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海を渡ってきたわたしを、家族と呼んでくれた人

夫の携帯が鳴って、私は胸がドキンとした。

夫はその電話に出ながら、私と子どもたちから離れて歩き出した。私たちは、ホテルの近くに見つけた日本庭園を散策しているところだった。歩いていく夫の後ろ姿を見つめながら、私は今回が「その連絡」に違いないと予感した。何も知らずに、好奇心に任せてあちこち走り回る子どもたちを横目で見守りながら、夫の後ろ姿を目で追った。

短い通話の後に、夫が私を振り返り、「少し時間をくれ」というように片方の手の平を開いて私に向けた。その顔はくしゃくしゃになっていて、遠くからでもいまにも涙がこぼれそうになっていることがわかった。やっぱりそうだったんだ。義父が亡くなったんだ。

夫の痛いほどの哀しみを感じて、私は動けなくなった。生と死のサイクルを、気が遠くなるほど果てしなく繰り返してきた大きな循環の中で、私も夫も、そして義父も、一人残らず誰もが無力であることをぼんやりと考えた。動かしようのない死という現実の前に、どうすることもできない。

子どもたちが、向こうの松の木の陰に夫の姿を見つけ、「パパー!」と叫びながら走り出した。もう少し夫に時間をあげるために、私は子どもたちを呼び止めたのだが、子どもたちは構わず走り去り、向こうで息子が夫に抱きあげられるのが見えた。父の目に残った涙を、息子はなんとも思っていない様子で、熱心になにか語りかけていた。

夫の顔を見たら、私も涙が止まらなくなった。さっきの電話は、義父に寄り添っていた義兄からだった。義父は、義兄に手を握られながら、最期の瞬間を静かに迎えたということを、夫が話してくれた。良かった。その瞬間が苦痛に満ちたものでなくて。静かで温かい時間であったことを、誰にかわからないけれど、感謝したい気持ちだった。

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義父のことを思い出すとき、真っ先に頭に浮かぶエピソードがある。

まだ夫と結婚する前のこと。夫の両親とは、結婚式を挙げる一週間前に初めて会って挨拶をした。それから式までの間、ずっと夫の実家に滞在させてもらっていたのだが、あるとき、夫の両親と夫と私の4人で、レストランで食事をした。それは、義父のお気に入りの美術館の中にあるレストランだった。吹き抜けの天井が驚くほど高くて、大きな窓から光が差し込み、開放感に溢れていた。昼どきで、テーブルを待つ人たちが列をなしており、私たちもその最後尾に並んだ。だが、じっと待つことが嫌いな義父は、順番が回ってくるぎりぎりまで、近くの展示を一人で見て回っていたっけ。

食事を終えて、お会計は義父が済ませてくれた。みなで立ち上がってテーブルを後にするとき、私は食事のお礼を言った。すると義父は、私の顔を真っすぐに見て、にこりとしながらこう言った。

"You're my family." (君は家族なんだよ。)

あのとき、私は、この一言に本当にじんときてしまったのだ。一人で渡米して、アメリカ人の夫と結婚しようとしていた私が、心の隙間に感じていた一抹の心細さを一瞬にして消し去るほどの、温もりのある言葉だった。出会ってまだ間もなかった私という存在を、なんの値踏みもなしに、なんの条件も付けず、そのまままるごと受け入れてくれたような気がした。

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義父には信仰する宗教がなかった。というより、無宗教であることに厳格な人だった。だから、義父の死を弔う方法は、生前の本人の意思と義母の想いとで決める。お葬式もしないし、お墓も作らない。これは、生前に義母との間で話し合っていたらしい。火葬した後の骨と灰をどうするかは、義母がこれからゆっくり考えるとのこと。

夫は、義父が生前に長年そうしていたように、家の中で白い布靴を履いて暮らすようになった。決まったメーカーの、決まった色の靴。義父は、古くなったら全く同じ靴を新しく買い替えて、何十年も同じ型の靴を履き続けてきた。我が家に遊びに来るときも、いつもその白い布靴を持ってきて家の中で履いていたことを思い出す。お墓や仏壇のように、義父にかかわる記憶を呼び起こす象徴的なものがないけれど、いや、だからこそなのだろう、夫は夫なり方法で、義父の面影を日々の中に残そうとしている。

それからもう一つ。夫は、かつて義父が父親としてしてくれたことを、自分も子どもたちにしてやりたいと考えている。そうして義父の一部を自分の中に受け継ごうとしているのだと思う。ユーモアがあって、面白くて、優しくて、賢くて、生きる術を心得ていて、大切なこともくだらないことも教えてくれる。

私は、こうして書いて残し、時々読み返してみることで、義父にかかわる記憶をいつまでも心に留めたいと思う。幼い子どもたちには、義父との思い出は残念ながら多くは残らないだろうから、私の目を通した義父の追憶を、いつか子どもたちにも話してやりたい。私たち家族の記憶として。

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