的に、あるいは無意識に認識し、それを「演じて」いないか。いつも本当の自分でいられているか。思春期の年代だけではない、すべての人にこの映画は問いかけている。
この映画のヒロインであるシンディは、かわいくて、優しくて、人気のチアリーダー部の部長を務める「もてる女子」の典型であるが、最初からロナルドの本当の魅力に気付き、最後には人気者のステータスから転落したロナルドと本当に付き合うことにする、という描き方もいいなと思った。他人の評価に左右されず、人の本質に目を向けることの大切さを改めて思う。
軽いタッチの青春映画ではあるけれど、しっかりと作者のメッセージが込められた作品である。
